ヌバイア・ガルシアが熱弁、UKジャズとクラブミュージックの深く密接な関係

Photo by Adama Jalloh

サックス奏者のヌバイア・ガルシア(Nubya Garcia)は今日のUKジャズにおけるシンボルであり、その理由は2020年に発表された現時点の最新アルバム『Source』のインタビューでもたっぷり語ってもらった。トゥモローズ・ウォリアーズをはじめとしたロンドンの教育機関の出身であること、レゲエを取り入れるなどカリブ海やアフリカからの移民が持ち込んだ文化を反映していることもそれにあたるが、彼女にはもう一つ重要な文脈がある。エズラ・コレクティヴのリーダー、フェミ・コレオソは「UKジャズはダンスミュージック」だと以前語っていたが、クラブミュージック的な文脈を一貫して取り入れてきたのがヌバイアだ。

ナラ・シネフロ、カイディ・テイタム、モーゼス・ボイドなどが参加した『Source』のリミックス・アルバム『Source ⧺ We Move』(2021年)はひとつ象徴的だろう。ジャズがハイブリッドになり、様々なジャンルとの交流が当たり前になっていると言われている昨今にあっても、実はリミックスを制作するジャズ・ミュージシャンは少ない。UKでもほとんどいないのが現状で、クラブシーンとの繋がりはあっても、DJとの接点が増えているとは言いがたい状況だ。そのなかで、ヌバイアは突出してクラブシーン/DJカルチャーにアプローチし続けている。

さらに、今年7月に発表されたシングル「Lean In」はUKガラージにインスピレーションを得た楽曲であり、サウンド面でもより深くクラブミュージックにアプローチしはじめている。そこで、今年10月にブルーノート東京で開催された初来日公演に伴う今回のインタビューでは、彼女の音楽性と広義のクラブミュージックとの関係について尋ねることに。UKガラージからドラムンベース、グライム、ダブ、ジャングルと縦横無尽に語るヌバイアの話を聞きながら、彼女こそUKジャズの象徴的存在であることをあらためて実感させられた。


2023年10月、ブルーノート東京にて(Photo by Tsuneo Koga)


―前回の取材でいろいろ伺ったので、今日はまた別の話を聞かせてください。例えば、僕のTシャツに書いてある言葉(「British History is Black History」)のような話とか。

ヌバイア:いいね。そのTシャツ好き!

―まず、最初にクラブミュージックを意識的に聴くようになったのはいつ頃からでしょうか?

ヌバイア:兄や親から教えてもらったんだと思う。特に、兄はドラムンベースがずっと大好きで、私の部屋は彼の隣だったから、私は大音量のドラムンベースの音を聴きながら育った。たしか、私が9〜10歳で、兄が15歳くらい(ヌバイアは1991年生まれ)。それが覚えてる最初の記憶かな。スピーカーをゲットした彼はドラムンベースに没頭していた。それにティーンの頃は、アンダーグラウンドのレイヴイベントに行ったり、友達から音楽を教えてもらったりっていう感じで、ジャズだけじゃなくて、いろんな音楽やライブの情報をシェアし合える友達に囲まれてた。「次の金曜日はこれに行こう」って感じでね。ガレージ、ダンスホール、レイヴ……いろんな方面で友好関係があった。そういう点においては、ロンドンってまさにぴったりの場所。移民の歴史は、多くの文化が入り混じってる都市だってことを意味するし、その背景が提示されている場所がたくさんあるから。

20代の頃からフェスに行くようになって、やっと自分が好きな音楽がわかってきたり、知らないうちに抱いていたアメリカのハウスミュージックへの先入観に気づいた。ヨーロッパのハウスミュージックって、ちょっと違う形で存在していると思うから。つまり、ホワイトウォッシュされている部分があるってこと。私は、友達やYouTubeを通してたくさんの音楽に触れたり、セオ・パリッシュみたいなレジェンドがフェスでパフォーマンスしてるのを実際に見たり……そういったことの繰り返しから、たくさんの音楽と出会ってきたと思う。

―少し話を戻して、最初に買ったクラブミュージックのレコードやCD、特にハマったプロデューサーについて教えてください。

ヌバイア:最初だったかどうかははっきり覚えてないんだけど、ティーンの私にとって決定的瞬間だったのは「Baby Cakes」(UKガラージのグループ、3 of a Kindによる2004年のヒット曲。UKシングルチャート初登場1位)がリリースされた時のこと、知ってる? ティーンの頃に大流行してた。当時はYouTube全盛期の前だったから、誰かが曲を買ったら「Bluetoothで聴かせて」って、そんなやりとりをしてた。それから、グライムだよね。その時に流行していた音楽には何か共通するものがあった。あとは、初期ドラムンベース(ダブステップ)のMala & Coki、Commodoやその周辺のクルーとか……ほんとにたくさん。




―グライムだと、どういったアーティストが好きなんですか?

ヌバイア:正直、そんなに聴いてるわけじゃないけど、ケイノ(Kano)にスケプタ、ゲッツ(Ghetts)、ギグスは好きかな。グライムを知り尽くしてる友達から教えてもらった。グライムは、私たちの世代の音楽だと思ってるけど個人的にはそこまでハマらかなった。ただ、すごくリスペクトはしている。

―それにしても、あなたにとってドラムンベースは身近なものだったんですね。

ヌバイア:ええ。今年はジョー(・アーモン・ジョーンズ)のプロジェクトで、マーラと一緒にプレイする機会があったのも幸運な出来事だった。私たち3人は以前にも、チャーチ・オブ・サウンドとトータル・リフレッシュメント・センターのコンピレーション・アルバム『Untitled』(2019年)の収録曲(「Scratch &Erase」)を一緒に制作したんだけど、マーラとの共演自体が、音楽のもつ循環的な性質を示していると思う。ティーンの頃から20代にかけて、聴き続けてきた彼の曲を今ではライブのステージで演奏しているというね。彼と知り合って、交流を重ねていく過程はまさに夢のようだった。ブリュッセルにいた時に彼のライブを観に行って素晴らしいライブを体験した。最近はブリクストンのPhonoxで行われた、彼のレーベルとメンバーを祝う特別なライブにも行った。彼はもちろん、CommodoとCokiもそこでプレイしていた。サウンドシステムも素晴らしくて、オールナイトのパフォーマンス。私はその夜に、ここ20年間で彼らが築き上げてきたものに対する疑いようのない愛をみた気がして、それはとても形容できないような瞬間だった。

ドラムンベースはまさにたくさんの喜びを与えてくれる。20代の半ば頃から他の音楽を聴くようになったから、ここ数年は聴いてなかったけど、私にエネルギーを与えてくれるし、その人気をつくづく目の当たりにしてる。もともとはアンダーグラウンドミュージックだったドラムンベースが、今ではちょっと行き過ぎってくらい人気になってるじゃない? 個人的には、あんまり快く思ってないけど。とにかく、私はダブをルーツにした初期のオールドスクール・ミュージックが好き。ドラムンベースの進化は音から感じられるけど、モダンで高音域なものは私の趣味じゃない。つまり、他のジャンルが広大なようにドラムンベースも広大で、あなたと私の好きなドラムンベースは違うっていうことが起こりうる。それはジャズにもグライムにも、アフロビートにも言えること。私たちは違う意見を持ってる生き物だし、きちんと敬意を示しさえすればそれでいいと思う。それぞれのジャンルに情熱を注いでいる人たちに、最大限のリスペクトを示すことを大事にすればいいんじゃないかな。


ジョー・アーモン・ジョーンズ&マーラのライブにヌバイアも参加

Translated by Miho Haraguchi, Natsumi Ueda

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