ルエルが語る「成長の過程」で見つけたもの、日本のウィスキーについて歌う理由

 
「成長の過程」で見つけたもの

─日本人としては、特に「JAPANESE WHISKEY」という楽曲がどうやって生まれたのか気になります。

ルエル:ですよね(笑)。今回、絶対に聞かれるだろうなと思っていました。「JAPANESE WHISKEY」というタイトルはPJからのアイデアで、すごくクールな響きだなと思ったのですが、どうやって曲に落とし込んでいけばいいのか分からなくて。そもそも日本のウィスキーを飲んだことがなかったので、まずは試しに飲んでみました。最初は全く受け付けず……どうしたらいいか途方に暮れてしまったのですが、この「美味しくなかった」という気持ちをうまく歌詞にできたらいいんじゃないかなと(笑)。「こういうクールな見た目のウィスキーを味わうことのできる人間になりたいんだけど、実際にはそうなれなかった」みたいな。自分の未熟さを歌にできないかなと思って仕上げていきました。

─“I tried to act like a man but I felt like a child”(男らしく振舞おうとしても、まるで子供のようだった)“I wanted to be what you wanted in me But if I’m being honest I can’t”(君が望む自分でありたかったけど、それは無理なんだ)という部分ですね。僕はこの曲、「男らしさ」や「相手が望む理想像」にとらわれ、生きづらさを感じる状態について歌った曲だと思ったんですよ。

ルエル:ああ、なるほど。確かにそうとも取れますね。ただ、ここでは「男らしい自分」や「相手が望む自分」でありたいという、純粋な願望について歌ったつもりなんです。未熟だから、まだそうなれない自分にもどかしさを感じているというか。「日本のウィスキーが美味しいと思える自分に早くなりたい」という願望についての歌ですね。



─今は「ルエルにはこうあってほしい」「ルエルはこうあるべき」みたいな、人から期待されることも多くてプレッシャーもあるんじゃないですか?

ルエル:それに関しては自分なりに対処法を身につけてきました。みんなから見られている「期待されている自分」と、実際の自分を分けて考えるようにしているんですよ。「ルエル」という一つのブランドを、僕自身がプロデュースしたりプロモートしたりしている感じ。そうすることで、「ルエル」への期待やプレッシャーにリアルな自分が押しつぶされないよう気をつけているんです。

─なるほど。「ルエル」というプロジェクトをチームで動かしているような感じですかね。ちなみに「GROWING UP IS _____」という楽曲がありますが、あなたにとって「成長すること」とはどんなことですか?

ルエル:「GROWING UP IS _____」は、若い恋や失恋、人生の中での試行錯誤など、成長していく過程で起きる様々なエピソードをまとめたコンピレーションみたいな歌詞です。子供の頃は、とにかく失敗することでしか学べないし、成長もできないんじゃないかなと。そういうことを歌っています。

─つまりは「失敗」も「成長」の重要な過程だと。

ルエル:その通りです。



─今作は、例えば「SITTING IN TRAFFIC」「SOMEONE ELSE'S PROBLEM」のような内省的な楽曲や、「GO ON WITHOUT ME」や「WISH I HAD YOU」「MUST BE NICE」のように喪失感について歌う曲が多い印象です。それもやはり「成長」の過程だからでしょうか。

ルエル:そう思います。本当は、歌詞にはこれまで自分が経験したことを反映させたいと思っていました。でも、アルバム制作中はコロナ禍だったこともあって、何か新たな経験をする機会がほとんど失われてしまって。なので、その期間はとにかくたくさん映画を観て、そこから自分が共感できるシーンや台詞、登場人物の行動などを歌詞に落とし込んでいったんです。たとえ実際に経験しなかったことであったにせよ、フィクションを通して自分が感じている「リアル」を表現できたらと思っていました。

─なるほど。どんな映画が心に残っていますか?

ルエル:まず、ホアキン・フェニックス主演の『her/世界でひとつの彼女』には心を揺さぶられましたね。ディストピアの世界でAIに恋をしてしまうという、かなり恐ろしいモチーフなのですが(笑)、美しくもあって。映像面でもリファレンスにしたいと思わせる作品でした。

それからソフィア・コッポラ監督による『SOMEWHERE』。LAの ホテル「シャトー・マーモント」で空虚な日々を送るハリウッドセレブが、エル・ファニング扮する娘と失われた絆を再構築していくストーリーです。人生のピークを上り詰めたにもかかわらず、自分はこれからどうやって生きていったらいいのか分からないという、悲しい中年男性の話なのですが、強烈に惹かれました。僕自身はセレブどころかキャリアを始めたばかりの人間ではあるけど、一歩間違えたら……という想像もできますし、とても刺激的かつ映像の色合いなども含めて印象的な映画でしたね。

─僕もその2本はとても好きな映画なので嬉しいです(笑)。今回、日本ではどんな過ごし方をする予定ですか?

ルエル:今回は4度目の来日になるのですが、前回と違って今回はオフがあるのでラーメンを食べたり原宿でショッピングしたり、お気に入りの場所を一通り巡るつもり。日本の方々の暮らしに入り込んでいくような滞在がしたいですね。

Translated by Kyoko Matsuda

 
 
 
 

RECOMMENDEDおすすめの記事


 

RELATED関連する記事

 

MOST VIEWED人気の記事

 

Current ISSUE