Yaffleが語る、世界との向き合い方「同時代の音楽と競っている感覚はあります」

チョンマゲを生やすか、脱臭するか

―『After the chaos』はかなり聴きやすい部分と音響的にこだわった部分が同居しているように思いましたが、そこはYaffleさんのポストクラシカル観とも関係している?

Yaffle:部分的に曲の中にもフリとオチがあります。人間がいいと思うオチってそんなに種類はないけど、フリの種類は無限にある。そして、フリを汚くすればするほど、最後のオチが綺麗に鳴るのかなと。

―そのフリとオチは世界共通だと思いますか?

Yaffle:何がフリで、どれをオチと思うかは(聴く人が共有する)文脈にもよるけど、基本的には世界共通だと思います。実際には「世界」なんて文脈はなくて、ローカルの組み合わせみたいな感じなんでしょうけど。

―とはいえ、Yaffleさんは国内の市場=ローカルだけに向けて音楽を作っているわけでもないですよね。

Yaffle:逆に「ローカル全振りで曲を作ってください」って言われる方が難しいですよ(笑)。自分は敢えてやらないのではなくて、できないと思うんです。意図的にグローバルなものにするのではなくて、自分自身の志向がそうなので、そこ(国外)にある程度は拾われる素地があったらいいなって感じですね。

―様々な場所で聴かれるための工夫を意図的に入れているわけではない?

Yaffle:それって例えば、外国人と仲良くするためにチョンマゲを生やすべきか、逆に(日本人らしさを)脱臭してグローバル人材化するか、みたいな話だと思うんですよね。確率論でいえば前者のほうがウケそうな気がしますけど、僕にはたぶん前者はできない。邦楽の家元とかに生まれてたら違ったのかもしれないけど、三味線が今の東京を代表しているとは思えないし、ギターの方が身近でしたからね。

そういう意味で、脱臭しようとはしています。瀧廉太郎チックな要素は極力入れないようにしていて、そういう部分がもし見えたら、なるべく消すようにしています。それでもゴリゴリに残っちゃっているところは、自分のアイデンティティだと思うことにしようと。今回のアルバムはレイキャビクで制作しましたが、そういう外的要因に頼って自分を脱臭していくのは僕の志向としてあるのかもしれないです。


Photo by Kazushi Toyota

―このアルバムの曲をふと街中で聴いたとき、日本人が作った作品だと気づく人は少なさそうですよね。

Yaffle:そこがトラックメイカーのいいところだと思います。シンガーはどうしても母国言語の縛りが強いけど、僕らはその歌声をアタッチメントみたいに変えられるので。自分で歌わないことのハンディも大きいけど、その分だけ面白みがあるというか。

ただ今作でいうと、歌詞世界のコントロールに関してはかなり気をつけました。ボーっとしているとコンピレーションみたいになりがちなんですよね。僕が歌詞を書いたわけではないけど、ミュージカルみたいな感じでストーリーを最初に考えて、フィーチャリングの歌手にも「こういう内容の世界観で、こういう歌詞を書いてほしい」と伝えて。ディテールはお任せしていますが、統一感は大事にしたかったので。

―誰もがクラシック音楽だとわかるハーモニーを敢えて使っていたり、グラモフォンからのリリースという「縛り」も統一感に繋がっている気がします。

Yaffle:「ドミソ」みたいな三和音を久々に使ったんですけど、こんなに機能するんだなって思いました。あとは実際、自分のパレットにはいろんな色があって、ハウスも作れるし、R&Bやヒップホップもできるけど、そのなかで敢えて「色を絞る」っていうのは大変でしたね。でも、その感覚もアジア的なのかなって気もするので、色を絞ったのも脱臭の一環かもしれないです。例えば、K-POPの曲はトラップから始まっても、いきなり歌い上げるところがあったりするじゃないですか。僕はあそこを「東アジア安心ゾーン」と呼んでいて(笑)。みんなすぐ飽きちゃって3分も持たないから、曲のなかにいろんな様式を入れたくなるのは、僕たち東アジアの人間が共有する価値観なのかなと思うんですよ。



―出来上がったアルバムを聞き返したとき、どこにYaffleさんらしさが反映されていると思いましたか?

Yaffle:結局、ポストクラシカルみたいにならなかったところですかね(笑)。「自分らしさ」という話でいうと、プロデューサー・タグって概念は衝撃的でした。自分はストリートでない方から音楽に入り、「常に革新的な音楽を作ることで前進すべき」みたいな価値観で育ってきたから、同じようなものを作って、自分のものだと証明するって発想がなかったんですよね。判を押すように自分の作風を繰り返すようになったらおしまいというか。それか、誰かに作ってほしいですね。Yaffle風のトラックみたいなのを誰かが作ってくれたら、それがきっと自分らしさだろうから。

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