ブランディー・ヤンガーが熱弁、ドロシー・アシュビーとジャズ・ハープが今求められる理由

 
凄まじいリサーチを経て発見したこと

―前回インタビューさせてもらった時、「未発表曲があることは知っている」と言ってましたよね。そこからどうやって見つけたんですか?

BY:このことは、まだ誰にも話してない! ずっと前、彼女にまつわる品をたくさん手に入れることができたの。前回、リリースされていない彼女のレコーディングがあるって言ったと思う。ユニバーサルとかワーナーとか、どのレーベルが所有してるのかはわからないけど。そういった音楽や写真、彼女の遺品を20年前くらいにゲットしたんだ。ただ、私はそれらをどうやってみんなとシェアすればいいかわからないなってずっと思っていた。だから、今回のアルバムで、やっとみんなと共有できる機会を得たって感じ。

―20年前にどうやって見つけたんですか?

BY:それはいろいろあるから内緒(笑)。

―わかりました(笑)。前回のインタビューでは「ドロシー・アシュビーの未発表アルバムが存在している」とも言ってましたよね。

BY:ええ、数枚あるはず。

―それは当時、ドロシーがコンセプトをレーベルに伝えていたけれど、レーベルはそのコンセプトが新しすぎると思ってOKしなかったという話をしていました。

BY:もちろん昔の曲だから私は聴いたことがなくて、ただ存在するってことだけは知っていた。オクテットと重奏のレコードだったはず。前回話したのは、彼女の初期のキャリアの話で、彼女はレーベルにアルバムコンセプトを伝える手紙を書いていた。でも、彼らは彼女の提案を認めなかった。それは、Cadet(レーベル)からリリースする前の話ね。リチャード・エヴァンス(60年〜70年代初頭にかけてCadetのプロデューサー/アレンジャーを務める)は彼女の音楽をとても気に入ってサポートしたから。だから『Afro-Harping』『Dorothy's Harp』『The Rubaiyat of Dorothy Ashby』をCadetからリリースできることになった。ただ、それはあくまで一部にすぎない。彼女はレーベルから提案を認められなかったことが多かったから。当時の業界はジャズにハープを持ち込ませたくなかった。もしくは、女性がジャズをすることを認めたくない風潮が強かったんだと思う。



―そのリチャード・エヴァンスと制作した彼女の3枚のアルバムは、今聴いても新しいんですよね。あなたの新作も、ドロシー・アシュビーの後期の突き抜けた「新しさ」に通じるものが、マカヤやピート・ロック、ナインス・ワンダーとのコラボでもたらされているような気がします。

BY:ありがとう! 私は、自分のレンズを通して彼女の曲を演奏したいと思っていた。私はニューヨークでヒップホップを聴いて育った”ニューヨーカー”でしょ? クラシックの勉強をして、クラシックの楽器を演奏しているけど、ヒップホップも聴く。つまり、その2つの融合は、私の人生そのもの。ヒップホップのプロデューサーと一緒にレコーディングやプロジェクトをやって、まるで二重生活のような感じ(笑)。その対極にある2つを近づけたいと私は思ってる。

―ドロシー・アシュビーの音楽はヒップホップでかなりサンプリングされていますよね?

BY:ええ! クレイジーなくらいね。

―ピート・ロック&C.L.スムース「For Pete’s Sake」で「Come Live With Me」をサンプリングしたピート・ロックのように、ドロシー・アシュビーの曲をサンプリングしてきた人はたくさんいます。彼女がこれほどヒップホップから愛されている理由は何だと思いますか?

BY:それは、あのビートだと思う。ちなみに、ピート・ロックはお父さんのレコードコレクションから彼女を見つけたそう。





―へえ、まさかの実家ディグ!

BY:「どうやって彼女を知ったの?」って彼に聞いたことがあるから。そもそも、ヒップホップのプロデューサーの大半はピート・ロックを大抵チェックしてるでしょ?

―間違いないです。

BY:9thワンダーも、ピート・ロックがサンプリングする以前は、彼女のことを知らなかったと言ってた。たとえば、J・ディラは(ドロシーと同じ)デトロイト出身。フライング・ロータスは、まさにアリス・コルトレーンの(血縁)関係上にいる。つまり、まさにそういうことだと思う。(「For Pete’s Sake」がリリースされた)1992年あたりから、みんな彼女の音源をサンプリングし始めたんじゃないかな。ビートについて言えば、きっとCadetの頃の音源が多くサンプリングされているはず。『Afro-Harping』もしくは『Dorothy's Harp』からね。それらのアルバムはドラムビートがかなりファンキーだから、みんながサンプリングするようになったんだと思う。

―たしかにそうですね。

BY:ただ、みんな揃って「Come Live with Me」ばっかり! 「他にアイディアはないの?」って言いたくなる(笑)。まあ、それはプロデューサーのせいかな。今回、「You're a Girl for One Man Only」でピート・ロックに参加してもらったのは、彼にまったく新しい曲をやってほしかったのが理由でもある。

Translated by Kyoko Maruyama, Natsumi Ueda

 
 
 
 

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