大いに評判となったビョーク(björk)6年ぶりの来日公演。音楽ライター・新谷洋子による3月28日のレポートをお届けする。【画像を見る】ビョーク来日公演 ライブ写真(全30点)例年より早い桜の開花と共に、ビョークが6年ぶりに来日。3月20~31日の間に、『orchestral』と『cornucopia』と題されたそれぞれに趣向の異なるコンサートを2公演ずつ行ない、ライヴ・パフォーマーとしてのスケールを改めて見せつけた。このうち『orchestral』では32人編成のストリング・オーケストラと彼女のヴォーカルだけでグレイテスト・ヒッツ的なセットを披露し、“ビョーク・アンプラグド”と呼ぶべきスタイルをとったのに対して、『cornucopia』は2017年11月に発表したアルバム『Utopia』にフォーカスし、アルバムの世界をステージの上に表現。計20曲のセットの半数が同作の収録曲によって占められ、自分が描くユートピアそのものをテクノロジーとイマジネーションを駆使して作り上げた、と言うべきなのかもしれない。結果的には、40年近くにわたるキャリアを振り返っても過去に例のない、『Biophilia Live』以上にコンセプチュアルで、かつ極めてシアトリカルな試みとなり、我々オーディエンスは2時間にわたってその非日常空間に完全に没入したのである。
Photo by Santiago FelipePhoto by Santiago Felipeそもそもビョークが、『Utopia』で重要な役割を担ったフルート、エレクトロニクス、パーカッションという編成で、シンプルに『Utopia Tour』と題されたツアーをスタートしたのは2018年4月のことだ。以後4カ月間に11公演を行なったのち一旦休止し、翌年5月にその進化形として『cornucopia』をニューヨークにてローンチ。新たにアルゼンチン人の映画作家ルクレシア・マルテルを監督に迎え、デジタル・アーティストのトビアス・グレムラーによるデジタル映像、バルマンのオリヴィエ・ルスタンらが用意した衣装、英国の演劇界で活躍するキアラ・スティーヴンソンによるセット・デザイン、アイスランド人ダンサーのマルグレット・ビャーナドッティルによる振付で、マルチメディア・スペクタクルへとスケールアップさせたのである。
その後2019年内に21公演、パンデミックを挿んで2022年初めに5公演を行ない、ここにきていよいよ日本に上陸した『cornucopia』。この間に最新作『Fossora』をリリースしたことでさらにアップデートされ、同作から2曲(「Atopos」と「Ovule」)がセットに加わった。日本初演にあたる28日、開演前の東京ガーデンシアターのステージを覆うスクリーンにも『Fossora』のジャケットの延長にあるヴィジュアルが映し出され、『Utopia』にフィーチャーされた鳥たちのさえずりが響き渡り(フランス人の鳥類学者ジャン・C・ロシェによってベネズエラで採集された)、ふたつのアルバムの世界が交錯している。