モトリー・クルー/デフ・レパードが示した「未来」の可能性 増田勇一が考察

デフ・レパード、コーラスワークの妙をあらためて体感

もちろんそれは、この夜を締め括ったデフ・レパードについても同じことだ。ドラマーのリック・アレンが交通事故により左腕を失うという惨事、創成期からのギタリストであるスティーヴ・クラークの他界といった危機を経てもバンドが存続していること自体が奇跡的だともいえるが、これまでの活動歴のみならず自分たちの音楽背景すべてを改めて消化しながら、成熟した視点で独自の音楽を紡ぎあげている近年のクリエイティヴィティの素晴らしさには、目を見張るものがある。それは昨年発表の『Diamond Star Halos』、今年発表されたオーケストラとの共演作『Drastic Symphonies』にも顕著だが、このバンドならではの味わいを楽しめるのみならず、デフ・レパードというVRゴーグルを装着してロック史を探訪するかのような興味深い興奮が伴っているのだ。そして今回目撃したステージについても、そうした近作に通ずる奥深い魅力があった。





それに加えて、デフ・レパードについてはやはりコーラスワークが素晴らしい。ただ単に重層的なハーモニーが完璧に再現されるというのではなく、曲やパートによってそこに絡んでくるメンバーの顔ぶれや人数も異なり、各曲に異なった色彩をもたらしていくのだ。誤解を恐れずに言えば、ジョー・エリオットは個人としての存在感や技量でオーディエンスを圧倒するような歌い手ではないし、器用に何でも歌いこなすというタイプでもない。ただ、そこに各メンバーの歌声が絡むことによって、このバンドならではの奥行きのあるブレンドが生まれるのだ。そうした歌声の重なり合いに人間同士の繋がりの強さを感じさせられる部分があるのも確かだし、だからこそ声が引き起こすちょっとしたマジックに涙腺を刺激されることもある。


デフ・レパード(Photo by Ryan Sebastyan)


デフ・レパード(Photo by Ryan Sebastyan)


デフ・レパード(Photo by Ryan Sebastyan)


デフ・レパード(Photo by Ryan Sebastyan)


デフ・レパード(Photo by Ryan Sebastyan)

捕捉めいた書き方になるが、それぞれが自分たちなりに充実した状態にある2組のライブ・パフォーマンスを味わううえで、Kアリーナ横浜という鑑賞環境も最適だったように思われる。音響の良好さもさることながら、視覚的な意味においても、巨大建造物のようなステージセットではなくLEDスクリーンを駆使した演出が主流になっている昨今のコンサート事情に適合しているように感じられたし、スタンド席からもステージが観やすいのも魅力的だ。そして、そんな環境で、それぞれ90分間に凝縮された満足度の高いライヴを披露してくれた2組の怪物バンドに対して、素直に感謝の気持ちを抱き、いわゆるクラシック・ロックにも未来はあるはずだと思えた一夜だった。


デフ・レパード(Photo by Ryan Sebastyan)

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE