ジャングルがソウルの最先端をいく理由「僕らの音楽はUKらしさよりワールドワイド」

 
ニュー・アルバム『Volcano』について

—では、ニュー・アルバム『Volcano』の話にいきましょう。前作『Loving In Stereo』から2年足らずで本作が届いたことには、あなたたちのクリエイティビティ―が漲っていることを感じました。前作の手応えが大きかったことで、後押しされた面もあったのでしょうか?

ジョシュ:そう思うよ。最初のアルバムをリリースしたのが2014年で、2ndアルバムは2018年に出したんだけど、アルバムをリリースする間隔として4年は長すぎると感じたんだ。それで以降は、意識的にすぐ次のアルバムに取りかかるようにしている。前作をリリースして、ツアーもやって……メキシコ・シティでもプレイしたんだけど、メキシコでのショーはこれまでに僕たちがやってきたなかでいちばん素晴らしかったね。2022年の11月までツアーをやって、戻って来てすぐにスタジオ入りしたんだ。ニュー・アルバムは、60年代や70年代、アナログ時代の技術や当時の限られた予算のなかでのレコーディングを再現することを心掛けたんだ。例えばスタジオを1時間だけ借りて、1時間で1曲を仕上げなければいけないという状況に自分たちを追い込んだり(笑)。ノートパソコンとハードドライブを持ち歩いて一人で音楽作りをしていたら、逆にいつまで経っても曲ができなかったりするでしょ? 僕たちは限られた時間と予算のなかで、自分たちのアイデアを手早く明確にまとめながらレコーディングすることに挑戦してみた。それが、このアルバムの持つエネルギーを創り上げたんじゃないかな。



—エリック・ジ・アーキテクトやチャンネル・トレス、ルーツ・マヌーヴァら多くのゲスト・ボーカルをフィーチャーしていることもあり、今作は“自分たちがメインで歌わなくてもジャングルはジャングル”という自信が表れた作品だとも感じました。このアルバムを制作してみて、プロデューサーやトラックメイカーとしてより成熟した実感があるんじゃないですか?

ジョシュ:100パーセントそう感じているよ。もちろん僕たちはソングライターでありプロデューサーであって、ザ・ウィークエンドというよりはダフト・パンクに近いと思ってるし。始めた頃からそこは変わっていないけど、最初は自分たちでも歌っていたからね。でも、お陰さまで段々と高い評価を得られるようになってきて、ゲスト・ボーカルとコラボレーションできる機会も増えたから、いまはゴリラズのような感じかな。コラボレーション・コレクティブのような形でいろいろな人と一緒にやることで、プロデュースやソングライティングに集中できるし、コラボレーションのスキルも身についたと思う。でも、だからと言って自分たちだけで作っていた1枚目や2枚目のアルバムはもはやジャングルらしくないということではないし、もしかしたらそういうものに立ち返るかもしれない。この先どうなるかはわからないね。

—チャンネル・トレスとコラボした「I’ve Been in Love」は、英米のモダン・ファンク両雄が一堂に会したという感じで、非常にホットですね。

ジョシュ:彼と会ったときに、すごく気が合ったから一緒にやってみようということになったんだよね。それで2019年に一緒にトラックを作ったんだけど、それからなんの音沙汰もなくて(笑)。2022年にふと、いろいろな歌や音、サンプルやらが足されて戻ってきたんだ。そのとき、僕はすでに「I’ve Been in Love」という曲を書いていて、サビの部分も自分で歌って録音してあったんだよね。でも、なんかどこかで聴いたことのあるような曲になっている気がして。それで、この2曲をくっつけたらどうだろうと思いついたんだよ。曲のちょうど真ん中ぐらいの“Dyin’ just to be in your arms”っていう部分で、僕の仮歌と彼が歌ったものを重ねたんだ。彼は完成したものを聴いて、「すごくクールだ!」って喜んでいたよ。この曲の顛末はおもしろかったね(笑)。



—「You Ain’t No Celebrity」にフィーチャーされたUKのレジェンダリーなラッパー、ルーツ・マヌーヴァについても教えてください。2000年代前半に彼がBig Dadaからリリースしていた作品はやはり愛聴していたんですか?

ジョシュ:そうだね。当時はUKヒップホ​​ップにハマっていたから、彼の作品も聴いていた。ルーツ・マヌーヴァは、きっと「Witness the Fitness」が最大のヒットだと思うけど、他の曲も聴いていたよ。「You Ain’t No Celebrity」には、僕が抱えていた不安というか、怒りというか、エネルギーというか、そんなものが込められている……。言葉で表現するのは難しい、入り交じった感情のようなものだね。そこに、この曲と近いテンションを持つルーツ・マヌーヴァのラップをマッシュアップしたことで、誰もが同じように感じることのできるヴァイヴを生みだすことができた。“君はセレブリティなんかじゃないから、まるでプリンセスのように振る舞うのはやめてくれ”っていう、ワガママで周りに気遣いを強要するような、自分のことをまるでわかっていない人たちに向けられた感情というかね。

—今回は、前作以上にリディア・キットーの貢献も大きかったようですね。すべての曲で共作者としてクレジットされていますし、彼女がメイン・ボーカルをとっている楽曲も多いです。

ジョシュ:彼女はジャズ出身のミュージシャンなんだけど、前作からとても良い関係を築いていて、かなり密に一緒に曲作りをしているよ。彼女と作ったサウンドはすでに僕たちの一部となっているから、今作でも彼女に参加してもらわないわけにはいかなかったというか。彼女はシンガーとしてもプロデューサーとしても、ミュージシャンとしてもソングライターとしても、とても才能が豊かな人で、ニュー・アルバムにも生命の息吹を吹き込んでくれるような存在だった。彼女の歌の比重が多いのは、さっきも言ったこのアルバムの作り方が関係しているんだと思うな。人によっては「より売れるように有名なゲスト・ボーカルをフィーチャーしよう」と考えることもあるんだろうけど、このアルバムはそうじゃない。とにかく短い時間で集中して作ったものだし、どの曲も1時間、長くても1時間半しかかけずに作った。それが功を奏したんじゃないかと思う。その結果、僕たち自身もいまの時点でのジャングルの最高傑作だという自負があるんだ。


Photo by Lydia Kitto

—これまであなたたちはあまり他のアーティストをプロデュースしていないですよね? 特に今回の作品を聴くと、シンガーとのコラボで素晴らしい作品が出来るのでは、と想像していますが、そういった野望はありますか?

ジョシュ:確かに、これまで大々的にアルバムをプロデュースするようなことはしていないね。そうだな……フランク・オーシャンとかやってみたいね。彼は本当にすごいアーティストだと思う。過去のアーティストだと……たとえば自分が聴いて育ったザ・ストロークスとかかな。それに、すごく古いものだと『Pet Sound』以降のビーチ・ボーイズは興味深いね。彼らのことは大好きだし。

—ジャングルのプロデュースしたザ・ストロークスはぜひ聴いてみたいです(笑)。さて、現在は8月末に開催される〈All Points East〉でのヘッドライナー出演を控えているところかと思います。エリカ・バドゥやバッドバッドノットグッドなどソウル色の強いラインナップですが、どんなライブにしたいと考えていますか?

ジョシュ:どんなライブに? 音楽をプレイするものにしたいかな(笑)。その質問はおもしろいね。まあ、いままでとは全然違ったことをやるつもりはないよ。いきなりバレエダンサーが出てきたりはしないよ(笑)。これまでのように、みんなが楽しめる夜にしたいね。






ジャングル
『Volcano』
2023年8月11日リリース
数量限定トートバッグセット、日本語帯付きLPも同時発売
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13338

 
 
 
 

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