ジャズの未来を担う若者たちへ ミシェル・ンデゲオチェロが語る共感・信頼・リスペクト

 
ブルーノートや才能ある音楽家たちとの出会い

―話は変わりますが、今回はブルーノートへの移籍作となりましたよね。そのことはアルバムの内容にも影響を与えていると思いますか?

ミシェル:いいえ、彼らに聴かせたのはアルバムを作ったあと。私の頭のなかにすべてが聴こえてきて、それを完成させたあとに聴いてもらったから。

私が作っているのは、リズム&ブルースみたいなものじゃないってことだけは確かだった。そうではなく、「即興的ブラック・アメリカン・ミュージック」とでも呼ぶべきものを私は作っているつもり。それをブルーノートは理解してくれたんだと思う。私はニコラス・ペイトンの大ファンなんだけど、彼はジャズという言葉を好まない。私も好きじゃない。私がやっているのはグルーヴ、ゴスペル、即興的要素を持つブラック・アメリカン・ミュージックなのであって、そんな私の意図をブルーノートが理解してくれたのは光栄ね。これ以上ない出会いだったと思う。

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Photo by Charlie Gross

―なるほど。でも、このアルバムには一般的にジャズ・ミュージシャンと呼ばれる人たちがたくさん参加していますよね。それは偶然ですか? それとも、そういうアルバムだからこそブルーノートに持ち込んだというのもありますか?


ミシェル:それはないかな。私はいつだってミュージシャンを先に考える。最初に頭に描くのはミュージシャンのこと。まず、ブランディ・ヤンガーとは絶対に一緒にやりたかった。彼女は今、最も優れたハープ奏者だから。ハープは一種のエネルギー。とても力強い楽器なの。そのことをみんなに知ってもらいたかった。そして、ジョエル・ロスとも絶対やりたかった。


ブランディ・ヤンガー、ジュリアス・ロドリゲスが参加した「Virgo」


ミシェルが参加した、ブランディ・ヤンガーの最新作『Brand New Life』収録曲「Dust」

ミシェル:それとジェフ・パーカー。彼は世界最高の即興音楽家。絶対に間違いない! LAにしばらく住んでいた時、小さなジャズクラブに彼を観に行き、そこで凄さを知った。『華氏451』という映画、知ってる? 読書から得る知識を人から奪うために本を燃やす話よ。私が思うジェフ・パーカーのマインドはまさに「ソングブック」。映画のなかで人間は燃やされる前にその本を1冊丸暗記し、情報を記憶に残すの。ジェフ・パーカーは世界最高の即興家であると同時に、リアル・ブックの情報すべてが頭に入った人だと思う。楽曲に関する知識ということであれば、彼は本そのものと言えるの。彼のソロアルバムはスタンダードを再定義するような作品だと思う。

―ジェフ・パーカーのソロアルバムというのは、『Slight Freedom』(2016年発表)のことですか?

ミシェル:そう! フランク・オーシャンの「Super Rich Kids」とかをやってるやつね。彼は何が音楽の新しい基準なのかを再定義していると思う。こういうふうにインタビューで尋ねられたから、私も振り返って、頭で考えながら答えてるってことだけははっきりさせてね。つまりそうじゃなきゃ、そんなことを考えることもないし、ただ他の人が聴いて「演奏したい」と思う曲が書きたいだけなんだと思う。それが「1つの曲に5人の人間を集める求心力」ってことかな。



―ジャズという言葉はお好きではないとのことですが、ここでは便宜上使わせていただくとして……。

ミシェル:わかってる、気にしないで。

―あなたの過去作、2005年の『Spirit Music Jamia』、2007年の『The World Has Made Me The Man of My Dreams』はジャズ・ミュージシャンを多く迎えたインプロビゼーション主体のアルバムだったと思います。今作にもジャズ・ミュージシャンが多く参加していますが、当日とは違う作り方に取り組んでいるように思いました。いかがでしょう?

ミシェル:それはもちろん。レコーディングの中核を成すのは、私とクリス(・ブルース)、エイブラハム(・ラウンズ)、ジェビン(・ブルーニ)で、私たちはあくまでもバンドとして演奏に臨んだ。その前にはリハーサルもしたけれど、一旦スタジオに入り、録音の赤ランプが点灯したら、可能な限りリアルな体験にしたいと思った。なので、使われたのは大抵が2回目のテイク。よければ1回、2回目がダメで、3回目でもダメだったらその日はそこで止め、また別の日に試す。自然に生まれてくるものを捉えたかったから。

私はテレビ番組や映画のスコアの仕事もするし、ラップトップで生活してるようなもので、「音楽を作る時は画面を見ながら作ってる」と人によく言うの。音楽を作るのはとてもビジュアル的な作業。だからこそ、このアルバムのレコーディングで重要だったのは、みんなが一緒にいることだった。それでウッドストックにある、以前『Comfort Woman』(2003年)を作ったアップルヘッド・スタジオまで出かけた。ジョン・メイヤーの1stアルバムも作られた、とても美しくてのどかな場所。ヤギとか動物がいてね。全員携帯の電源も切り、一緒に音楽を作ったの。COVIDの2年間があった分、人と集まれることは素晴らしくて、それがレコーディングにも表れていると思う。一緒に音楽を作ることを、ただ楽しんでる4人がそこにいた。(この取材の)4日前に初のライブをやったばかりだけど、その気持ちは言葉じゃ言い表せない。まるで10代の頃に戻った気分だった。


上述のバンドメンバーとジェフ・パーカー、ディーントニ・パークス、ジュリアス・ロドリゲス、ジョシュ・ジョンソンが参加した「Clear Water」のMV

―そのバンドに加えて、若くて素晴らしいミュージシャンが何人も参加しています。例えば、先ほど名前が挙がったジョエル・ロス。彼とはどうやって知り合ったんですか?

ミシェル:ジェフ・パーカーがきっかけかな。ジョエルがジェフ、マカヤ・マクレイヴン、ブランディ・ヤンガーとWinter Jazz Fes で一緒に演奏しているのを観て、素晴らしいと思った。そんな時、私は、終演後に挨拶ができるなら会いに行って「こんな素敵な体験をした」と本人に告げるタイプなの(笑)。

―ジョエルのどんなところが素晴らしいと思いますか?

ミシェル:彼が演奏するヴィブラフォンは、パーカッション楽器の中でも物凄く高レベルの楽器。マックス・ローチ然り、(ヴィブラフォンを演奏するには)リズムだけでなく、メロディ、ハーモニーのテクニックもなければならない。私はヴィブラフォンを「打楽器奏者にとってのピアノ」だと思っている。アフリカのカリンバやマリンバの西洋版とも言えるかな。私が尊敬する楽器のトップ3はドラム、トランペット、ピアノだけど、ヴィブラフォンもその中に入ると思う。リズム、ハーモニー、メロディ、アレンジといった全ての音楽言語に精通してなければならない高度な楽器ね。

最近の私は楽曲(song)そのものに興味がある。つまりその曲のコード構成……ビートルズ、ジョン・レノン、リトル・リチャード、バート・バカラック……ジョエルには(その意味で、曲にとっての)オーケストレーションであってほしいと思ったの。それに彼は見事に応えてくれた。ジョエルが演奏すると、まるで曲が踊り出すみたいだった。


ジョエル・ロスが参加した「Vuma」



―次はアンブロース・アキンムシーレについて聞かせてください。

ミシェル:(名前を聞いた途端に)フゥー!

―ははは(笑)。どんなところが好きですか?

ミシェル:さっきも言ったように、トランペットも高度な楽器。唯一無二のヴォイス、意欲……太いストロークでメロディの絵を描くところ、そして音色、崇高な音色。どれも素晴らしかった。「Burn Progression」は空っぽのスペース、物事が壊れていき、変化していくという、一種の仏教の教えのようなことを歌った歌。物事は壊れ、変化すると。だから、最初は60年代風なラテンのグルーヴ風に始まるけれど、やがてアンブロースとハンナ・ベンが入ってきて違うものに形を変えていく。ちなみに、ハンナは私が思う現代最高のシンガーの一人。もっと多くの人に彼女のことを知ってほしい。彼女は自分でプログラミングもやるし、つい最近はカーネギーホールのコンサートで、新作の聖歌隊の曲を披露していた。「Burn Progression」では、即興的音楽とスピリチュアルな音楽のコネクションを見せたいと思ったの。それがあの曲の意図するところ。



―もう一人聞かせてください。ジュリアス・ロドリゲスは……。

ミシェル:フゥー!

―(笑)1998年生まれのジュリアスは、おそらく今作の最年少ゲストですよね?

ミシェル:ええ、彼とは確かアムステルダムでキーヨン・ハロルドと一緒にやってる時に出会ったのが最初。彼の両親ともそこで知り合った。とにかく彼の才能に惚れてしまい、どんな形でもいいからサポートしたいと思ったの。というのも、なんて言うのかな……アメリカ人として……他の文化圏では違うってことを知ってるからなんだけど……しかもジャズとスポーツ、スピリチュアルの世界だけに存在する話で……つまり、年上の人間として、若者の人生の旅を助けたいと思ったの。彼のプレイを聴き、彼は経験を積めばさらによくなると確信したので、ジュリアスには与えられる限りの経験を与えたかった。私のツアーにも、彼をオープニングアクトとして連れていこうと思っている。

彼が弾くソロピアノは、さっきも言ったメロディ、リズム、ハーモニー、ソングライティング……その全てがある。本当に才能ある若者だから。ジュリアスを見ると、私は年上の人間として、本当に謙虚な気持ちになり、「こんな人が私の人生にいてくれたらどれほどいいだろう」と思わされる。


Translated by Kyoko Maruyama

 
 
 
 

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