ブランディー・ヤンガーが熱弁、ドロシー・アシュビーとジャズ・ハープが今求められる理由

 
ブランディー・ヤンガーによるドロシー再解釈

―ドロシー・アシュビーはファンキーな要素が有名ですけど、『The Rubaiyat of Dorothy Ashby』のようにものすごく尖っているアヴァンギャルドな作品もあります。

BY:「彼女はレーベルに提案をしていた」とさっき話したけど、きっと彼女はもっと尖ったことをしたかったんだと思う。彼女が手紙に書いたコンセプトは、時代のかなり先にあって、当時は断られてしまった。だから、彼女は歌と琴を使って、そのアイディアを『The Rubaiyat of Dorothy Ashby』で表現したんでしょうね。このアルバムは、彼女の分岐点になってると思う。きっと、もっといろんなことをやりたかったと思うけど、残念なことに彼女の生涯は短かった。1970年の『The Rubaiyat of Dorothy Ashby』の後、それほど多くのアルバムをリリースしていない。日本のレーベル、フィリップス・レコードからソロアルバムをリリースしたくらいだから。

―そうですね。『The Rubaiyat of Dorothy Ashby』の頃は、琴を使うなど演奏面でも変わったことを始めているような気がします。

BY:ええ、私がライナーノーツを書いたボックスセット(『Dorothy Ashby With Strings Attached 1957-1965』)に入っている初期の音源と比べればね。初期の頃は、かなりトラディショナルだった。それから、彼女はホーンを取り入れて、幻想的なジャズ・ハープを確立した。たしかに、彼女のスタイルは変化し続けていたと思う。彼女はLAでセッション・ミュージシャンとして活動していたでしょ? 70年代にはアース・ウィンド・アンド・ファイアーで演奏していた。Cadetの後、彼女自身の活動に空白の時期があるでしょ? 当時、レコードをリリースしなかった理由は、そのこと(スタジオ・ミュージシャン的な活動)が関係してると思うんだよね……ここまで彼女のことを調べてるのって私くらいじゃないかな(笑)。



今年6月にリリースされたボックスセット『Dorothy Ashby With Strings Attached 1957-1965』の紹介動画

―僕の世代のヒップホップ・アーティストたちも彼女のファンですが、あなたがシーンに出てきてから、途端にドロシーはメディアでも話題になり、ボックスセットも発売されたりと動きが見られるようになったので。あなたのディープなリサーチがすべてのきっかけですよ。

BY:でしょ? 「やっとその時が来た!」って気分。私はドロシーを知ってから、ずっと彼女の音楽を演奏してきた。決して彼女のキャリアを辿りたいわけじゃない。ただ、私は幼い頃から、ラジオから聞こえてくるような音楽をいつかハープで演奏したいって思ってた。ありがたいことに、私のハープの先生はとても理解があって、トラディショナルなクラシック音楽と一緒にラジオで聞いてたような曲をハープで弾くための指導もしてくれた。

今の私たちにとっては古く感じるかもしれないけど、「Little Sunflower」(フレディー・ハバードの1967年作『Backlash』に収録。ドロシーの『Afro-Harping』は1968年リリース)は、当時のポップチューン。ドロシー・アシュビーも当時人気のあった音楽を演奏していた人だった。つまり彼女は、私がやりたかったことをすでにやっていたわけ。だから、もしドロシー・アシュビーが長生きしていたら、きっとヒップホップのトラックで演奏してたんだろうな。



―僕もそう思います。ところで、今回のアルバムでドロシー・アシュビーの「Dust」をカバーしていますよね。最初、どうしてレゲエ/ダブなのかなと思ったんです。でも、原曲はプロダクション面でかなり凝っているので「なるほど、すごく面白い解釈だな」と納得したんですよね。

BY:まず私はオリジナルを繰り返したくはなくて、何か違うことをやりたかった。実は私は「Dust」のリハーサル音源を持っているんだけど、それがレコーディング版とはまるで違うの! 正直、リハーサル音源のほうがずっと好き。違う歌手かと思っちゃうくらい。リハーサルとレコーディングの間に一体何があったのかなって思ってしまう(笑)。とにかく、私たちはマカヤの家に行って、彼の家のリビングで一緒に演奏した。「オリジナルにはラテンの感じがあるから、それとは違うサウンドを探そう」って感じでね。それから、とにかく何度も何度も何度も演奏して……すると突然、レゲエのリズムが見えたから、このアレンジが生まれたの(笑)。



Translated by Kyoko Maruyama, Natsumi Ueda

 
 
 
 

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