Borisと明日の叙景が語る、ヨーロッパ・ツアーの舞台裏、ファンの熱狂

観客の世代交代、ツアー中の体調管理

ーそれでは、ツアーの反響についてお聞きします。同じライブハウスに出演される機会も多かったと思うのですが、そこでのお客さんの反応など、お互いのバンドについて印象的だったことはありますか。

等力 いい意味で、どの国もあまり変わらないかもと思いました。熱量とか雰囲気は。

Atsuo 日本より盛り上がることも多いよね。

等力 明日の叙景の場合は、日本も同じくらいでしたかね。比較対象が『アイランド』リリース後のライブしかないからそう感じるのもありますが。

布 Borisのお客さんは盛り上がり凄かったですね。


Boris

ー自分は海外ツアーを観たことないのでアレなんですが、ドローン寄りの音楽性の時でもダイブやモッシュが起きるというのはすごいですよね。

Atsuo 僕は今回ボーカル専任だったんですけど、そこでのテーマとして、お客さんと直接触れるというのがありましたね。コロナ禍でソーシャルディスタンスの話が言われ続けていたこともあって。そういう意味で、ダイブとかモッシュが起こるのは僕が牽引している部分もありますね。

布 Heavy Rock Breakfastというツアータイトルの意味(そうしたディスタンス状況からの目覚め)を言われていたときにハッとしましたね。だからそれだけお客さんを意識していて、お客さんとの距離も限りなくゼロに近く詰めていく。ステージングと思想のマッチ具合が凄くて、これが説得力というものなんだろうなと感じました。それでお客さんもそれに応えるという。そういうコミュニケーションが成立していたからこそ盛り上がったのではないかと思います。

Takeshi 応えすぎのとこもあったよね。

一同 (笑)

Atsuo トラブルも多かったな。コロナ以降、若い人もめっちゃ増えてて。お互い暴走気味で(笑)。

Takeshi でも本当にね、明らかに変わったんですよ。コロナ前後で。

Atsuo 年配の人は「自分はそこに加われない」みたいなSNSの呟きをしてたりも。モッシュが起こってるけどそこに行けないとか。

Takeshi ただ、逆に未来はあるなと思いました。若い世代につながっていってるなと。

Atsuo アメリカにしてもヨーロッパにしても、ロックがちゃんと若い人に受け継がれている、そういう土壌がある感じですね。

ーこれはもしかしたら日本に限った傾向なのかもしれないですが、ブラックメタルでモッシュしちゃ駄目という話があったじゃないですか。

等力 はい。

Atsuo そうなの?

等力 一部の厳格な(苦笑)

ー元を辿れば、Mayhemの故・ユーロニモスが設立したレーベルDeathlike Silence Productionsが、Earache(レーベル番号にMOSHを冠していた)などのデスメタル勢に対抗してANTI-MOSHを冠したり。そういうジャンルのドグマというかマナーのようなものが、近頃の若い世代の間では良い意味でいい加減になってきているようにも思えます。

Atsuo ツアー前半でサポートしてくれたPupil Slicerなんかは、モッシュパートがあらかじめ用意されてて。その場面になるとメンバー自身も「Move, move!」とか掛け声みたいなのが決まってて。

Takeshi もうお約束だよね、そういったジャンルの。

ーそうですね。Pupil Slicerは今年の6月頭に出たアルバムも素晴らしかったですが、そこでだいぶメタルコア寄りになったというか、そういうパートを増やした印象があります。

Takeshi そうだね。前はもっとマスコア的な感じが強かったけど、この間のツアーでは積極的にお客さんを煽ってモッシュパートを作ったり、メタルコア的なアプローチに接近した印象がありましたね。

Atsuo Kate(Davies、ギター&ボーカル担当)はティーンの時に『Pink』(Borisの2005年アルバム)の10周年再現ライブ観に来たって言ってたね。『Altar』(BorisとSunn O)))の2006年共演作)の再現も来たとか言ってたし。





ーなるほど。それでは、そういった盛り上がりの様子と絡めて、セットリストの組み方などで意識されたことはありましたか。

布 我々は、今回はロングセットということもあって、長期的なツアーをするのも初めてだったので、まずは身体面で自分たちがパフォーマンスを発揮しやすいように曲順を作り、そこから組み換えていこうと考えました。ドラムのフレーズの、例えばブラストをどれだけ続けられるかとか。どちらかと言えば、お客さんへの盛り上げというよりは自分たちの表現、パフォーマンスを最高の状態でキープするためのセットを心がけました。

Atsuo 最初っからボロボロだったよね。

一同 (笑)

布 最初が一番(笑)

Atsuo 言えないようなこと、すごいあったよね。

布 ラトビア(3公演目、5月21日)の時の体調不良が一番きつかったですね。

Atsuo 聴いててもう、怖すぎた。声のダメージがどんどん蓄積していくのがライブ中にわかるんだから。僕は録音とかするから、ボーカルの声のコンディションとかすごく気になっちゃうんだけど、あれは怖かったね。

等力 初日のフィンランドは良くて、その後ジェットラグ(いわゆる時差ボケ)とかいろんなものが重なって、旧バルト三国あたりではみんな体調崩してるかギリギリという感じで。

布 みんな咳ゴホゴホしてましたね。

Atsuo みんなボロッボロだったね。

等力 マジでこれ終わりかもしれない、と思いながらやってて、最初のほうはギリギリな感じでしたが。

布 イタリアあたりで体調がすごい復活しましたね。私たちは40・45・50分の枠でいただいていて、それぞれに合わせて3種類のセットを作りました。

Atsuo どうしてもドラムメインの体力配分になるよね。曲芸的な部分もあるから。

等力 はい。それで、中盤以降は安定してきましたね。

布 コンディションの話でいうと、湿度ですね。南下するに従って、翌日の喉のコンディションがどんどん良くなってきて。イタリアですごく良くなって、次のオランダも良くて。その後UKに行ったんですけど、スコットランドのグラスゴーに行った翌日、喉が全然ダメでした。北に行くともうダメですね。

Atsuo 歌唱法も、ツアーで可能な歌い方というのを模索しているのが分かった。長いツアーだとどうしても、単発の公演で集中しているのと全然違ってくるんで。

ーそうですよね。特にブラックメタル的な絶叫メインの発声って、あまりツアーを想定したものではないと思いますし。

布 まあ、技術の問題だったり……。

Takeshi やっぱり歌い方ちょっと変わった?

布 空気の当て方も、普段は喉の奥に当てて叫んでるんですけど、前歯とか上顎の硬い部分に当てて歪ませるほうにしましたね。全然違いました。

ーあまりフルヴォイス(声帯の広範囲を震わせる)にするのではなく、ヘッドヴォイス(声帯を震わせる部分を少なくし負荷を減らす)寄りにする感じでしょうか。

布 そうですね。うまく出来てたかどうかはさておき。こっちのほうが喉や軟口蓋に負担がないな、という実感はありました。そうしていくうちにイタリアで調子が戻ったので、また軟口蓋に空気をちょっと当てる方法に戻しました。

Takeshi そういうアップデートが次の作品にもつながっていくだろうね。

Atsuo やってみないとわからないからね。ツアーとか、何日もやり続けるとか。

ーボーカルの話でいうと、言語が違うじゃないですが。お客さんの反応的には、そこは障壁になっていなかったのでしょうか。

布 もともとMCをしないバンドなので、その点で伝わらないな〜みたいなストレスはなかったですね。

ー『アイランド』の曲では、歪ませないクリーンな声で語る部分もあって、そこがお客さん的にも特に感情移入できるパートになっているとも思うのですが、そこは大丈夫でしたか。

布 むしろ、「こんにちは」「こんにちは」「はじめましてかな」「はじめましてだね」(「遠雷と君」冒頭の語り)なんかでは、「こんにちは」と言ったら「こんにちは」と返してくれて、「はじめましてかな」と言ったら「はじめまして!」っていう人もいましたね(笑)。「そうでーす!」と日本語を理解した上で返してくれる人も。むしろ、伝わらないことを前提にやっていたのに、伝わってしまって逆に驚きました。

等力 エストニアで、あの語りを被せてきた人いたよね(笑)。

一同 (笑)

Takeshi あれこそが、待たれてた感がすごくあるなと思った。

Atsuo 長いツアーに出ると、ツアー前提の曲作りとかがされるようになったり、曲の意味とか役割も変わってくるからね。ここからまた変わるだろうね。


明日の叙景

ーBorisのセットリストは、今回はどんなモードだったのでしょうか。

Atsuo 昨年のアメリカツアーとあまり変わらない感じかな(『NO』『Heavy Rocks(2022)』収録曲主体のハードコア寄りセット)。それで、今回は日本からドラムのMUCHIOくんに来てもらって。だいぶ頑張ってくれたね。初めてこんな長いツアー…31本? 毎日1時間半くらい。だいたいD-beatだし(笑)。





Takeshi でもね、すごい楽しんでくれてたし。「ぶっちゃけ、体力的どう?」とか聞いたら、「あと1カ月くらい行けます!」みたいな話してたので。


Boris

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