サマラ・ジョイが語る「歌声の秘密」 ジャズボーカルの新星が夢を叶えても学び続ける理由

 
過去の名曲から新しい「何か」を生み出すために

―ところで「Round Midnight」なんですが、バーニー・ハニゲンの歌詞とカーメン・マクレエが歌っていた2つのバージョンが有名ですけど、ベティ・カーターはそのふたつとも異なる歌詞で歌っていますよね?

サマラ:え、そうなの? 私が知ってるのは黄色い丸いレコードだけど……

―その黄色い丸いジャケのやつです。聴いたことのない単語が入ってくるんですよね。

サマラ:聴きたい!



―(iPhoneで再生)

サマラ:これは聴いたことがない。とてもステキね! 歌詞は誰が書いたんだろう?

―僕も調べたんですが、よくわかりませんでした。

サマラ:ベティはこういう曲を何曲か書いていた気がする……今ちょっと探してみたけど、見つからなかった。きっと彼女かもしれない……ワオ、美しい曲!

―こんなに複数の歌詞が存在する有名な曲は珍しいと思うんです。どうして「Round Midnight」に新しい歌詞を書きたがる人が、少なくとも3人もいたと思いますか?

サマラ:セロニアス・モンクの作曲で、この曲はもともと歌詞がないことが前提だったんだと思う。彼がとても美しいメロディとコードを書いたから、みんなが惚れ込んで歌いたくなっちゃったんじゃないかな(笑)。少なくとも私はそうだった。曲は1940〜50年代に作られているはず。それが今でも聴かれているのは、全く色褪せていない優れた楽曲であることの証。どんなジャンルであっても、良い曲は語り継がれていくんだと思う。


Photo by Eiji Miyaji

―あなたもオリジナルの歌詞をつけることで、昔の名曲に新たな解釈を施してきたわけですよね。既存の曲からストーリーやエモーションを取り出し、歌詞を付けて、それを自分らしく歌う、というのは自分にとってどんな作業なんですか?

サマラ:正直なところ、曲をしっかり聴くことが一番重要。これは(通常の)作曲とは異なる手順だと思う。作曲では何度も弾いて、リハーサルをして手直ししていく。私が今やっていることは、曲を探して既にできあがっている曲を自分のものにしていくこと。与えられたピースを組み合わせていくっていう感じと言えるかも。

だから、まずは曲を聴く。それを違うテンポで聴いてみたりするとアイディアが浮かんでくることもある。こんなふうに演奏したらどうだろう、ベース、ドラムの構成、ピアノが一緒に入ってきたらーーっていうように、すべて実験的なプロセス。

私が作詞をする時は……これは今以上に作詞をするようになったら答えるべきかな(笑)。そうなるとプロセスも少し変わると思う。誰かの言葉じゃなくて自分の言葉を歌うわけだから、「何を伝えたいか」のメッセージについて慎重に考えないといけない。もちろんハーモニーが歌詞に合っているかどうかも。つまり、今の私は既存の曲を聴いて、そこから湧いてくるインスピレーションを元に新しいものを生み出しているってこと。

Translated by Kyoko Maruyama, Natsumi Ueda

 
 
 
 

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