コーシャス・クレイが語る、ジャズの冒険と感情を揺さぶるメロディが生み出す「深み」

コーシャス・クレイ(Photo by Meron Menghistab)

 
コーシャス・クレイ(Cautious Clay)は桁外れのサクセスストーリーを歩んできた。不動産エージェントで働きながら、プロのミュージシャンを目指していた彼のデビュー曲「Cold War」はストリーミング再生1億回を超える大ヒットを記録。テイラー・スウィフトが「London Boy」でその「Cold War」をサンプリングし、ビリー・アイリッシュのデビュー曲「Ocean Eyes」のリミックスに起用されるなど、錚々たるアーティストたちを魅了してきた。



その後、2021年にデビュー作『Deadpan Love』を発表し、UMIやレミ・ウルフらとのコラボでも注目を集めてきたコーシャスは、2023年にジャズの名門ブルーノートとの契約を発表した。意外な展開にも思われたが、彼のライブ動画を見るとその意図が見えてくるだろう。もともとジャズを学び、フルート/サックス奏者の道を模索していたという彼のパフォーマンスには、ソウルやR&Bだけでなく、ジャズの要素がかなり入り込んでいる。実際、本人の演奏スキルもかなり高い。

彼は先ごろリリースされた2ndアルバム『KARPEH』で、自分のなかのジャズと向き合っている。過去の作品でも聞かれるボーカリスト/ソングライターとしての才覚を発揮する一方で、器楽奏者としてセッションを重ね、バンド的な方法論で制作された本作には、アメリカ音楽の歴史を自在に縦断する奇才ギタリストのジュリアン・ラージ、現代ジャズ随一のトランペッターことアンブローズ・アキンムシーレ、20代半ばにしてブルーノートから2枚のアルバムを発表し、共に年間ベスト級の評価を得てきたアルトサックス奏者のイマニュエル・ウィルキンス、パキスタン人女性として初めてグラミー賞を受賞し、今年はヴィジェイ・アイヤーとのコラボでも話題になったアルージ・アフタブなどの豪華な顔ぶれが集った。

アフリカン・ディアスポラとしての半生をテーマにした本作では、感情を揺さぶるメロディやプロダクションに、卓越した演奏や荒々しいインプロビゼーションなどが組み合わさることで、これまでに聴いたことがないような新鮮な音楽が生まれている。音楽的ルーツやジャズからの影響について話を聞いた。




—幼い頃、グレッグ・パティロという方に師事したそうですね。彼から学んだことについて聞かせてください。

コーシャス・クレイ(以下、CC):グレッグ・パティロはクラシックのフルート奏者なんだけど、クラシックだけでなく、ジャズを含むいろんなジャンルの音楽を学んだよ。彼自身がフルート奏者だったにも関わらず、とてもクリエイティブな発想の持ち主だったので「音楽っていうのは何をやっても伝わるものなんだ」ということをすごく早い時期に教えてもらった。だって彼はフルートでビートボックスをしたり、面白いトリックを駆使したり、クラシックだろうがジャズだろうが構わず、平気でやるような人だったから。



—高校のジャズバンドではサックスを演奏し、学外でもジャズやロックのバンドに参加していたそうですが、この頃にどんな音楽に夢中だったのか聞かせてください。

CC:今から思えば、随分とベタな趣味をしていて……。7歳で最初に買った3枚のCDはグリーン・デイ、アイズレー・ブラザーズ、リル・バウ・ワウだった。ロック、ラップ、ヒップホップ……もう少し大人になってからはエレクトロニック・ミュージックが好きになった。ハウスミュージックとかね。それで自分でビートを作ったり、それをSoundCloudに上げたり。7歳から15歳まではそんな感じだったよ。ジャズは16〜17歳になるまではそれほど聴いてなかったんだ。

—ジョージ・ワシントン大学ではジャズを学んでいたということですが、具体的にはどんなことを学んでいたのでしょうか?

CC:大学の専攻は国際関係学科(International Affairs)といって、経済学と人類学と地理学の3つが一緒になったような総合的な学科だったんだ。で、副専攻でジャズ研究というのをとっていた。理論メインで学んでたよ。

—あなたが最も得意な楽器はサックスとフルートだと思うのですが、その2つに関してコピーしたり、特に研究した奏者はいますか?

CC:好きだったのはエリック・ドルフィー、ローランド・カーク、クリス・ポッター、あとはキャノンボール・アダレイだね。

—エリック・ドルフィーは、どんなところが好きですか?

CC:メロディを破壊するっていうか、曲を一度ものすごく美しい形で解体するところ。そこが好きだな。そんなのは間違っている、不快だと感じる人間もいるだろうけれど、僕にはとても説得力を感じる。メロディであれだけ破壊的になれることに惹かれたんだ。



—ローランド・カークは?

CC:彼もエリック・ドルフィーと同じで、すごく「raw」なんだ。さっき話したグレッグ・パティロ先生はフルートだけじゃなくサックスも吹いていたから、サックスでぶっ飛ぶようなトリックをやってのけてたけど、ローランド・カークも3本のサックスを咥えて吹くのとかを見て「最高じゃん!」って思ったよ。




—あなたは作曲も打ち込みもするプロデューサーであり、シンガーでもあります。そんなあなたが参照するようなサックスやフルートの演奏者となると、ただ単にソロが優れているとかとは別の視点で名前を挙げているのかなと思うのですが、どうでしょうか?

CC:そうだね。彼らのプレイは本当にユニークというか……単に優れたソロを吹く能力だけでなく、ソロに取り組むアプローチや、ソングライティングへのアプローチがユニークだった。さっき名前をあげた4人で言えば、ソングライティングの視点でいうと、クリス・ポッターの書く楽曲が好きなんだ。どうしても(ジャズの場合)カバーを演奏することが多いから、彼らがどのくらい自分で曲を書いていたのかはわからないけど、クリス・ポッターは少なくともオリジナルを書いているはずだ。僕は真っ先にメロディ的な要素がある曲に惹かれるから、メロディの理解力がある人に惹かれるんだろうな。すでにあるものを解体できるくらいメロディを理解してなければ、それを解体することはできない。まるで別物から何かが派生するくらいに、そこにはコミュニケーションが成立するんだ。すべてはコミュニケーションさ。たとえば僕が参照しているものが何か、僕も理解するし、君も理解する。そうすれば両方が理解し合える。でもそうなるためには、何を言おうとしているかの知識が、一定のベースラインに達してなきゃだめなんだ。


Photo by Meron Menghistab

—特に研究したソングライターやコンポーザーはいますか?

CC:いい質問だな。いつも答えるのに苦労するんだけど、間違いなくスティーヴィー・ワンダーは最も優れた、僕の好きなソングライターだ。キャロル・キングもものすごく優れたソングライターだよね。あとはバート・バカラックかな。

—あなたはサックスやフルートだけでなく、ギターやキーボード、ベースも演奏しています。そして、それを自分で録音して重ねている。管楽器以外を演奏することに関して、あなたにインスピレーションを与えたアーティストがいたら教えてください。

CC:J・J・ケイル、スライ・ストーン、プロデューサーならポップ・ワンゼル……いや、違う、デクスター・ワンゼルだ。

Translated by Kyoko Maruyama

 
 
 
 

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