ヤング・サグが1年以上勾留、ラップに対する人種差別的偏見が妨げに 米

死刑廃止派のブリジット・シンプソン氏は、アトランタを拠点とするNPO団体「Barred Business」の共同創設者で、受刑囚に住まいや法的保護を提供し、以前は社会復帰支援も行っていた。シンプソン氏は今回の事件について、「検察や裁判制度が抱いている考えのせいで、黒人がどれだけ頻繁に法の適正手続きを奪われているかを表しています」とローリングストーン誌に語った。さらに、「適当に刑を下し、適当に逮捕して、訴訟一覧に目もくれない。そのせいで(アトランタ市の留置所は)過密状態です。話題になっている事件のどれもがそうです。コンクリートの床の上で眠りながら裁判を待つ人々を見れば一目瞭然です」。

昨年9月には35歳のラショーン・ソンプソンさんが、フルトン郡留置所の監房内で死んでいるのが発見された。ソンプソンさんは生前トコジラミに食われていた。監房の衛生状態は最悪で、留置所職員が防護服を着て中に入ったほどだった。

非人道的な環境は過剰勾留の現れだ、とシンプソン氏は言う。彼女は他の団体とともに保釈金関連法の改正を訴えてきたが、その都度行く手を阻まれてきた。そのひとつが、州上院議会に提出された法案第63号だ。先日否決されたこの法案は、万引きや大麻所持といった軽罪に対する略式保釈を禁止するという内容だった。保釈保証人をはじめ、高額な裁判手続きで懐を温めている人々は行動を起こすつもりがまったくない、とシンプソン氏は言う。「彼らはロビー活動を続け、(略式保釈を)廃止するためにあの手この手で反撃し続けます。州レベルの法改正に向けて今も取り組んでいますが、『問題が起きているさなかに、なぜ解決策から先に取りかからなくてはならないのか?』(というのが議員の心情です)」。

ウィリアムズと共同被告に対するあまたの起訴容疑のひとつに、不正腐敗防止法(RICO)違反がある。もともとはイタリア系マフィアの撲滅目的で制定された法律だ。だがニューヨーク州では昨年、RICO違反で連邦起訴されたラルフ・ディマッテオというギャングが公判開始まで保釈が認められている。ウィリアムズとガンナ(本名セルジオ・キッチンス)は2021年4月、保釈金を自前で払えない30人の保釈金を肩代わりしたが、自らの保釈は認められなかった(キッチンスは懲罰刑を言い渡された後、釈放された)。被告の保釈を認めることで、検察の動きが大きく損なわれる場合があるとラマニ氏は言う。

「検事なら誰しも、保釈なしの勾留継続を望むでしょう」とラマニ氏。「当然ですが、釈放されれば被告は犯罪を重ねる可能性があります。(それに)一度自由を味わった後に罪を認めさせ、素直に刑務所に行かせるのは非常に困難です。勾留中のほうが、司法取引に応じるよう説得しやすい。検察が被告の勾留継続を望むのは、そうした戦略的理由からです」

勾留は検察にとっては賢い戦略かもしれないが、有罪が証明されるまで無実の人間を劣悪な環境にさらすことにもなる。昨年5月、ウィリアムズの弁護を担当するブライアン・スティール氏はフルトン郡留置所での処遇について、「独房監禁/完全孤立」「窓のないセメントの房にあるのは、ベッド1台とトイレと天井の照明だけ。照明は24時間点灯したままで、睡眠も休息も瞑想も不可」「メディアの閲覧は種類を問わず全面禁止」、さらに弁護士との面会以外は「運動、シャワー、他人との接触」が禁じられていると説明した。ブライアン・スティール氏が4月に申し立てた保釈申請書には、ウィリアムズがフルトン郡留置所で睡眠を奪われ、そのせいで裁判の準備ができずにいると書かれている。

Akiko Kato

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