ブランディー・ヤンガーが熱弁、ドロシー・アシュビーとジャズ・ハープが今求められる理由

 
「私が歩んできた“点”を繋いでいるだけ」

―ハープの演奏面について、ドロシーが実践していたことを、あなたなりに新しい解釈として今回のアルバムに取り入れていることはありますか。

BY:ええ。たとえば、「Come Live With Me」はみんながサンプリングしてるでしょ? だから、そこから離れなきゃと思ってた。それで一度マカヤと演奏してみたんだけど、「これは使えない」と思った。どうやってもオリジナル版のサウンドみたいに聴こえてしまうから。そこで、マカヤはベースとドラムをミュートしたの。レコーディングの現場では、私はベースやドラムと一緒に演奏している。でも、音源では私のソロになっている。一方で「The Windmills Of Your Mind」は、彼女のサウンドに近いものになってるかな。




今年8月に開催されたブルーノート東京公演より(Photo by Tsuneo Koga)

―あなたはヒップホップに再評価されたドロシー・アシュビーへの思いが、とても強いんですね。あなた自身はハープ奏者なので、もちろんヒップホップも好きだろうけれど、もっとハープにフォーカスしているのかと思ってました。でも、ヒップホップに再評価されたことも含めて、ドロシー・アシュビーが好きだってことなんですね。

BY:もちろん! だってヒップホップは私の根幹にあるから。だって私はニューヨーカーでしょ! そのカルチャーの中で育ってきた。その後に彼女を知って……だから、すべて私そのものだし、私が歩んできた“点”を繋いでいるだけとも言えるかな。私にとってはとても自然なことだと感じている。ハープは、たまたま私の表現の手段になったって感じ。

―では、ドロシーがサンプリングされた曲で特に好きなものは?

BY:ビッグ・ショーンの「Sierra Leone」は好き。(しばらく考える)コモンの「Start The Show」も好きだけど、これは私が参加してるから、ちょっとフェアじゃないか(笑)。ピートロック「Fakin' Jax」も好き。マック・ワイルズの「Art Of Fallin'」もいい曲。これはドロシーのコピーをピート・ロックがサンプルしている。ハープの演奏は私。だから、これはピートロックのオリジナル曲とも言える。すごく気に入ってる。






一昨年にバッドバッドノットグッド昨年末にマカヤ・マクレイヴン、今年に入ってミシェル・ンデゲオチェロにインタビューをしたのですが、3組ともこちらから質問する前にあなたの話をしてくれました。特にミシェルはアルバムを作るにあたって、まず一緒にやりたいと思った相手はブランディ・ヤンガーだと。ご本人に直接聞くのもなんですが、どうしてこんなにもあなたの音が求められているんだと思います? ハープという楽器が求められているのか、それとも、あなたが台頭したことで、ヒップホップやその他のジャンルで使えるハープという楽器の新しい可能性をアーティストが発見したのか。

BY:マカヤと私は18〜20歳の頃に知り合って一緒に演奏してきたから、すっごく長い付き合い。ミシェルに関しては私は彼女のファン! 彼女は、ベースのラシャーン・カーターが大好きで、「Dust」をレコーディングしてた時、ラシャーンのベースを3種類くらいレコーディングして、彼女にラフを送った。そしたら「(ラシャーンが弾いている)オリジナルのベースに戻してほしい、私はそれが気に入ったから」と言ってくれた。今、2人はすごく良い関係になっている。私の周りはたくさんの愛で溢れていて夢のよう! バッドバッドノットグッドのことは、彼らから連絡があるまで知らなかったけど、音楽が素敵だったからブルックリンで一緒に演奏した。彼らは最高だった! その後、カナダでも会ったかな。





BY:で、あなたの質問に戻ると……答えはわからない(笑)。ただ、私のサウンドには、みんなが聞き慣れていない、何か情緒的なものがあるんじゃないかな。私はそう思っている。

ちなみにマカヤは、ずっと私を気にかけてくれてる。数年前、私の姉妹がシカゴに住んでたからシカゴに立ち寄って、彼の家を訪れたことがあったの。そこでは大勢のミュージシャンたちが、ただひたすらジャムってた(笑)。私はクラシックを学んできたでしょ? クラシックでジャムはしないから、自分がそこでどうやって演奏すればいいか、もう、まったくわからなかった(笑)。つまり、マカヤは私がひどかった時期も含めて、アーティストとして成長する過程を全部見てることになる! バッドバッドノットグッドやミシェル・ンデゲオチェロは今の私しか知らないけど、彼は私をまるっきり知ってるってこと(笑)。

―そういえば、マカヤは「ブランディからドロシーを教えてもらった」と言ってたんですよね。

BY:みんながドロシーを知ってるのは全部私のおかげ! そして、このスペシャルなレコードをマカヤと作れたのはすべてドロシーのおかげ!

―お世辞じゃなくて、あなたがすべてのきっかけということですよね。いやー、楽しかったし、すごく勉強になりました。

BY:イエーイ! ナード、ナード、ナード(笑)。




ブランディー・ヤンガー
『Brand New Life』
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Translated by Kyoko Maruyama, Natsumi Ueda

 
 
 
 

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