ギャビ・アルトマン、パリの新鋭が語る「静かで多彩な歌世界」を生んだ音楽への好奇心

 
求めるサウンドの感覚、多様性を受け入れる姿勢

―次は時代性の話をしたくて。あなたの音楽には敢えて古い音質や質感が使われていますよね。わざと悪い音質にしていたりして、それがノスタルジックで魅力的だったりする。それに録音だけじゃなくて、「Une errante sur la Terre」では1930年代的なホーン・アレンジを使ったりもしています。様々なところで「古さ」をうまく使っていますよね。

ギャビ:うんうん。「Une errante sur la Terre」のホーンに関してはパリ在住のエンジニアと仕事をしたんだけど、彼は私が求めているヴィンテージの感覚をわかってくれていて、私が求めている志向をどうやったら形にできるのかがわかっている人だったのが幸運だった。このサウンドが実現できたのは彼のおかげだと思う。

「Une errante sur la Terre」のリファレンスのひとつにあったのはデューク・エリントン。彼が持っているノスタルジアが欲しかった。ただ、1930〜40年代ももちろんだけど、60〜70年代の作品が持っている音も私にとっての最高のサウンドだから、その時代の音作りを敢えてコンテンポラリーなやり方で生み出すってことを心がけた。要するに、あくまでヴィンテージな音をミックスして作品に入れ込んでいくのであって、その時代の音楽をそのまま真似る(イミテイト)わけではないってこと。過去を振り向きはしてるけど、その美しさに現代性を加味したつもり。




―現代的だっていうのはわかります。音像は今の音ですよね。「Mille rivages」みたいな面白いサウンドもある。

ギャビ:そう。ほかにリファレンスを挙げるなら、ブラジルでもロック系/ヴィンテージ系の要素があるロドリゴ・アマランテ(2022年のノラ・ジョーンズ来日公演でオープニングアクトを務めたシンガーソングライター)。あと、インディー系だとデヴェンドラ・バンハート。彼らの音作りはオリジナリティがあって、ジャズの人たちはあまりやっていないことをやっているから。ジャズだとメルディ・ガルドーがそういうことをやっている。その意味では、私はメロディ・ガルドーから影響を受けているんだなと感じてる。

実は今回、アルバム制作で最も楽しかったのはエンジニアとの仕事。テクスチャーを求めて「声や楽器にどんなリヴァーブをかけたらいいんだろ?」みたいな作業があまりに楽しくて何時間でもやっていられた。これまでそういう作業が大好きだってことは自分でも気づいていなかったんだけど、今回初めてスタジオでそれを自覚することができた。



―フランスって特殊な文化がある国で、ジャズに関しても独自のものを持っていますよね。何かしらの「フランスらしさ」があなたの音楽にもあるんじゃないかなって思ったんです。自分がやっている音楽とフランスの関係についてはどう思いますか?

ギャビ:それはあまり考えたことがなかった。でも、私はフランスの音楽は大好き。ジャック・ブレルが好きだし、そもそもセルジュ・ゲンスブールは私にとっての神のような存在。彼の姿勢としては「オリジナルであろう」ということ。様々なスタイルを探訪することを恐れない。ゲンスブールもいきなりレゲエのアルバム『Aux Armes Et Caetera』を作ったしていた。そう姿勢に私も影響を受けている。ゲンスブールもそうだけど、フランスのミュージシャンは扇情的なところもあって、煽ったり、鼓舞したりするところがある。そういう気質は私にもあるんじゃないかなと思うし、曲の中のトピックにそういう性質が見えるんじゃないかな。

―たしかに、あなたの音楽にはかなりメッセージ性があります。「La mer」では難民問題について歌っていますしね。

ギャビ:あと、歌い方にもフランスらしさがあると思う。「こんなに上手く歌えますよ」って歌い方ではなくて、どちらかというとシンプルで、能力を見せつけるよりも言葉を大事にしている気がする。これはフランスだけじゃなくて、ブラジルにも言えると思ってる。言葉を伝えること、そして、メッセージを届けることを重視するってこと。そもそもフランス語を大事に歌っているってところは私のフランス人らしさかなって思う。歌詞に関しては、ゲンスブールだけじゃなくて、バルバラやアンリ・サルバドールからも影響を受けているはずだから。

最後に言えるとしたら、いろんな文化に対して好奇心を持っていることだと思う。私の周りのミュージシャンもアメリカ、トルコ、スーダンの人がいるし、最近は韓国系フランス人のサックス奏者オアン・キム(Oan Kim)とも知り合った。そういった文化的な豊かさはあると思う。パリは昔から外からくるミュージシャンを迎え入れていた。50年代にジャズミュージシャンたちを歓迎していた歴史もある。そういうオープンマインドな姿勢は私の中にも受け継がれているものだと思ってる。




ギャビ・アルトマン
『Gabi Hartmann』
2023年6月21日リリース
日本盤ボーナストラック追加収録
再生・購入:https://sonymusicjapan.lnk.to/Gabi_GabiHartmann

ギャビ・アルトマン特設サイト:https://www.110107.com/gabi

 
 
 
 

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