ギャビ・アルトマン、パリの新鋭が語る「静かで多彩な歌世界」を生んだ音楽への好奇心

 
音楽を探す旅とエスノミュージコロジー

―さっき、カエターノがフランス語で歌った話をしていましたが、あなたも複数の言語で曲を書いたり歌ったりしますよね。それはご自身の表現にとって重要なことなのかなと思ったんですが、どうですか?

ギャビ:そもそも私は喋るのが好き。だから、英語も、ポルトガル語も、スペイン語も学んだ。そして、私は言語が持っている固有のサウンドや響きに関心がある。歌に関して言えば、その言語によってヴァースの響きも変わってくるし、そもそもそれぞれの言語はそれぞれに異なるリズムを持っている。つまり私は言語にはそれぞれの固有の響きとリズムがあると思っている。それを使って何を伝えられるかというと「感情」ということになると思う。

音楽を様々な言語で表現するということは、私にとって楽しいことだし、様々な響きを操れることは大きいこと。ただ、私にとっての母国語はフランス語。それに母親もフランス語話者。だから、フランス語は最も自分の気持ちとコネクトできる言語だと思っている。となると、外国語で歌うことはあくまでその「響き」を使っているってこと。フランス語だったらリリックの上での感覚や気持ちを伝えられるんだけどね。

―あなたはポルトガル語でも歌いますよね。デビューアルバムに収録されている「Coração Transparente(透きとおった心)」はどんな経緯で歌った曲なんですか?

ギャビ:これはブラジルの友人が書いた曲。パリで出会った友人なんだけど、この曲を私に歌ってほしいって彼が持ち込んできた。私にとっては自分が初めて録音した曲で、その時はマイクを目の前にポンッとおいて、それで弾き語りをした(笑)。ちなみに収録したのは初めて録音したバージョンではなくて、アルバムに入れるにあたって再録したものなんだけどね。「Coração Transparente」の詞はポルトガル語なんだけど、これを書いた友人はカーボベルデにもルーツがある人。それもあって普通のボサノヴァとは異なるユニークな雰囲気を持っているところに私は惹かれている。



―さっきの曲とも繋がるかもしれませんが、あなたはアンリ・サルヴァドールの「Maladie d'amour(恋の病)」をカバーしていますよね。アンリはブラジル音楽とフランスのミッシングリンクみたいな人で、それこそユニークな雰囲気を持った音楽を生み出した人ですよね。

ギャビ:まさに! 彼はフランスとブラジルの橋渡しをした人。フランス語で歌うし、パリ在住なんだけど、元々はギニア/カイエンヌの出身。さっき名前を挙げるのを忘れていたけど、アンリ・サルヴァドールも私に大きな影響を与えている人。ジョアン・ジルベルト、ジャック・ブレル、フランク・シナトラみたいな私が好きな50〜60年代の雰囲気を持っているし、何よりも彼の音楽はメロディが美しい。アンリ・サルヴァドールはいろんな部分でブリッジになってくれている人だと思う。

で、「Maladie d'amour」なんだけど、これは彼が書いた曲ではなくて、古いフォークソング。カーニバルとかで歌われる曲なんだけど、アンリが歌ったことで新たに世界に向けて紹介され直したような曲という感じ。だから、フランスではかなり年配の人たちがこの曲をよく知っている。歌詞を知っているから私が歌ったら一緒に歌ってくれたりするくらい有名。でも、私の世代だとみんな知らなくて、私が書いた曲だと思われてる。そのくらい忘れられてしまった曲でもある。私はこの曲のハッピーな感覚や、ダンスをしたくなるような感覚が好きだから、私がまた紹介しなおそうと思った。




―ところで、大学でエはスノミュージコロジー(民族音楽学)を学んだと資料にありました。さっきジョアンとシナトラとアンリを並べて語っていましたが、例えばジョアンがシナトラに影響を受けていたり、アンリはアントニオ・カルロス・ジョビンに影響を与えていたり、といった感じで絶妙に関係のある名前を出していました。ここまでのあなたの語り方はジャンルや地域に関して、すごくフェアだなって感じていました。それって大学で学んだことと関係があるのかなと思ったんですが、どうですか?

ギャビ:エスノミュージコロジーは2年間はロンドンで、1年間はパリで、計3年間学んでる。身に付いたことは好奇心を持って音楽を探していくこと。世の中には忘れられているアーティスト、忘れられた曲がたくさんある。そういうものを自分の好奇心で探し出していくってことの楽しさを覚えたと思う。

―なるほど、さっきの「Maladie d'amour」はまさにその成果だと。

ギャビ:あと、自分が普段持っている「音楽の志向」ってあると思うんだけど、それに敢えて疑問を持ったりすることも身についた。なんでこんなにアメリカの音楽ばかりが影響力を持っているんだろう?ってことだったりね。そうやって、批判的(クリティーク)な感覚を持つことも学んだ。実際、それによって私の音楽の好みもいくらかは変わった気がしてる。有名な音楽を聴くだけじゃなくて、そうじゃないものを自分から探しに行くことで、優れたミュージシャンが世界中にたくさんいるってことを私は知ることができた。私は特にアフリカの音楽が好きだったので、専攻はアフリカの音楽だった。そこではたくさんの新しい発見があった。私はジャズが好きだからジャズ系のミュージシャンが多くなっちゃうけど、南アフリカだったら、ミリアム・マケバ、ヒュー・マセケラ、アブドゥラ・イブラヒムなどを知ることができたのもそのおかげだと思う。


Photo by Fiona Forté

―自分から探しに行くことで様々な国の音楽と出会えた、と。

ギャビ:あと、私は旅行好きだから、勉強をしながら旅もできるなっていうのもあったと思う。以前、ブラジルに住んでいたことがあったから、研究も兼ねてブラジルに行って、アフロブラジリアンのパーカッションを取り上げて勉強したこともあった。南アフリカでは論文を書くために南アフリカの音楽と政治と歴史との関係について調べていた。音楽だけじゃなくて、その背景にある社会や歴史について知ることで、なぜその地域でそのスタイルが生まれたのか、そのスタイルはどこから出てきたのかを掘り下げた。私は音楽を聴くだけじゃなくて、いろんな角度からその音楽を見つめて、その音楽について考えたいと思っている。そのための知識や経験を培うことができたのはエスノミュージコロジーのおかげだって思ってる。

 
 
 
 

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