Borisと明日の叙景が語る、ヨーロッパ・ツアーの舞台裏、ファンの熱狂

ライブハウスの環境、現場でのコミュニケーション

ーそれでは、ライブの環境の話についてお聞きします。音響環境など、日本のライブハウスと比べて印象的だったことはありますか?

布 ひとつ明確なのが、ボーカルが埋もれないですよね。海外の会場は。ドライブ感がすごく強くて、中にはディレイがわざとらしくてちょっとな…というのもあるんですけど、喉を節約したい場合は助かる、みたいな面もあって。日本のライブハウスは全体のバランスを整えるのを重視するのに対して、海外のライブハウスは、会場の規模にかかわらず、ボーカルやギターのリードメロディをしっかり聴かせてくれる外音だったなと思います。

等力 確かにそれはあった。

Atsuo 彼らはハウスのPAで回ったんでね(各会場のスタッフにPAを任せた)。基本的に、アメリカもそうだけど、会場にはアンプとかドラムとかは無いので、自分たちのセットを持ち回りで。会場のPAシステムとバランスを調整しながらライブをやるわけですけど。

等力 そうですね。それも、少しずつ慣れていくという感じで。ドラムのチューニングとか、モニターはどうしたいかみたいなことを、セッティングの時に伝えていく。初対面の人でもうまくいけるよう、毎回少しずつやり方を調整していく感じでした。その辺のコミュニケーションはむしろしやすかったかもしれません。

Atsuo 基本的には英語喋れるからね。

一同 (笑)

Takeshi 的確に伝えてたよね、毎回。それは見てて思った。

等力 はい。結構ちゃんとコミュニケーションができて。その上で、個人的にはやってて楽しいなという感覚がありました。日本のハコよりもスタッフがオープンな感じで、わりと話をしてくれるので。それでテンションが上がっていくのはありました。

Atsuo ねー。ちゃんと「こういう音楽好きだな」というTシャツ着てたりとか。音楽好きだな、音楽聴いてるな、という人がハコに必ずいる。それから、向こうのクラブ、ベニューの文化として、まずヘッドライナーの機材が並んでて、それを崩さずにサポートバンドの機材を前に並べるんですよね。

等力 自分たちの場合は、上手のほうに僕らのドラムを置いて、ギターとベースのキャビネット(スピーカー)はBorisのをお借りして。

Atsuo それはもう最初からいろいろ話しながら形にしていく感じでやってたんだけど。Pupil Slicerはね、明日の叙景と同じ、なんていうんだろう……。

等力 Quad Cortexっていうマルチエフェクター、ギターのアンプシミュレーターですね。

Atsuo それだけで、スピーカー使わずライン信号をPA直でやってて。

Takeshi 彼らもハウスのPAオペレーターだったもんね。会場ごとに出音にバラつきがあって、結構ギターがシャリシャリしてる時もあって。曲を知ってても音の輪郭がわからないって時もあったり。

Atsuo それで、途中でもう「俺らのキャビ使え」って使わせて。そしたら全然違って。


明日の叙景

ーなるほど。音量はどれくらいだったんでしょうか。

Takeshi ヨーロッパでは音量制限があったりするね。でも今回はそこまでは…

布 スイスが小さかったですね。

Takeshi 確かに。スイスは100dBとか105dBとかね。

等力 メーター(dBの実測値を明示)がずっとピカピカしてて。でもそこまで気になる感じではなかったですね。

布 その上で、どの会場も迫力ある音を提供してくれましたね。

等力 どの会場も音いいなって。

布 日本国内で100から200くらいのキャパのライブハウスだと、どうしても上げきれないことがありますね。音同士が衝突しちゃって音の分離が難しいことが時折あったのですけど、UKの同じくらいの規模の会場だと「意外と音の分離が良いぞ?」と感じました。

等力 メインスピーカーが超小さいのに大丈夫か?って思ったら、意外と大丈夫だったり(笑)。あれは謎でしたね。

Atsuo 持ち込みのバックラインについて話すと、ツアーだと、すごい小さい箱からデカいフェスまでいろんなところを回るので、どんな規模の会場でも自分たちの最低限の音像を届けられるシステムを作っていかなければならないというのはありますね。僕らは生音がある程度デカくないとそれをキープできない。それは、ツアーをやっていくなかでいろいろ作ってきたものなんですけど。アンプシミュレーターを使ってる若い人たちは、そこは気をつけた方がいいよね(笑)。

一同 (笑)

Atsuo ツアーにいきなり出て、ライン直でとか危険だね。

等力 幸いなことに、音響面では大したトラブルもなく。

Takeshi でも、もしかしたら相性がいいのかもね。そういった海外の環境と。

ー会場的には、もともと同じような音楽性のバンドが出演しているところだったんですか?

Atsuo そういうのが多かったかな。

等力 ロンドンのNew Cross Innみたいに、明らかにハードコア箱みたいなの、モッシーなところはありました。

布 東欧のほうは、旧ソ連の工場跡地をリノベーションして使ってるみたいなところがありました。あそこら辺ってどうなんでしょうかね。

Takeshi 東欧とかは、ロックみたいなものが近年まで規制されてて、80年代〜90年代になってドバッと入ってきたところだから。ジャンル的には逆に、入ってくるものに対して非常にフラットな、オープンな雰囲気があって。

Atsuo オランダのほうは、オルタナ、グランジとか。スイスもそういう感じじゃなかった?貼られてたフライヤーに並ぶ名前がオルタナ歴代の名バンド。

等力 エレクトロニック系、ブレイクコア系のフライヤーと一緒にそういう古いのが貼られていて。

Takeshi 30年前のフライヤーが残ってて、そこにTherapy?とヘリオス・クリード(Chromeのギタリスト)が並んでて「ええっ?これ観たいんだけど!」ってなったり。Rollins Bandとか、Bad Brainsとか。

Atsuo 老舗感があったよね。

等力 そのポスターで学ぶ、みたいな。あのバンドのオープニングはこいつらだったのかとか。

Atsuo それこそ、こういう歴史の先端に俺らはいるんだな、という感じはありましたね。ヨーロッパはね、特にその会場は、「ご飯だよ〜」って呼ばれて。スタッフも一緒に食卓を囲んで。

布 自分たちがリハしてるなか、お母さんたちがたくさん料理作ってくれて。それで呼ばれて。

Atsuo 俺のせいでヴィーガン料理が多かったと思うけどね。

等力 それは、こっちもダレンがそうなので。基本的にヴィーガンでしたね。

布 他に音楽のジャンルで面白いところと言ったら、明日の叙景で最後にやったUKのコルチェスタ、Arts Centreという会場があるんですけど、そこは教会をリノベーションしたところで。スケジュールを見たら、ジャズとかクラシックとか、ファミリーとかビアーとか(笑)

Takeshi カルチャーセンターみたいなところだよね。

布 そうですね。市民会館みたいな。そこのスケジュールで、我々はなぜかネットのほうで、もうブラックメタルって表示されちゃってて。

一同 (笑)

布 教会なのに大丈夫なのかって(笑)。おおらかで面白いよなと思いました。ただ、その日にBurzumシャツの人がいるっていう。

Takeshi でも、教会としての機能もあるんだけど、地域密着のコミュニティ・センターというか。アメリカとかもそうで、立派で歴史のある教会なんだけど、地下の空調のないところで、毎週のようにパンクロック・ショーみたいなのが開催されてて、俺らもそれに出て酷い目に遭ったりしたこともあったから。酷い目というのは、ガムテープが湿気で全部剥がれるくらいの汗だくライブになったってことね。

Atsuo ヨーロッパは各国ツアーしてて風景が変わってくから。見どころが多くていいよね。

等力 そうですね。山があったり平らになったりとか。

布 地形の話すると、私がすごいうるさくなっちゃうから控えます。

一同 (笑)

等力 でも、地形の話は明日の叙景で結構してて。故郷に似てるかとか。

Atsuo 長野感。

布 長野感(笑)。または、ここは千葉の佐倉だとか。ポーランドとかは、戦乱の地だけあってみんなが取ろうとする平地じゃないですか。あのだだっ広い平原を見てると、最初はテンション上がってたのがだんだん不安になってくるんですよね。

等力 けっこう不安になるよね。

Takeshi ポーランドの会場は、建物の裏側が飛行場だったもんね。たぶん軍の滑走路だった廃墟が打ち捨てられてて。街のど真ん中に。そういう殺伐としたものが隣にすぐあったりとかして。

Atsuo 音楽の歴史だけじゃなくて、世界の歴史にも直結するからね。

布 様々な国に挟まれてる場所は大変ですよね。

Takeshi 毎日国境を超えてる感じだったからね。移動また移動で。

Atsuo そうなると、曲やバンドの活動も意味が大きくならざるを得ないというか。世界の歴史に参加している感じ。

布 自然と理解したい気持ちになりますね。紙の上で知っていたことについて、その現場に今ようやく来たんだなという気がしました。


Borisと明日の叙景

>>後編に続く

<INFORMATION>


Boris with Merzbow “Heavy Rock Breakfast -Extra-”
7月19日(水)東京・吉祥寺 CLUB SEATA
OPEN 18:30 / START 19:30 TICKETS ¥6,000 (税込/All Standing /1 ドリンク代別途必要)
<問>クリエイティブマン:03-3499-6669
<チケット発売プレイガイド>イープラス / チケットぴあ / ローソンチケット / ZAIKO ※チケットの購入には、Zaiko アカウントの登録(無料)が必要となります
※クリエイティブマンの公演ウェブサイトに掲載されている注意事項を必ずご確認いただいた上でチケット購入、来場ください。
※公演の延期、中止以外での払い戻しはいたしません。※未就学児(6 歳未満)のご入場はお断りいたします。
主催:VINYL JUNKIE RECORDINGS 協力:クリエイティブマンプロダクション
https://www.creativeman.co.jp/event/boris-with-merzbow/

明日の叙景 Solo Concert "Island in Full”

7月23日(日)大阪・南堀江SOCORE FACTORY
<問> 南堀江SOCORE FACTORY 06-6567-9852
8月27日(日)東京・代官山UNIT
<問>クリエイティブマン 03-3499-6669
https://www.creativeman.co.jp/event/asunojokei/

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