ボカロP・きくおが語る、海外でファンダムを築く方法

「異質な存在で驚かせたい」
Bandcampが一つのきっかけに

―その前にいろいろと時代背景を振り返りたいんですが、まず、きくおさんがYouTubeにチャンネルを作ったのはいつ頃のことでしたか?

きくお:かなり前ですね。登録したのは2006年、今残っている最初の動画が2011年12月に投稿したアルバム『KIKUOWORLD』のクロスフェードです。



―先ほど仰っていたように、この頃のボカロ曲のプラットフォームはニコニコ動画で、YouTubeに投稿してもあまり反応はなかったのではないかと思います。そんな中でYouTubeを活用しようと考えたのはどういう理由だったんでしょうか。

きくお:性格的に良くも悪くも開拓者精神が旺盛な方で。誰もやってないことで盛り上がりそうなものに先に手をつけようという野心は常に強いんです。そのうちの一つでした。

―また、2013年頃のボカロ界隈は「千本桜」や「カゲロウプロジェクト」といったメディアミックス作品が脚光を浴びて、ボカロPが商業的な成功をおさめていく時期だったと思います。ただ、きくおさんはそれ以前からボカロ曲の投稿を始めている。つまり、ボカロPのほぼ全員がアマチュアで、ボカロで曲を作って生計を立てるということにほとんどリアリティがなかった時代から携わってらっしゃるわけですよね。

きくお:まさにそうです。鋭いですね。

―振り返って、その変化を当時どんな風に感じていましたか?

きくお:ボカロを始めた2010年の頃から、自分はプロの作曲家だと名乗ってたんですよ。当時は「ボカロPが金儲けをするなんて何事だ」みたいな感じで叩かれたりもしてました。ただ、ボカロPとしていろんな受注を受けて曲を作ってお金を稼いでいくっていうのも、当時は誰もやってないから先に手をつけておこうと思って。そこからいろんなお仕事の依頼を受けたりして、その路線でも頑張っていたんです。でも、アーティストでやっていこうという考えはなかったです。有名どころは完全に固まっていたので、ニッチな需要を取っていこうと思ったんですよね。作っていく中でマニアックな作風、暗い作風とか極端な作風に変化していって。それをいいと思ってくれる人たちから話をいただいて、それでシーンの隅っこで細々と暮らしていけたらいいなくらいに思ってました。

―当時からボカロシーンの人気やメインストリームのトレンドに乗っかっていく発想はなかったわけですね。その理由はどういうところにあったんでしょうか。

きくお:もともと、たまというバンドがすごく好きで。『いかすバンド天国』という番組で、周りがみんなコテコテなロックバンドの中にすごく異質な存在が入って、それで一気に話題になった。それがすごく格好いいなと思ったんです。だから、メインストリームの人たちと同じことをするより、その中に入ってくる異質な存在みたいな感じで驚かせたいという気持ちがありました。



―さらに遡ると、きくおさんはボカロ以前にも同人音楽などで楽曲を発表していますよね。音楽で生計を立てるという発想はそれ以前からあったんでしょうか?

きくお:そうですね。個人的な事情なんですけれど、そもそも、小学1年生か2年生の頃から、自分は創作をすることでしか社会で身を立てられない存在なんだって確信していて。だから、自分に合った創作表現ってなんだろうって、いろんなことを試したんです。絵もやったしGIFアニメもやったしプログラミングもやった。いろいろやった中でDTMだけが残ったんですね。なので、ネットに曲を発表する以前、最初に曲を作る時からお金にするつもりでやってました。

―「愛して愛して愛して」のMVを公開した2015年頃の体感についても聞かせてください。この頃はボカロシーンが停滞期にあったというか、ニコニコ動画の盛り上がりが少し落ち着きを見せてきた時期だったと思います。そのあたりはどんなことを考えていましたか?

きくお:ボカロ以外にもいろんな受注の仕事を受けたりしていましたね。歌手の方に曲を作ったり、ゲーム音楽を作ったり、あらゆるところに可能性を広げていて。ただ、いろいろやっていく中で、受注の曲を作ることが自分に全く向いてないことがわかったんです。それで自主制作の方に切り替えていったっていうのはありますね。

―わかりました。その上で僕の仮説なんですが、きくおさんがBandcampに音源を置くようになったのが、今考えると伏線の一つになっていたんじゃないかと思うんです。

きくお:面白い。その切り口は初めて聞きました。


きくおのBandcampページ(https://kikuo.bandcamp.com/)

―きくおさんがBandcampをスタートさせたのはかなり前のことですよね。

きくお:そうなんですよ。いつ登録したのかはパッとわからないんですけれど。

―いろいろ調べたんですが、きくおさんは2015年2月9日に「Bandcampで海外向けにDL販売している『きくおミク4』がボーカロイドのカテゴリで人気トップになっている」ということをツイートしています。この時点でBandcampで音源をダウンロード販売しているボカロPは少なかったんじゃないかと思います。

きくお:そうですね。ほぼいなかったし、ボカロリスナーのコミュニティもおそらくなかったと思います。そもそもBandcampになぜボカロ曲が置かれないかって、レーベルが嫌がったんですよ。Bandcampはインディの音楽がすごく多くて、そこに対してアンテナを張っている人たちが沢山いたんですけれど、その中にボカロが来たっていうのが驚きとして捉えられていた。そういう肌感覚はありましたね。

Editor = Yukako Yajima

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