「ジャズの世界は狭すぎるし、アメリカは根本的に間違ってる」シオ・クローカーがそう語る真意とは?

先人から学んだこと「ジャズの世界は狭すぎる」

―あなたのそういうスタンスは、ディー・ディー・ブリッジウォーターから学んだ部分もかなりあるんじゃないでしょうか? ここまで話してきたようなことを、ディー・ディーはずいぶん前から実践してきたと思うんですよね。

シオ:そうだね、学んだことはたくさんある。レーベルとの付き合い方、原盤を自分で所有すること、その他諸々、ジャズってやつにまつわるすべてを彼女から学んだといっても過言ではない。ブッキングエージェントとどう付き合っていくか、ツアープロモーターといい関係を築く方法……どれも学校じゃ教えてくれないことばかりだ(笑)。ツアー先でどうバンドをまとめていくか、ツアーの予算の組み方、どうしたら異文化を旅する過程で、自分らしさを保持しつつ現地の人たちの人生に影響を与えることができるか。日々、何があってもステージに上がって演奏するということ、音楽的にも創造的にも自分の限界に挑み続けて固定概念にとらわれないこと。

中国で僕と会ったとき、ディー・ディーは僕のレコードをプロデュースしたいと言って、いわゆるメジャーな世界に導いてくれた。その時の彼女のたったひとつのルールが「ストレートアヘッド・ジャズにはしない」ということだったんだ。彼女がそう言ったのが2010年頃の話。彼女にはもうわかってたってこと。わかるだろ?(笑)。

「ジャズは行き詰まるからやめときなさい。あそこは狭すぎる。発想も選択肢も可能性もあんたにはいくらだってあるのに、ジャズから始めたら永遠に閉じ込められて出てこられなくなるよ。違うことをやったら嫌われるか無視される。だから、私はあなたと一緒にジャズのレコードをはやらない。違うことをやるから」と言ってた。その点、僕は彼女にめっちゃ感謝してる。おかげで「ああよかった、僕が狂ってるわけじゃないんだ」って気持ちになれたから(笑)。こういうことをやってもいいんだ、ってね。


ディー・ディー・ブリッジウォーターのバンドに参加するシオ・クローカー(2015年)

―だから当初から、あなたはハイブリッドな作品を発表していたんですね。

シオ:やつらが作った「ジャズとは何か、何をしてジャズというのか、この時期のジャズが最重要である、なぜなら……」みたいなルールの数々は「勘弁してくれよ」って感じ。そういう連中はデューク・エリントンの音楽を「ジャングルミュージック」って呼んでたんだぜ。知ってるだろ? それからシーンに出てきたばかりのオーネット・コールマンを嫌ってたんだ。「そういう連中」が誰をさすのか俺には定義できないけど、そいつらはトニー・ベネットやフランク・シナトラを崇め奉るわけだよ。ルイ・プリマとかさ。いや、その3人はみんな間違いなく優れたミュージシャンではあるんだよ。ただ、そういう連中ってやたら分け隔てするんだよな。それは正しくない。僕はぜんぶまとめて一つであるべきだと思う。ヒップホップもジャズもR&Bも全部ね。


Photo by @ogata_photo

―「ジャズ」ではなく、すべてをまとめて「ブラックミュージック」と呼びたいと以前も言ってましたもんね。

シオ:ディー・ディーはそういう考え方を最初から僕に与えてくれた。だからこそ今の自分がある。そうじゃなかったら、僕は今ここでストレートアヘッド・ジャズをやっていただろう。そんなの大抵の人は今さら聴きたがらない。先週ヨーロッパをツアーして、ドイツの大きなオペラハウスやコンサートホールで7本だか8本だかショウをやってきたんだけど、そこに来ていた観客がみんな60〜80代の年寄りでさ。バンドのメンバーはみんな30代なわけ。客席を見ながら思ったよ、「これじゃ10年後はどうなるんだ……?」って。何かが根本的に間違ってる。そこに来ていた年配の人たちが悪いわけじゃないんだよ、でも、そういう人たちが来るべき場所だっていうイメージがあるわけだ。僕みたいな人は来るべきじゃない、お呼びでない、みたいな。わかるだろ? 僕や君のように歴史を学んで知っている人は別としてね。つまり、ルイ・アームストロングを受け入れている人は別っていうか、ルイ・アームストロングを受け入れてなくたって、ロバート・グラスパーが好きっていうだけでも、それでOKなんだけどね。それでOKだし、昔からそうだったんだから。やつらはもともと、ルイ・アームストロングやジョン・コルトレーンの音楽が好きじゃなかったんだぜ。そう考えたら……ねえ、っていうのが僕の気持ち(笑)。話がズレたけど、ディー・ディーは僕が僕らしくいるための力になってくれたんだよ。

―それってアフリカン・アメリカンのコミュニティとジャズの乖離みたいな問題と繋がる気がするんですが。

シオ:そうだね。でも、それは「問題」ではなくて「デザイン」の話だよ。そうなるように造られているということ。黒人はいつだって、自分たち独自の音楽を自分たちで管理するべきではないというのが当たり前になっている。これまでの歴史を見れば明らかだ。ジャズだけじゃない、全部そうだろ? R&Bもラップもソウルもゴスペルも全部そうだ。だから当然、ジャズの世界とジャズ(を生んだ人たち)のコミュニティが結び付かなくなる。でも事実、先陣を切ってジャズを刷新してきたのは黒人たちだ。だって、僕たちのカルチャーから生まれた音楽なんだから。でも、実体験は学校で教えられるものじゃない。過去の背景は伝えていかなければ理解できない。アメリカではそういうふうに出来ているんだよ、昔から(苦笑)。


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Translated by Kazumi Someya

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