リアム・ギャラガー来日公演を総括 オアシスを継承する意思、世代を超えたファンとの絆

今のリアムは誰のために歌っているのか?

そしてソロ作に戻り、「More Power」「Diamond In The Dark」「The River」「Once」を続けて歌う。兄と比べるとソングライティングが弱いと言われがちだったリアムだが、アンドリュー・ワイアットと共作するようになってからメロディの粒立ちが格段に良くなった。これら4曲はいずれもアンドリューとのコラボからうまれた曲。中でも「Diamond In The Dark」は2者の要素がうまく絡み合っているし、リアムひとりの引き出しでは作り得なかった名曲だな、と改めて思った。また、グラム・ロック譲りのリズムで跳ねる「The River」では、再びジーン・ギャラガーが入ってダブル・ドラムスで突進。続くバラード「Once」ではリアムのボーカルの輝きがいよいよ頂点に達し、この日のクライマックスとして推したい名唱でしんみりさせてくれた。昔は「成熟したリアム」なんて想像しにくかったが、さすがに30年も歌い続けると表現に深みが出てくる。


Photo by Mitch Ikeda

本編の終盤は、「Cigarettes & Alcohol」「Roll With It」「Wonderwall」「Champagne Supernova」「Live Forever」と問答無用の名曲ばかりを連打。セットリストではラスト2曲をアンコールで演る予定になっていたが、そのままぶっ通しで「Live Forever」まで演り切ってくれたおかげで、場内の興奮も最高潮となった。新ドラマー、アダム・フォークナーの威力は「Roll With It」で存分に発揮されていて、原曲でアラン・ホワイトが組み立てた弧を描くようなグルーヴを損なうことなく、堂々としたドラミングを見せてくれた。オアシスの曲でもソロの曲でも柔軟に対応、バンドの背骨としてきっちり役目を果たしたアダムの貢献はもっと賞賛されていい。

ここまでやり切ったらアンコールはないのでは……と思っていたところに、メンバーが戻ってきて演奏を始めたのは、なんとジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスの「Are You Experienced?」! テープの逆回転を駆使した曲を、キーボードとギターを敷き詰めたアレンジに置き換え、サイケデリックなムードで場内を包み込んでいく。抑揚をつけ過ぎず、飄々と歌うリアムも実にいい感じ。それまで前面に出てくる場面がほどんどなかったバーリー・カドガンがようやく本領を発揮、彼らしい爆発的なソロを弾き倒して、実に爽快なエンディングとなった。


Photo by Mitch Ikeda

2019年のドキュメンタリー『リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ』を観た人ならわかると思うが、ビーディ・アイが志半ばで空中分解してしまった時点で、リアムの心は一回死んでいる。ミュージシャンとしてのキャリアが終わってしまう可能性すらあったどん底の時期を経験してから、一念発起してソロ歌手として仕切り直し、一歩一歩積み重ねてきた成果が、昨年のネブワース公演であった。今回のステージでいつになく「アリガトウ」と連呼していたのも、心からの感謝の表明だったはず。ビーディ・アイの頃のようにオリジナル曲中心で突っ張るのではなく、オアシスの名曲群も引き受けながらソロ活動を続けていく形になったのも、ファンとの絆を重視した結果だろう。“誰のために歌うのか”という明確な目的が今の彼にはよくわかっている……それを実感した一夜だった。

印象的だったのは、客席を埋めたオーディエンスの年齢層の広さ。リアムと同い年の自分のようなリアルタイムど真ん中世代よりやや上と思われる年配の方から、下はローティーンまで、皆が揃って歓喜の声を上げる光景は感動的なものがあった。自分は一番後ろのブロックで観ていたが、周囲には親子連れが何組も。それも無理やり連れられてきた風ではなくて、それぞれの目線で心底楽しんでいる様子だった。かつては終演まで全曲歌い終えるかどうかもわからない不安定なフロントマンで、プロ意識の欠如を批判されることも多かったリアムだが、時は流れて2023年……徹頭徹尾プロフェッショナルな姿勢で親子2世代を楽しませるエンターテイナー、というのが現在のポジション。“反社会的なロックンロール・スター”というイメージに囚われて破滅することなく、「俺には音楽しかない」と開眼することで、彼がひとりの歌い手として生き延びてくれたことを心から祝福したい。来年はオアシスのデビューから30周年となるアニバーサリー・イヤー、きっとまた何か特別なプレゼントを届けてくれることだろう。



〈セットリスト〉
1. Morning Glory (Oasis)
2. Rock 'n' Roll Star (Oasis)
3. Wall of Glass
4. Shockwave
5. Better Days
6. Stand by Me (Oasis)
7. Roll It Over (Oasis)
8. Slide Away (Oasis)
9. More Power
10. Diamond in the Dark
11. The River
12. Once
13. Cigarettes & Alcohol (Oasis)
14. Roll With It (Oasis)
15. Wonderwall (Oasis)
16. Champagne Supernova (Oasis)
17. Live Forever (Oasis)
EN. Are You Experienced? (The Jimi Hendrix Experience cover)

〈セットリストのプレイリスト〉



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