POP YOURS総括 2年目を迎えたフェスとヒップホップの最前線で目の当たりにした「変化」

新たなモードに突入したラップ技法

ビートが変容するにつれて昨今の日本語ラップが繰り出すワード数は増加傾向にあると思うが、それと同時に、以前にも増して(特にライブにおいては)聴取しやすいとフックになる声質・メロディが重要になってきているとも感じる。例えば軽快なジャージー・クラブのビートに多くのリリックを乗せると大抵は「流れて」いってしまうわけで、その点、Watsonの滑舌とメロディアスなフック、LANAの声質、そしてralphの圧倒的なスキルはやはり強烈なインパクトを残していた。特に、Watsonの無駄のないユーモラスなリリックは今のリスナーに一言一句のレベルで浸透しているようで、大合唱によって会場には言葉の洪水が生まれていた。自身の枠はなかったものの、Elle TeresaとSEEDAの客演で抜群のラップを見せたLunv Loyalもさすがの出来。彼もまた、はきはきとした滑舌でフックを作れるラッパーだ。


Watson(DAY 1)


LANA(DAY 2)


ralph(DAY 2)


Elle Teresa(DAY 1)


仲間とのつながり=Unity

連帯はヒップホップにおいて重要な概念の一つだが、今年のPOP YOURSではより一層その重みを感じる場面が多かった。「42だけどしてないセルアウト!」という痺れるMCでライブを始め、「俺にも古い仲間がいる、STICKY見てるかよ?」と言ってSCARS「COME BACK」を歌ったSEEDAのステージに、涙腺がゆるんでしまったのは私だけではないだろう。Jin DoggはREAL-Tの写真をスクリーンに投影し「街風」へと繋げ、BAD HOPは事情によりヘッドライナーが飛んだ¥ellow Bucksにパフォーマンスの場を用意した。IOやKEIJUはMUDやGottzをステージに呼び、DJ RYOWは“& FRIENDS”と称してTOKONA-XはじめSOCKSや“E”qualといった東海勢をレペゼン。レジェンドへと歴史をさかのぼる形でKREVAとZeebraを呼んだPUNPEE & BIMも、大きく会場を沸かせた。昨年に続きSTUTSの愛にあふれたピースフルな舞台も素晴らしかったし、Mall Boyzを復活させたTohji、多くのゲストを舞台にあげたAwichも同様だ。特に、NENE、LANA、MaRIと披露したサイファー「Bad B*tch 美学」はAwichの盟友・AIもサプライズゲストとして参加し、「連帯」というテーマをヒップホップ・フェミニズムにも接続。ヒップホップコミュニティが日に日に巨大化していく中で、フッドやジェンダーを軸にした友情で結束を強めていくラッパー達に胸を打たれた。

だからこそ、仲間を呼ばず一人でライブを演じ切ったLEXは、どこか孤高の輝きをまとっていたように見える。最新作『King Of Everything』は内省的な作風だったが、「これが私です」と呟き「This Is Me」を歌い没頭する姿には、破滅的な危うさが漂っていた。ヒップホップ・フェスの中にあって、彼だけはいつもロック・アーティストのようなたたずまいだ。


SEEDA(DAY 1)


Jin Dogg(DAY 2)


IO(DAY 1)


KEIJU(DAY 2)


DJ RYOW & FRIENDS(DAY 1)



STUTS(DAY 2)


Awich(DAY 2)

POP YOURSに限らないが、昨今の大型ヒップホップ・フェスが抱える大きな悩みに、ヘッドライナークラスの顔ぶれが似通ってきているという問題がある。そうなると若手~中堅をいかにヘッドライナーとして成立するレベルまで育てていくかという点に期待が膨らむが、LEX、Tohji、ralphにはタレント性、力量ともにまだまだ尽きない可能性を感じた。大きなプレッシャーをはねのけ、ますます存在感を増していくラッパーたち。もちろん若手の新陳代謝も良好で、昨年「New Comer Shot Live」の枠だったCandeeやMFS、Skaaiは今年はメインのスロットへ昇格。来年も、今回のNew Comer枠から何人かが昇格するだろう。

これだけPOP YOURSが盛り上がると、恐らく、今後のヒップホップシーンにおけるプロップスを構成する一つの要素に「大型ライブでいかに求心力の高いステージを披露できるか」というポイントも含まれていくに違いない。さて、2024年はどのラッパーが栄えあるステージに立つのか? 楽しみでならない。

【写真まとめ】「POP YOURS」ライブ写真(全86点)


LEX(DAY 1)


Candee(DAY 2)


Skaai(DAY 1)



POP YOURSのセットリストをまとめたプレイリスト

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