この映画がヤバい──FBIと当局が「テロ攻撃を助長する」と警告した作品 米

映画『How to Blow Up a Pipeline』のジェイミー・ローソン(左)とサーシャ・レイン(右)(NEON PICTURES)

ローリングストーン誌は米FBIが2023年4月初頭に出した警告文を入手。それによると、架空の物語を描いた映画『How to Blow Up a Pipeline(原題)』が、現実世界でエネルギーインフラへのテロ攻撃を助長するかもしれないというのだ。

【動画を観る】FBIが内容に警告を発した映画の予告編

国内最高法執行機関の内部通知を含め、連邦・州あわせて少なくとも23機関――まさにアルファベットのオンパーレード――が35以上の文書を発布し、商業映画が全米の化石燃料インフラに脅威をもたらすと警鐘を鳴らしている。映画の公開以降、全米に石油や天然を運搬してアメリカ人の生活を支え、地球をじわじわと温暖化する巨大パイプライン網への攻撃は今のところないようだ。

「危険分子が映画に着想を得て、爆発物やその他破壊装置で石油ガスインフラを狙う可能性がある」と書かれたFBI大量破壊兵器部の4月6日付内部文書は、警察、政府、その他インフラを反故する関連各所にも配布され、疑わしい行動に目を光らせるよう職員に呼びかけている。FBIはそうした行動の例として、インフラ施設への侵入を図る人物から、カメラや録画装置の不自然または意味のない使用、インフラ業務に探りを入れる目的でのスケッチやメモ取りにいたるまで、多岐にわたる事例を挙げている。

それから2週間あまり、約3年前に出版された同名ノンフィクション小説を脚色した映画『How to Blow Up a Pipeline』が危険だという警告が次々発せられた。

アルコールたばこ火器局(ATF)の警告はFBIよりもずっと曖昧だ。「法執行機関や民間石油業界の統一見解として、この映画は全米の重要インフラに対する攻撃や破壊行為を促す可能性がある」と書かれた3月21日付のATF内部通知は、今月に入ってから各方面に回覧され、ローリングストーン誌の手にも渡った。具体的な脅威については記載されていない(情報サイトInterceptの報道によれば、カンサスシティ地域融合センターも先ごろ警告を発布した)。

インフラ攻撃は現実に発生している。司法省によれば、12月にワシントン州の変電所が攻撃を受け、数千世帯が停電して300万ドルの被害を出した事件で、男性2人が1月に逮捕された。だが、架空の映画に触発されて実際に攻撃を起こす陣源がいるという推測は信じがたい。パイプライン等のインフラ保護を担当する政府高官も、「パイプライン攻撃をもくろむ人間は、映画に触発されなくとも攻撃する」と言っている。

実際のところ、『How to Blow Up a Pipleline』はパイプライン爆破方法を伝授しているわけではない。そのことは、メリーランド州調整分析センターのテロ対策部に従事する大量破壊兵器上級分析官も、4月14日付のメールで指摘している。

「明らかに、この映画は装置製造を手ほどきしているわけではなく、むしろ過激化するまでの経緯や、主人公が攻撃を実行する理由に重点が置かれている」と、その分析官は「パイプラインの爆破法――手製爆弾の観点から見た映画評」と題した内部文書で記述している。

ボルティモアまで映画を見に行った時のことについては、「私も山のようにメモを取った(不穏な動きを見聞したと誰かに通報される確率70%)」とも書いている。

『How to Blow Up a Pipeline』のダニエル・ゴールドヘイバー監督は映画について、「石油パイプラインの破壊が自己防衛だと考える8人の登場人物を描くことで、現代社会でもっとも差し迫る問題を取り上げたフィクション作品だ。観客が強い親近感を抱いていることからも、気候変動危機の重大さを物語っており、早急な対処の必要性を強調している」とローリングストーン誌に語った。

ゴールドヘイバー監督は、当局が映画の危険性に警鐘を鳴らしていることについてはコメントを控えた。

Akiko Kato

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