KIRINJI『Steppin' Out』全曲解説 堀込高樹が語るポジティブなムードの背景

KIRINJI・堀込高樹(Photo by Mitsuru Nishimura)

 
KIRINJIが通算16枚目のニューアルバム『Steppin' Out』をリリースした。新レーベル「syncokin」からの第1弾となる本作は、昨年6月配信の「Rainy Runway」(インタビューはこちら)、ドラマ「かしましめし」主題歌「nestling」、韓国のSE SO NEONとのコラボ作「ほのめかし」など全9曲を収録。いつになくポジティブなムードに満ちた本作の制作背景を知るべく、堀込高樹によるアルバム全曲解説をお届けする。

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韓国での人気ぶり、SE SO NEONとの共演

—8月4日に開催された、韓国の仁川ペンタポート・ロック・フェスに出演したんですよね。お客さんの盛り上がりがすごかったみたいで。

堀込:そうですね、楽しさや喜びをストレートに表現してくれるというか。

—熱気が違うと言いますよね。シンガロングも起きたりしたんですか?

堀込:「愛のCoda」を歌ってくれましたね。誰かが撮ったライブ動画を観てみたら、小田さん(小田朋美:サポートメンバー)が歌うコーラスのラインがやけにデカくて。「どういうことだ?」と思ったら、それは小田さんの声じゃなくて、ファンの方々が歌ってる声でした。歌メロを口ずさむ人もいれば、コーラスのトップラインを歌う人もいて。「そっちを歌うんだ、そんなに聴き込んでくれてるんだ」というのは面白かったです。あとは旗にも驚いたし、(観客がライブを)スマホで撮るのも基本。日本にはそういうカルチャーがないから、海外に来たって感じがすごくしました。



—韓国でのライブは約20年ぶり、2004年にイ・サンウン(「ダムダディ」「Someday」で知られる人気歌手)と行なったジョイントコンサート以来だったみたいですね。そのときのことは何か覚えていますか?

堀込:たしか、ちょうどいいライブハウスが見つからなくて、デパートの催事場……普段は結婚式とかをやってそうなところが会場でした(現代百貨店 木洞店7F トパーズホール)。あのときも熱烈に歓迎していただいて。あとはファンクラブツアーも兼ねていたので、日本から来たお客さんも結構いらっしゃったと思います。日本語のポップスが解禁されてから少し経った頃で(2004年1月1日に韓国での日本語CD発売が解禁)、僕らが当時所属していた東芝EMIは韓国でCDを出すことに一生懸命だったんですよ。

—もともと韓国では渋谷系やシティポップが人気なのもあって、キリンジ時代から熱心なファンがいると聞いたことがあります。KIRINJIの私設ファンクラブもあるんですよね?

堀込:そうみたいなんです。韓国へ行く前に、彼らが作ってくれたファンジンが送られてきたのですけど、恥ずかしくなっちゃうくらい男前に描いてもらったイラストが載っていて。「いやいや、こんなにカッコよくないよ」みたいな(笑)。

—そんなことないですよ(笑)。

堀込:その冊子に「ペンタポートでやってほしい曲」をファンどうしで募ったランキングも載っていて、「愛のCoda」がたくさん挙がっていたんです。当初の予定ではセットリストに入れてなくて、「僕の心のありったけ」を演奏するつもりだったけど、これを見たらやるしかないと思って。

—それで合唱が巻き起こったと。他にはどんな曲が人気だったんですか?

堀込:「killer tune kills me」も(韓国語で歌う)ラップのパートで合唱が起こったし、「時間がない」も反応がよかったです。さっきのランキングでいうと、「悪玉」を選ぶ昔からのファンもいれば、新曲の「Rainy Runway」を聴きたいという方まで幅広くいました。


Photo by Mitsuru Nishimura


Photo by Mitsuru Nishimura

—ペンタポートではSE SO NEONとの共演も実現したんですよね。今回のアルバムでも「ほのめかし」でコラボしているわけですが、どういう経緯で実現したんですか?

堀込:昨年、サマーソニックやタヒチ80との対バンでお世話になったクリエイティブマンの方が、SE SO NEONにも携わっていて、「共演とかできたらいいですね」みたいな話はしていたんです。それでアルバム制作に入り、SE SO NEON向きの曲を書こうかなと思ったのですけど、それっぽいのが作れなくて。「今回は難しいかな」と思っていたら、彼女たちが3月に来日公演を行なうことが決まり、その翌日に「お茶でもしましょう」という話になったんです。ちょうどそのとき「ほのめかし」を作っていて、この曲だったらソユンさんのボーカルと相性がいいかもと提案したら「いいですね」となって。割とあっさり決まりました。



—制作もそのまま日本で行なったんですか?

堀込:いや、オンライン上です。後日デモを送り、「ヴァースについては自由に作ってもらって構いません」とお伝えして。そこの歌詞やメロディは彼女が考えてくれたものです。

—2019年に高樹さんを取材したとき、SE SO NEONについて「初めて自分がブラジルのロックを聴いた時に近い感動があった」と語っていましたよね。

堀込:ソユンさんはSE SO NEONでかっこいいギターを弾いてたりするけど、ソロ(So!YoON!名義)ではダンスミュージックの影響も感じられたり、ミュージシャンとして奥行きのある人ですよね。だったら「ほのめかし」みたいな曲もいけるかなと思って。


SE SO NEON、今年のペンタポートでのライブ映像



—So!YoONのニューアルバム『Episode1 : Love』も最高ですよね。「ほのめかし」はサウンド的にどんなものをめざしたんですか?

堀込:まずはループの曲を作ろうと、ベースラインから着手し始めて。ドラムは8ビートなんだけど、ちょっと跳ねた感じ。最近のソウル/R&Bみたいなヨレたビートにしてみたら、途端に今までのKIRINJIと違う感じになって。「これは新しいかも」と思ったんです。ビートが曲の印象を決定づけているというか。伊吹くん(伊吹文裕:Dr)に打ち込んだデモを聴いてもらって、すごくいい塩梅で叩いてもらいました。

—「曖昧に仄めかし、行間を読む」というのはある意味で日本的な仕草とも言えそうですが、そういうモチーフをここで採用した理由は?

堀込:「ほのめかし」はずっとメモにあった言葉で、たまたまこのメロディにピタッとハマったんですよね。”仄めかしたら 察してほしいね”というくだりも、言葉にグルーヴがあるなと思って。忖度みたいな話として、政治的な側面から捉えてもらっても構わないんですけど、それよりは単純に……「 言葉がなくてもわかりあえる」ってコミュニケーションとして高度じゃないですか。そういうのって恋愛とか人間関係において日々行なわれていることで。「皆まで言わない」というのは日本人特有みたいに思われがちだけど、世界中で行なわれていることだと思うし、だからみんな理解してくれるだろうと思ったんです。

—なるほど。ソユンさんのパートは、そういう意図を深く汲み取っているように思います。

堀込:“既読スルーしないで”っていうね。LINEで既読がついたのに返事が来ないときの空気って、たしかにそうですよね。僕はてっきり同じ空間にいるものだと考えて、その場に流れる空気のことしか頭になかったんですけど、彼女はさすが今の人だから。離れ離れの距離にいても流れている空気、スマホとスマホの間の空気というのを見つけたんだなって。

 
 
 
 

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