ジャズの未来を担う若者たちへ ミシェル・ンデゲオチェロが語る共感・信頼・リスペクト

 
ミシェルから次世代へのメッセージ

―ここまで何人ものジャズ・ミュージシャンをベタ褒めしてきましたが、あなたに以前インタビューした時、「ジャズ・ミュージシャンにはドグマがあるので一緒にやるのが大変だ」というような話をしていたんですよ。

ミシェル:そうよ!(笑)

―今回はどうでした?

ミシェル:今回の若い人たちには、それがまったくなかった! アンブロース、ジョエル、ジョシュ・ジョンソン……ジョシュは今回のプロデューサーで、ジェフ・パーカーとも一緒にやってる人。リオン・ブリッジズの音楽監督でピアノ奏者だし、ハリー・スタイルスにも携わっている。彼らにはスタイルに関するドグマがないんだと身をもって知った。彼らはあらゆることの中に身を置いているし、すべての音楽がコネクトしているんだと理解してる。

私はローリング・ストーンズとソニー・シャーロックとデヴィッド・マレイが同じ会話の中で出てくるようでありたい。坂本龍一やデヴィッド・ボウイについて語りながら、ヴィクター・ウッテンの話もしたいの。それらは決してかけ離れた話ではないから。以前、アーロン・パークスと一緒にやった時もたくさんのことを教わった。だからアーロンの話もしたいし、ブルース・ホーンズビーの話もしたい。それはハーモニーとメロディで物語を語るという意味で、ジョニ・ミッチェルやニール・ヤングの話をするのとすごく近いことなの。将来の音楽がジャンルやアルゴリズムではなく、惑星が軌道を回り、探検するようなものあってほしいと私は願っているから。



―なぜ今の若いミュージシャンにはドグマがないんでしょうね? 何が変わったんでしょう?

ミシェル:私はたまに大学で教えてるの。ある時、一人の若者が集団的体験の中で話してくれたのは、若い人は権力に興味がないということだった。もちろん、私が教えるミュージシャンの中には若くしてヴァーチュオーソ(達人・匠の域に達した人)と呼べる人たちもいる。でも彼らは悲しいの。若い人たちは私とは異なる、私には言葉に出来ない経験をしてるんだと思う。私には彼らに代わって何かを言うことはできないけれど。

私の世代は人種(race)と金(money)に囚われていた。でも、そうではない人たちに囲まれ、前進できている私は本当に恵まれてると思う。今の私は、時(とき)……天文学的な意味での時の流れ……星、健康、人間の身体の仕組み、人のマインドがいかに変化するか、そういったことに興味がある。「Burn」に参加しているドラマーのディーントニ・パークスは、Technoselfというバンドもやっていて。マシンと人間が合体するというひとつの哲学を(音楽を通じて)実践しているの。

これから言うことが、きちんと翻訳されて意図が伝わることを願っている。音楽をプレイしている時、私はracelessになれる(人種という概念から解き放たれる)。私自身の身体、そして他人の物の見方から一瞬でも解放されるの。


Photo by Charlie Gross

―今、話してくれたようなことは、あなたがデビューした頃から一貫して持ち続けてきた考え方だと思うんです。先ほど名前が挙がった若いミュージシャンたちが出てきたことで、自分のやりたい音楽がスムーズにできるようになったのかもしれないと、アルバムを聴きながら思いました。

ミシェル:ええ、その通り。まさに言い当ててる。あの頃より人々はオープンだから(笑)。ついこの間、サン・ラのトリビュート・プロジェクトをやって、彼の音楽を私なりに解釈し、それに関する本を読んだりしていたんだけど、それは目から鱗が落ちる経験だった。「過去が私たちにもたらしてくれたものを見て!」という思いとでも言えばいいかな。それ以来、私も新しいことを試したいと思った(笑)。

ジャズは過去を尊ぶことばかり。そこが私は苦手なんだと思う。私が興味を覚えるのは、マシン自体のテクノロジーじゃない。むしろ音、音楽、ライブパフォーマンスにおけるテクノロジー。いかにそれが人に影響を及ぼし、意識を変えられるか。ウェルビーイングに関心を持ち続けたいと思っている。サン・ラの(サックス奏者)マーシャル・アレンは「私は自分のウェルビーイングのため、自分が健康であるために音楽をやる」と語っていた。自分より年配の人にそれを教えられたことが、私はとても喜ばしいことだと思ったの。ポップミュージックやR&Bは若さがすべて。でも、いわゆるジャズと呼ばれてる「ブラック・アメリカン・ミュージック」は、コネクションがすべてなんだと思う。

―最後の質問です。人に教えるようになってから、自分の音楽は変わったと思いますか?

ミシェル:いいえ。自分が人に教えたくないってことはわかった(苦笑)。

―マジっすか(笑)。

ミシェル:滅多にやらないし、教える時は個別でしかやってないんだけどね。でも、生徒とは1対1の関係で、彼らの旅をできる限りサポートしたいと思っている。私には息子が2人いるけど、彼らの生きる世界はそれじゃなくてもハードなの。だから私は、穏やかな心の持ち主であり続けたいし、他のミュージシャンに対してもそうでありたい。そうでなくても、誰もがあなたを「判断」するわけだから。私までその一人にはなりたくないの。




ミシェル・ンデゲオチェロ
『The Omnichord Real Book』
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Translated by Kyoko Maruyama

 
 
 
 

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