スロウダイヴが語る、シューゲイザー・レジェンドの実験精神と歳月を重ねて深まる絆

最新アルバムで発揮された実験精神

─では、新作『everything is alive』についてお聞きしていきます。前作『Slowdive』はセルフタイトルの復帰作だったわけですが、それを経て今回はどんな意識でアルバムに取り組んだのでしょうか。

レイチェル:もともと2020年4月から6週間のスタジオセッションをする予定で、曲のアイディアや制作自体は前年から始めていたの。ところがコロナ禍でセッションはキャンセルになって、仕切り直して行われた最初のセッションは2020年の10月だった。そこから6週間のセッションで、最初に取り組んだ曲は「shanty」。2日間ずっとループで聴き続けていたよね。かなり難航した。

ニック:ニール(・ハルステッド)は常に新しいことにトライするのが好きで、今回はミニマルなエレクトロニック・ミュージックを作りたかったみたいだね。前作『Slowdive』はいかにもスロウダイヴらしいアルバムで、きっとみんな『Souvlaki』や『Pygmalion』との繋がりを感じたと思うんだ。なので今回は、今までと少し違うこと……もうちょっと実験的なことをやろうという意見で一致した。個人的には、『Pygmalion』のテイストに近いアルバムになるかと思ったけど、結果的にはやっぱりスロウダイヴっぽいアルバムになったね。

レイチェル:みんなでスタジオに戻れたのは本当に救われた。コロナ禍の最初の頃は、もう同じ部屋にみんなで集まるなんてできないんじゃないかと思ったし、世界の終わりを生きているような、本当に暗い時間だった。でも2021年から2022年の2月にかけて、スタジオで3、4回くらいセッションをすることができたの。それまでずっと、お互いの自宅からリモートで音源を送り合ったりして、一筋縄ではいかない日々を過ごしていたから、スタジオで直接ニールの意見を聞けるのが本当に嬉しかった。




─アルバムを制作するにあたり、何かリファレンスにした作品などありましたか?

ニック:明らかなリファレンスがあったのかどうか分からないけど、ニールはずっとエレクトロニックサウンドの領域にいたな。ソロプロジェクトでもスロウダイヴと違うことをやろうとしていたし……。とはいえ、僕らが集まれば結局は僕らのサウンドになってしまうんだよ。クリスチャンのギター、僕のベース、レイチェルのボーカルが入れば、それはスロウダイヴなんだ。

─モジュラーシンセでの実験からスタートしたそうですが、具体的にはどんな種類のシンセを使っていたのでしょうか。

レイチェル:ニールはSequential(Dave Smith Instruments)のProphet-6や、MoogのGrandmotherなどを使ってた。

ニック:いろんなケーブルで機器を繋ぎ合わせて……説明するのは難しいね(笑)。彼は最近、複数のモジュラーシンセをベースとしたアルバムレコーディングのサポートをしていた。彼はずっとそれに関わっているし、僕らスロウダイヴのサウンドにもそのDNAは入っているはずだよ。

─「shanty」や「andalucia plays」「chained to a cloud」などで聞こえるシンセサウンドは、その名残りでしょうか。

ニック:そうだね、おそらくProphet-6だと思う。昔のデカいやつ。

レイチェル:あれ、すごく高いのよ(笑)。

ニック:今、ライブで使っているシンセはレイチェルが弾くローランドのJUNO-106しかなかったけど、ニューアルバムの曲を再現するにはそれじゃ足りないかもね。Prophet-6は素晴らしいサウンドを出せるし、きっと面白くなるはずだよ。


ニール・ハルステッド、フジロック’23にて(Photo by Yuta Kato)

─今作では「alife」や「kisses」が新機軸といいますか、ポストパンクやネオサイケデリア的なサウンドが印象的です。

ニック:その2曲は、僕らなりのポップソングと言えるかもしれない。僕らはいつもポップな要素を入れようとしていて、例えば「Star Roving」や「Sugar for the Pill」(いずれも『Slowdive』収録)、「Catch The Breeze」(1991年『Just For A Day』収録)にもそれを感じることはできると思う。新作にもそういう要素を取り入れたかったのかもね。実は、「kisses」は別バージョンがある。いつか披露するかもしれないけど、最初は今と全く違うテイストだったんだ。

レイチェル:もっとエレクトロだったんだよね。

ニック:うん。もともとそのバージョンを入れるつもりだったのだけど、アルバムの軸が定まってくるにつれて、だんだん合わなくなってきたんだ。それで、もう少し僕らのバンドサウンドに寄せてみたらしっくりきた。要するに「kisses」は、2つのプロセスを辿った曲だったね。



─ちなみに前作のインタビューで、ビーチ・ハウスやジ・エックス・エックスなど自分たちよりも若いバンドからのインスピレーションについても話してくれました。今作では、そうした新しい音楽からの影響はあったのでしょうか。

レイチェル:ピット・ポニーという、ニューカッスル・アポン・タイン出身のバンドがリリースしたEP『Supermarket』(2022年)がすごく良かった。もうすぐ2ndアルバムをリリース予定のペイル・ブルー・アイズも好き。デヴォン出身で、グラストンベリーのウォームアップ・ショーで一緒にプレイしたのだけど、最高だったな。




─ペイル・ブルー・アイズは、2013年にマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのマンチェスター公演でオープニング・アクトをしていました。当時はまだ無名でしたが印象に残っています。

レイチェル:スロウダイヴとはかなり違う音楽だけど、オーディエンスもみんな彼らの音楽を気に入ってくれたと思う。あとはチャスティティ・ベルトも。いい音楽を作っているアーティストやバンドは本当にたくさんいるよね。

ニック:僕は最近の音楽を聴くのに疎いから、昔からずっと好きなバンドを今も聴いているよ。

レイチェル:ねえ、今活動しているアーティストで良い音楽はいっぱいあるのよ?

ニック:(笑)。『トップ・オブ・ザ・ポップス』という音楽番組の再放送をやっているんだよ。時々それを見るのだけど、80年代の音楽はやっぱりどの曲も素晴らしい。

レイチェル:それは言いすぎよ! 全然よくない80年代の曲もあるわ。

ニック:確かに……(笑)。

Translated by Miho Haraguchi, Natsumi Ueda

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