メタリカのラーズ・ウルリッヒが語る、還暦目前の現在地とハードロックの現状認識

Photo by Tim Saccent

メタリカが1983年にデビューアルバム『Kill ‘Em All』をリリースした時、ラーズ・ウルリッヒはまだ19歳だった。リリースを重ねるごとにファンベースが拡大していくなか、1991年に発表された『Black Album』は、「Enter Sandman」や「Nothing Else Matters」等のヒットにも支えられ、過去30年間で最も売れたアルバムとなった。以降リリースされたアルバムはすべてチャートの1位または2位を記録しており、最近では『ストレンジャー・シングス』に起用されたことがきっかけとなって、80年代のアンセム「Master of Puppets」が再び脚光を浴びた。

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トレードマークであるギターリフの応酬とともに、歳をとることに伴う葛藤を歌った最新作『72 Seasons』で、現在59歳のラーズはタスマニアデビルも顔負けの凶暴なドラミングを披露している。アルバムのタイトルは生後18年間を指しており、「Lux Æterna」「Too Far Gone?」「72 Seasons」等の楽曲はすべて、バンドの初期の作品に見られたスピードとエネルギー、そして焦燥感に満ちている。その一方で、本誌は同作について「単にスピードを追求していた頃とは違う、明確な目的意識を感じさせる」とレビューしている。

メタリカがヘッドライナーを務めたPower Tripフェスティバルでのパフォーマンス前に、本誌の取材に応じたウルリッヒは、バンドが築き上げたレガシーと自身のスキルに対する自信が、現在のプレイスタイルの根拠の一部になっていると語った。「過去のレコードの中には実験を試みたものもあったけど、ここ3作では俺たちが最も得意とすることを全面に押し出そうとしている」と彼は話す。「だからこそすごく自然だと感じてるんだ」



ーメタリカは少し前に結成40周年を迎えました。その事実を踏まえた上で、どのような経緯で『72 Seasons』のようなレコードを作るに至ったのでしょうか?

今の時代、新作を出すことにはいろんな課題がつきまとうし、正直リスクもある。「何の意味があるんだ?」とか、一体誰が聴くんだっていう声もあるからね。正気を保ち、心身ともに健康で、バンドとして存在し続けるためにレコードを作る必要があるっていう事実が、今の俺たちの自信になっていると思う。それは俺たちのアイデンティティの重要な部分だ。俺らと同じように長く活動しているアーティストの中には、(新譜を出すことの)必要性を疑問視している奴も多い。それでも、たとえ誰も聴かないとしても、俺たちはきっとレコードを作るだろう。必要なのはクリエイティブであろうとする姿勢なんだよ。

このアルバムのアイデアが生まれたのは、先が見えないパンデミックの最中だった。つまり最初から前途多難だったわけだ。誰も聴かないんじゃないかとか、このご時世にアルバムっていうフォーマットにどんな意味があるのかとか、そういう疑念は確かにあった。でも蓋を開けてみれば、友人やファン、ミュージシャン仲間、俺たちが信頼する人々の反応はポジティブそのものだった。(プロデューサーの)グレッグ・フィールドマンと作ったレコード(『Death Magnetic』『 Lulu』『Through the Never』『Hardwired』等)の中では、これまでで一番評判がいいんじゃないかって感じてる。

Translated by Masaaki Yoshida

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