ビンラディン容疑者の反米メッセージに若者が共感する理由 米

ビンラディンの審判には、当時主流だったアメリカ政治観についてあながち間違いではない部分もある――温暖化ガス排出を規制する京都議定書に署名しなかったアメリカの糾弾などだ。だが一方で、反ユダヤ的な文言やヘイトスピーチも散見される。アメリカを牛耳るユダヤ人が「あなたがたの政治、メディア、経済をコントロールしている」と繰り返し、いたるところでホモセクシャルや姦淫は「蛮行」だと非難しては、本人が「アメリカによる悪魔の発明」と呼ぶエイズの蔓延はアメリカの責任だと主張した。アルカイダの要望については、アメリカに「偽善」文化を撤廃させ、イスラム教国家にさせることだと述べた。

Googleで「Letter to America」と検索して上位にあがってくるのが、ザ・ガーディアン紙のwebサイトに2002年付で公開されたページだ。先月15日、このページはソーシャルメディアで関心を集め、一時トレンドトップ入りを果たしたが、その後新聞社によって削除され、代わりに短いメッセージが掲載された。「以前このページには、2002年11月24日にオブザーバー紙が報じたオサマ・ビンラディンの『Letter to the America』の全文翻訳が掲載されていました」「同じ日に弊誌に掲載された記事は、2023日11月15日に削除いたしました」。それ以上の説明は何もない。

記事が削除されたことで、TikTokやXではさらに議論が活発化した。人々は編集部の決定に疑問を呈し、手紙を掲載した他のページのリンクを探し求めた。「幸い向こうは僕らのメモリを消せないし、僕らが過激化するのを止めることもできない」と投稿したXユーザーは、記事がインターネットに出回った後でザ・ガーディアン紙が削除したのは「偶然ではない」と主張した。「世間を無知な状態にしておきたいんだ」と別のユーザーも投稿した。9.11同時多発テロ事件の首謀者ビンラディンは「必ずしも悪者じゃなかった」と主張するユーザーもいた。「いわゆるTikTok左派がオサマ・ビンラディンを称賛してるみたいだけど?」と、信じられないといった風にツィートするユーザーもいた。「過激化して頭おかしくなったんじゃない?」。

何はともあれ、すでに大勢の命が奪われている中東での紛争や、この地域でのアメリカの立ち位置をめぐり、アメリカ人が対立して怒りにかられていることを如実に示しているのは間違いない。こうした議論に関わった一部の人間が過激思想に基づく大量殺人を正当化したあかつきには、最悪の事態になるだろう。

後日こうした現象を報じた記事には、ジャーナリストのヤシャール・アリ氏がTikTok動画をまとめた総集編をXに投稿していなかったらこんな風にはなっていなかっただろう、と論じられていた。ワシントンポスト紙によると、総集編の閲覧回数は3200万回以上。一方、投稿以前に#lettertoamericaというハッシュタグ付きのTikTok動画が閲覧された総数は200万回だった(このハッシュタグはすでにTikTokからすべて削除済み)。ザ・ガーディアン紙がwebサイトから記事を削除したために、かえってコンテンツを広めることになった可能性もある――情報が検閲されたと分かると、かえって関心が高まる「ストライザンド効果」と呼ばれる現象だ。

とはいえ、ビンラディンの手紙に魅了されたZ世代の当初の熱はしぶといようだ。のちにTikTokから削除された動画をアップロードしたインフルエンサーは(安全性の理由から匿名希望)、少なくとも1週間前に「Letter to America」を勧める動画を目にしたとローリングストー誌に語った――ただし、すべて無視したという。今週に入ってからも、手紙を話題にするTikTok動画はFor Youページに溢れていたそうだ。

編集部追記(11月16日、東海岸時間午後8:40):この記事はTikTokのコメントと、「Letter to America」の動画と投稿が閲覧された経緯の詳しい背景を加筆して改訂されました。

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from Rolling Stone US

Akiko Kato

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