Yaffleが語る、世界との向き合い方「同時代の音楽と競っている感覚はあります」

ワールドトレンドへの意識の持ち方

―普段J-POPをプロデュースするうえでも、日本以外の国を意識することはありますか?

Yaffle:同時代性は担保しようと思っています。マーケティングのことはわからないけど、日本の文脈の再生産みたいなことはやめようとも思っています。僕が心がけているのは「自分のなかで一歩前へ」ということ。あくまでポップスの尺度ではありますけど、現代性や革新的なテーマが内包されているものを作らなければいけないと思うので。ビルボードでもUKやアジアのチャートでもいいんですけど、それらに載ってる曲と同時期に送り出すうえで、胸を張れるようなものを作ろうと心がけています。



―そこでいう「同時代性」ってどういうものですか?

Yaffle:僕はトレンドというものに方向性があると考えていて。ある一定の方向に沿って、木の枝から太い幹へと繋がっていくような感じ。その発想は進歩主義的だし、性善説的でもありますけど、どの国のどのトレンドもそうだと思うんですよ。

ありていに言っちゃえば、レンジ感(音域の使い方)とロウ感(低音域の扱い)ですよね。グレゴリオ聖歌の時代からロウ感は増加の一途を辿っていて、だんだん編成が太くなって三管オケとかになっていき、コントラファゴットやコントラバスーンみたいな(低音域が出る)楽器を作り、バスドラムを経て、今はTR-808まで来ている。エド・シーランが「このままいくとキックとクラップと歌と808だけになる」みたいなことを言ってましたけど、実際にトラップは効率がいい音楽なんですよね。真ん中にコードがないから歌の抜けがいいし、歌の音数が多いからパーカッションを鳴らさなくてもスピード感が出る。下の音域はスカスカだから、808だけ鳴らしておけば低音がドーンと出る。エンジニアの観点でいうと、昔のオケに比べて、明らかに効率よくスピーカーを鳴らせるんですよ。

その感覚をわかったうえで曲を作るのか、そういう方向性を踏まえずに散発的なものとして作るのか。僕が考える同時代性っていうのはそういうことです。アメリカでもアジアでもヨーロッパでも、ここ(東京)にいる自分としては同時代の音楽と競っている感覚はあります。だから、新しいトレンドが出てきたときには意味を求めてしまいますね。これはドラマーに顕著ですけど、各楽器の最新の演奏技術もチェックしています。もっとも、それをJ-POPでやるにはアメリカの翻案だけだと限界があるので、違う方法で考えなきゃいけないのが大変ですけどね。英語と日本語では言語的な倍音の処理が違いますし、そのままやってもしょうがないので。


Photo by Kazushi Toyota

―藤井 風「死ぬのがいいわ」が日本語曲でありながら海外でヒットしたことを、あの曲を手がけたプロデューサーとしてはどう受け止めていますか?

Yaffle:手応えは特にないですね、(発表から2年後に)すごく遅れてヒットしたし。自分のなかで、あの曲はローカルではない方に寄せた構造の曲なんですよ。要するに下がトラップで、上のピアノとメロディは歌謡っぽい。つまり、トラップ+サムシング・ニューみたいな曲なので(海外のリスナーも)受け入れやすかったのかなと。ローカルに寄せたものがバズったら意味がわからないけど、あの曲が彼のなかで一番ハネたのは納得できます。とはいえ、グローバルで当ててやろうと作ったつもりは全くないです。

―海外の市場に日本の音楽を届けることに関して、何か思うことはありますか?

Yaffle:K-POPはノウハウを蓄積して、一定の再現性をもたせることでヒットを重ねてきたわけですけど、今のJ-POPには再現性が全くないですよね。むしろ、「SUKIYAKI」待ちみたいなところがあるじゃないですか。いつか神風が吹いて、何かが起きるのを待つだけみたいな(笑)。そういうものでしかJ-POPはワールドバズを起こしたことがない気がするので、産業としてはどうなんだろうとは思いますよね。

自分のなかでも、日本のローカルヒットを考える脳みそを使っていくと、ワールドトレンドに対する脳が動かなくなっていく感覚があるんですよ。昔はチャンネルを変えればいいと思っていたけど、人間はそこまでうまくできてないみたいで(笑)。もちろん、ローカルでヒットさせるのも大変なことだし、ワールドワイドでちょっとバズるのと、オリコンで1位を獲るのでどっちが難しいかなんてわからない。それに、オリコン上位の人たちも洋楽が好きで、「あの感じでやってみたい」とか考えながら作っていて、そうやって作られたものが日本人の心を捉えているわけじゃないですか。ただ、その先にワールドバズがあるかと言ったらそうではない。日本で上まで登り詰めるのが世界への扉になってないんですよね。輸出を考えるうえではそこが問題かなと。

―Jリーグで活躍したらヨーロッパのサッカーリーグから声がかかる、みたいな。

Yaffle:そうそう、それが健全じゃないですか。活躍すればフックアップされるみたいな。でも現状は、海外で注目されている日本人は逆にローカルヒットが全然なかったりする。だから、もう少しリージョンで固まって産業が作れたらいいなと思うんですよ。「死ぬのがいいわ」の流れはタイから始まったし、K-POPも最初はアジアから広がっていったわけで、アジアの国が共同体として一緒にやっていくのはよさそうな気がしますよね。そこから一緒にスターシステムを作れたら、再現性のあるワールドアーティストみたいな人が出てくるような気がします。

【写真を見る】Yaffle撮り下ろしギャラリー(全5点:記事未掲載カットあり)




Yaffle
『After the chaos』
再生・購入:https://yaffle.lnk.to/Afterthechaos

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