安斉かれん『ANTI HEROINE』レビュー、J-POPと欧米サウンドの摩擦が生んだ極上ポップス

安斉かれん

令和元年の5月1日にavexよりデビューを果たした安斉かれんが、2023年3月29日に、1stアルバム『ANTI HEROINE』と『僕らはきっと偽りだらけの世界で強くなる。』を2枚同時リリースした。『ANTI HEROINE』はUKやUSからトップ・プロデューサーを迎え、ハイパー・ポップ、ドリーム・ポップ、レトロ・ポップなどブランニューな極上ポップスを展開。一方『僕らはきっと偽りだらけの世界で強くなる。』は、デビュー時のサイバーパンクとY2Kを先取りしたサウンドと世界観をコンパイルしたヒストリカル・アルバムとなっている。

ドラマ『M 愛すべき人がいて』の主演女優(アユ役)を演じるなど様々な活躍を見せる彼女の1stアルバムを、書籍『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』の著者・つやちゃんがレビューする。

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浮足立ったJ-POPとエッジィな欧米サウンドが交差したいびつな音楽

安斉かれんがファーストアルバムとなる『ANTI HEROINE』をリリースした。『僕らはきっと偽りだらけの世界で強くなる。』とのアルバム同時2枚ドロップ(!)なのだが、本稿ではとりわけ『ANTI HEROINE』について論じたい。というのも、これがやけに面白い作品になっているからだ。率直に言うとヘンテコなアルバムで、いくつかの曲は中毒のように何度も聴いてしまう。それは恐らく、摩擦を起こしている作品だからではないか。時にすれ違ったり、時に滑ったり、時にぶつかったりしながら、忙しなく浮足立ったJ-POPとエッジィな欧米サウンドが交差し、いびつな音楽として成り立っている。



エッジィな欧米サウンドなるものを鳴らしているのは、クセのあるクリエイターたち。キャロライン・ポラチェック等のプロデュースを手掛けるダニー・L・ハール、スコットランド・グラスゴー出身エレクトロ・バンドのチャーチズ、ラウドロック・バンドPaleduskのギタリストDAIDAI、AdoのプロデュースでおなじみのTeddyLoid&Giga、レーベル・ササクレクト発のmaeshima soshi+OHTORA、そして説明不要のチャーリーXCXなど。しかし、だからと言ってこのアルバムは決してただのハイブロウでハイセンスなだけの作品ではない点が面白い。むしろ、非常に俗っぽい。ここには、軽薄なキメラ・ミュージックとしてのJ-POPの“わけのわからなさ”が散りばめられている。なぜそんなことが可能かというと、安斉かれんがきちんと自分らしさを出しているからだと思う。やりたいことをめいっぱい無邪気にやって遊んでいるのが伝わってくるし、そのちょっとズレた愛くるしい安斉かれんの感性と尖ったクリエイターたちの才能が掛け合わさった結果、自由奔放な表現が生まれている。

ちなみに、安斉かれんはこれまでに多くの曲をリリースしているが、あなたはその音源を聴いたことがあるだろうか。彼女は、アルバムコンセプトにおいて次のようなステートメントを綴っている。

安斉かれんって知ってる?
じゃあ、かれんの音楽、知ってる?
アタシ『に』歌なんて、必要ないのかな?
アタシ『の』歌なんて、必要ないのかな?
どうせ、アタシなんて……
またそれだ。
「どうせ」ってセリフを謙遜じゃなく
逃げ場にしちゃってる系。
悲劇なんて普通に転がってる。
自分くらいは自分の
リアルを生きるしかなくない?
安斉かれんなんて知らなくていいから
アタシの本性=音楽を知ってよ。

本人自ら「かれんの音楽、知ってる?」と問いかけるメタ演出が混乱を呼ぶが、このような調子で、ステートメントの時点から早くも彼女特有の独特なコミュニケーションは始まっている。本アルバムにはいくつかの曲に対して世界観を反映したVisualizerが公開されているが、既発曲のMVの映像も合わせて、その中から特に個性的な3曲を紹介したい。

Rolling Stone Japan 編集部

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