ミツキが最新作で描く、名もなき町の寂寥感とアメリカンゴシックの物語

ミツキ(Photo by Ebru Yıldız)

ミツキ(Mitski)の通算7作目となるニューアルバム『The Land Is Inhospitable and So Are We』がリリースされた。USインディーロック屈指の先進的ソングライターが、かつてない深みに到達した最新作のレビューをお届けする。

「私は自分の心が好きじゃない/部屋で独りでいるのは嫌い」。7枚目のアルバムとなる最新作でそう歌い上げるミツキの声は、心痛とは裏腹にスウィートでリッチだ。「お願い、この仕事を私から奪わないで」というラインは、身を粉にして働き続けてきた平凡なアメリカの労働者の叫びのように聞こえる。だが、それは紛れもなく彼女自身の切実な思いだ。ミツキは一度は音楽をやめることを決意したが、波が月に引き寄せられるかのように、この世界に再び戻ってきた。彼女は2021年の本誌のインタビューでこう語っている。「これは嘘偽りのない私の姿……私はこれからも傷つき続けるだろうけれど、やめるわけにはいかない。だって、私にはこれしかないから」

2016年発表の傑作『Puberty 2』でブレイクを果たした彼女は、パーソナルで共感を呼ぶソングライティング、唯一無二のエモーショナルな歌声、そして強烈で生々しいサウンドでリスナーを魅了した。2018年作『Be the Cowboy』では彼女の核である部分を残しつつも、そのスタイルをより洗練させてみせた。一度は引退を決意した彼女の復帰作であり、シンセを大々的にフィーチャーした2022年作『Laurel Hell』は、インディー界のスターという立ち位置に対する葛藤を描いた。

そして今作『The Land Is Inhospitable and So Are We』で、ミツキはさらなる進化を遂げた。本作では平凡な言葉に含みを持たせるリリシズム、カントリーの王道のアンサンブル、大胆なオーケストラのムーブメント、そして彼女の代名詞というべきストーリーテリングが複雑に絡み合う。愛、ノスタルジー、失望の後味といったイメージを、田舎暮らしの孤独を描いた印象派のヴィネットのコレクションに投影したかのような作風は、アート志向のシンガーソングライターによるシャーウッド・アンダーソンの小説『ワインズバーグ、オハイオ』の再解釈なのかもしれない。




静かなアコースティックギターのストロークがアルバムの幕開けを飾る「Bug Like an Angel」で、主人公はウィスキーによる酩酊が「家族のように感じる」まで飲み続け、最後のラインは古代ギリシア劇の聖歌隊を思わせるハーモニーによって強調される。「Buffalo Replaced」からは、開拓者たちが貨物列車の窓から動物を撃つ光景が浮かび上がる。機関車の車輪のようにダイナミックなギターとドラムをバックに歌うミツキのボーカルは汽笛のごとく響き渡るが、最後に残るのは小さな町を覆う寂寥感だ。「Heaven」と「My Love Mine All Mine」には、ゴスカントリーという形容が相応しい。ダークで超越的な世界観は、主人公がその魂を鳥に例え、ドラムロールが羽ばたく翼を演出する「The Deal」にも共通している。

ミツキは自身の物語と、アメリカにおけるアーキタイプを融合させる。「When Memories Snow」はスパゲッティウエスタンのイメージを彷彿させるが、主人公はガンマンではなく、雪のように降り積もる記憶と格闘する人物だ。「The Frost」がハンク・ウィリアムスの「I’m So Lonesome I Could Cry」に対するミツキからの回答のように感じられる一方で、献身を誓う言葉が脅威へと変化していく「I’m Your Man」はまるで殺人犯のラヴソングだ。

だが希望がすべて失われたわけではない。アルバムの最後を飾る親密な「I Love Me After You」では、ミツキ本人と思しきキャラクターが自室で髪をとき、化粧水を吹きかけて肌を整えた後、コップに入った水を口にする。「暗闇に私の姿を見せるの」と彼女は淡々と歌う。「私はあらゆる地を支配する王」。アルバムのタイトルとは裏腹に、その地には命の息吹が確かに感じられる。

From Rolling Stone US.




ミツキ
『The Land Is Inhospitable and So Are We』
発売中
詳細:http://bignothing.blog88.fc2.com/blog-entry-14573.html

Translated by Masaaki Yoshida

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