インターポール20年の歩みを徹底総括 NYの象徴的バンドがアルバム全7作を振り返る

5. 『El Pintor』(2014年)


―『El Pintor』は前2作で手に入れた音楽的深みを保ちつつ、ダイナミックなロックバンドのサウンドに回帰したようなアルバムです。初期2作の方向性と、続く2作の方向性を掛け合わせ、さらに前へと推し進めたような印象ですが、あなたにはどんなビジョンがあったのでしょうか?

ダニエル:アルバムのサウンドについての今の説明は的を射ていると思うね。いつもそうなんだけど、俺の場合は作曲をするときは、色々と考えるよりも、とにかく行動するようにしているんだ。「これをやったら良さそうだな」とか考えたりしない。俺はコンセプチュアルなソングライターではないんだよ。バンドとしても、俺たちは自分たちのアイデアをお互いに投げ合って、お互いのエネルギーを感じ取りながら、作曲するという方法を取っている。だからこのアルバムでも、シンプルな作曲方法に戻って、複雑でなく、ただ気持ちが良い感じのもので、自然に思いつくアイデアから作り上げていこうとした。そういう意味では、初期2作の感じがあると思うね。それに加えて、バンドの成熟度がある。もうこの時点で、俺たちはインターポールを15年やっているからね。その期間で色々なことを学び、作曲の仕方やお互いとのコミュニケーションの取り方も上手くなった。そういう成長が自然に表れていると思う。だから、初期2作と続く2作の要素の両方が少しずつ入っていると思う。



―このアルバムがリリースされた2014年は、2000年代初頭に始まったインディロックの熱狂も落ち着き、ラップやR&Bやポップが覇権を握りはじめた時期です。そういった状況の変化をあなたはどのように捉えていましたか?

ダニエル: ポピュラーミュージックに関しては、サイクルで回っているから、ロックが人気な時期もあれば、それに取って代わるものが登場する時期もある。ずっと時は移り変わっていて、今でもラップやR&Bが最も人気を博している。それは当時も今も変わらないことだ。でもそれに対して、自分ができることは限られている。とにかく、俺が大切にしているのは、曲や、曲に込められた感情であって、俺たちの音楽を聴いた人もそこに共感してくれたらいいと思うだけなんだ。

―では、状況の変化自体にはそんなに気を取られなかった?

ダニエル:特に考え過ぎたりはしなかったよ。結局、自分にとって自然に感じることしかできないわけだから。アーティストにはそれぞれ異なった活動の仕方があるけれど、俺の場合は、自分にとってしっくりくることや、シンプルなことしかできないんだ。アーティストによってはさまざまなスタイルの音楽を作って、それを自分のものだと信じ込んで、しっかりとやっている人もいる。それはすごいことだと思う。でも、俺は自分に合っていることしかやらない。俺は今でもクラシックギターで、時にはピアノでもするけど、作曲をするという非常にシンプルなやり方でやる。このやり方じゃないと、自分の心が動かされないんだ。それが俺の変わらないところだ。

だから、質問に簡潔に答えるなら、外の世界で起こっていることに対して、「インターポールがどうフィットするのか?」とか、「俺たちがこうやったらうまくいくだろうか?」とか、そういうことは深く考えたことがない。「これは自分が純粋に感じることで、真摯に感じることだ」ということを表現し、それが、俺たちの音楽に興味を持っている人や、インターポールを好きな人たち、好きだった人たちに伝わるといいなと思うだけなんだ。



―前作がセルフタイトルで、このアルバムのタイトルはバンド名のアナグラムです。このようなタイトルにした意味合いを教えてください。

ダニエル:特に深い意味合いはなくて、アルバムのカバーアートが既に出来上がっていたんだ。ポールはあのアルバムアートをすごく気に入っていた。手のイメージと色の感じが、まるで一つの美しい芸術作品のようで、俺も大好きだよ。ポールはメキシコとスペインに住んでいたから、スペイン語が上手で、彼が『El Pintor』というタイトルを提案したんだ。俺たちもいいなとすぐに思った。『El Pintor』がインターポールのアナグラムになるということは、ポールに指摘されるまで気付かなかった。だから、即決だった。それに『El Pintor』(The painter=絵描き)というタイトルのイメージも面白い。「インターポールによる『The Painter』」と聞くと、その意味について色々なことを連想する。絵描きが音楽を描いているのかとか、そんなことを考えてしまうところが興味深いと思う。


Photo by Atiba Jefferson


6. 『Marauder』(2018年)


―『Marauder』はとてもラウドで、プリミティブなサウンドを持ったアルバムです。あなたたちは3、4作目で非常に凝ったスタジオワークを志向して、5作目にもその余波が残っていましたが、その流れを敢えて一旦断ち切って新しい方向に進もうという意図があったのでしょうか?

ダニエル:それは意図というよりは、人間なら誰しもそうであるように、自分が数年ごとに、違う自分になって行くということの表れなんだと思う。俺たちはアルバムが完成したらツアーに出る。ツアー期間中、俺は作曲をしないんだ。俺の脳は、ホテルの部屋では作曲ができないんだよ。で、ツアーが終わった1年半後に作曲を再開するんだけど、その時点では新たな視点でペンを握っている状態なんだ。1年半前の時点に戻って再開するのではなく、今の現時点から再開するということは健全なことだと思う。そうすることによって、真っ白な紙に向き合って、今の自分の立場から作曲を始めることができるから。

―毎回ちゃんと一度リセットをしてから、前に進むことが大事だと。

ダニエル:だから、いつものように、『Marauder』もインターポールが前進して行ったことの表れだと思う。(通常インターポールはアルバムをセルフプロデュースしていて、)3rdアルバムはリッチ・コスティと共同プロデュースしたけれど、このアルバムもプロデューサーのデイヴ・フリッドマンと一緒に制作を行ったんだ。プロデューサーと仕事をするのは、俺たちにとって新しいことだった。このときは、ニューヨーク北部にある彼のスタジオに行ったんだよ。デイヴ・フリッドマンは、フレーミング・リップスやモグワイ、テーム・インパラ、MGMTと言った最高なバンドたちの最高なアルバムを手がけた人だ。そんな人と一緒に音楽を作るとなったら、彼が作業できるだけの余白を楽曲に残しておくべきだと思った。でも、デイヴは俺たちが持ち込んだ楽曲を気に入ってくれたから、曲自体は特に変わらなかったし、デイヴはそのままの感じを残したいと言って、とても荒々しい(raw)サウンドのアルバムになったんだ。



―デイヴ・フリッドマンとのレコーディングで、特に印象深かったエピソードはありますか?

ダニエル:テープに録音したから、あまり最新のテクノロジーは使わなかったんだ。そのような制限があったことが、逆に効果的だったね。テープに録音するということは、テープの分しか容量(尺)がないということだから、ギターをワンテイクで一曲分、通しで演奏しなければいけなくて、それを採用するかボツにするかという選択肢しかない、という状況だった。それがすごくいい感じに作用して、「これらの曲は本当に録音する準備が整っているのか、そうでないのか?」「自分を十分に表現しているのか、していないのか?」という見極めがしやすくなったんだ。

―なるほど。

ダニエル:だから、アルバムを完成させるのにあまり時間がかからなかったよ。とても楽しい方法で、サクサク進められた。それに、デイヴ・フリッドマンは経験のあるプロデューサーだから、彼の中で、俺たちのサウンドをどのように捉えたいかというのが明確にあったんだ。通常のインターポールの制作方法とは違ったやり方だったけど、素晴らしい経験になったよ。



―あなたは曲作りにおいて、他のアーティストの曲よりも映画や旅に影響を受けることが多いと常々話しています。例えば、『Marauder』に具体的に影響を与えた映画があったりしますか?

ダニエル:いい質問だね。でも具体的な映画を今、挙げるのは難しいな。俺たちが作曲をするときは、通常、俺が最初にギターで作曲を始めるんだけど、その曲に仮の名前をつけるんだ。その仮の名前は、その時に自分が観ていた映画であることが多い。でもその後に、ポールが歌詞を書くから、曲の名前もまた別のものになるんだ。だから、自分がその時につけていた仮の名前を思い出すことができれば、この質問に答えられるんだけど、もう名前が変わってしまったから、思い出せないんだ(笑)。

―他のアルバムに影響を与えた映画でもいいですよ。

ダニエル:少し先の話に進んでしまうけど、俺たちの最新作『The Other Side of Make-Believe』には「Toni」という曲があって、これは『Toni Erdmann』というドイツ映画を観ていたことからつけたんだ。最高な映画で、大好きな作品だよ。この仮の名前に関しては、ポールも気に入って、そのまま曲名になった。『Marauder』に影響を与えた映画は思い出せないけど、確かに映画は俺にとって一番の影響であり、旅にも影響されているよ。

Translated by Emi Aoki

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