She Her Her HersとThe fin.が語る、アジアでの音楽活動、静かな監視社会で感じたこと

言葉とサウンドの関係

―The fin.は英語で歌って世界で聴かれるようになって、台湾のSunset Rollercoasterとかもそうだったわけですけど、でも今は日本語の曲でも徐々に世界で聴かれるようになってきていて。もちろん、楽曲が聴かれる背景はそれぞれだと思うけど、シーハーズの日本語曲が中国でたくさんの人に聴かれたのも時代感を感じます。

Yuto:俺たちはほんまに初期からずっと英語でやってて、やっぱり英語でやってるとダイレクトに届く感じはするんですよね。最初にSoundCloudに曲をあげたときから、コメントは英語やったし。ただ俺にとっては英語に切り替えたことによる音楽性の享受の方が大きかったかな。英語にしたことで自分の表現の幅が広がって、自分がやりたい音楽ができるようになった。一番最初は日本語でやってたけど、でも出てくるメロディと日本語の整合性が取れなくて、英語にしたらそれがきれいになったっていう。

―それで言うとシーハーズは日本語だけどサウンド感やリズムをすごく意識している印象で、だからこそ日本語が母国語ではない国でも聴かれた部分は大きいと思うんですけど、そのあたりはいかがですか?

松浦:それはあると思いますね。俺は途中でバンドに入りましたけど、元からとまそんの歌詞はすごくて、母音と子音をすごく意識して、母国語じゃなくても「言いたくなる言葉」なんですよね。だからあえて英語もカタカナにしたりして。

とまそん:英語と日本人が使うカタカナの言葉は全然意味が違うから、俺カタカナの言葉って結構肝だと思ってて。元は英語だけどもはや日本語で、でもやっぱりサウンドは英語由来だから、メロディに乗せやすかったりするんですよね。曲の作り方としては、ヒロヤスがメロディとアレンジをある程度作って、すでに世界観があるところに歌詞を乗せていくので、まずはサウンドとしての聴き心地を優先して、かつ意味がちゃんと通るものを考えます。

タカハシ:とまそんの歌詞は本当に、もらったやつをそのまま歌ったらそのままメロディに乗っかる、みたいな感じで。とまそんが前のバンドで松本隆さんに歌詞を書いてもらったことがあって、ボーカルの子が歌ったらそのままスムーズに歌えたって聞いて、そんな感覚に近いのかなって。大樹には大樹のスタイルがあるし、2人のスタイルが一個形としてできてるので、どんなメロディでも気持ちよく歌詞を乗っけてくれるだろうなと思ってます。

Yuto:昔ライブで「一緒に歌おうよ」みたいになって、リハに行ったんですよ。そのときにすごく気持ちいいところに言葉がハマってるというか、それこそ松本隆が書いてる歌詞の気持ちよさを感じて、「めっちゃ気持ちいいな」って思ったのはすごい覚えてる。

Kaoru Nakazawa:俺普段日本語の曲って全然聴かないんですけど、シーハーズは普通に道を歩いてるときとかにアルバムをフル尺で流したりするんですよ。日本語の表現の柔らかさもあったりして、それで穏やかな日常にもはまるんじゃないかなと思います。

―大樹くんはシーハーズの言葉とサウンドの関係をどう感じてますか?

松浦:言葉と音の馴染みが良すぎて、インストゥルメンタルにも聴こえるというか。あとヒロヤスの作る曲で印象的なのはイントロとかテーマとか、歌じゃないところもサビに聴こえることで、俺はそれすごいヒロヤスのストロングポイントだと思ってて。

タカハシ:『location』を作ったときに思ってたのは、日本のABサビみたいな仕組みじゃなく聴かれる曲を作りたいってことで。テーマをシンガロングできるような、ホワイト・ストライプスの「Seven Nation Army」みたいに、サッカー場でみんなそのテーマをずっと歌ってるみたいな、ああいう感覚で作りたいと思ってたんですよね。実際リスナーがどこを聴いてるのかはわからないですけど、でもあの作品から中国でも曲が広がった感じはして。



―「Episode 33」もテーマが印象的だし、今ライブだとあのメロディはヴァイオリンで弾かれてて、オリエンタルな雰囲気を出してるのもちょっと中国っぽいなと思ったりして。

Yuto:チャイナっぽいよね。もはや二胡みたいに聴こえる。

タカハシ:全く狙ってはないんですけど、ヴァイオリンが乗ったらそう聴こえますよね。ライブ映像を見直すと、ヴァイオリンの百恵実ちゃんが何かの曲でパッと照明が当たったときに、結構歓声があって。サポートメンバーだけどちゃんとメンバーみたいな感じで見られてるし、やっぱりヴァイオリンって、心をくすぐる何かがあるのかなって。

―この2組は英語と日本語という違いはありつつ、サウンド感では通じる部分もあるし、中国でも両方のバンドのファンっていうお客さんも多いんですかね?

Yuto:いると思います。前に「シーハーズが」みたいなこと言ってるお客さんいたし。

タカハシ:いま僕らの活動が広がっていってるのは絶対にThe fin.の影響というか、The fin.が風穴を開けてくれたおかげで、日本のインディシーンが中国に入りやすくなったのは間違いなくあると思うので、The fin.が歩いてる後ろをちょっとずつ、マラソンの2位みたいな感じで、風をあんまり感じずに走れてるというか(笑)。

―でもシーハーズが抖音で使われたりっていうのは、きっとこれまでThe fin.のリスナーではなかった層にも届いてる感じがしますよね。

Yuto:同一の現象というわけではないと思いますね。同じ日本っていうルーツを持ってて、たまたま友達やったから、一緒のようにも見えるけど、現象としてはちょっと違うというか……ほんまにね、ただの偶然っていうのが俺は一番大きい気がしてて。The fin.もほんまにそうやし、成功に理由はないんじゃないかなって。

とまそん:でも常にボールを投げてるっていうか、それはあるじゃん。

Yuto:そうそう。俺たちは行ってるし、シーハーズも行ってるし。

とまそん:そこが違うんだと思う。

Yuto:ほとんどの人は行かないもんね。勝手に行けないって思っちゃったり。頑張ってるとしたらそこやね。「行ってる」っていう(笑)。

とまそん:抖音で聴かれるようになったのも、その前にどうなるかわからない状態で中国ツアーに行った後だし、The fin.もアメリカでツアーをやったり、イギリスに住んだり、そういうのを見ててすごくいいなってずっと思ってて。それこそ出会ったのは7〜8年前とかで、シーハーズが新しいCDを出すタイミングだったんだけど、国内に一緒にやりたいアーティストがいなくて。でもThe fin.が関西のラジオで流れたのをたまたま聴いて、めちゃくちゃいいと思って、スケジュールを見たらツアーの予定があったから、「ここに入れないですか?」って連絡して、そこからすごい仲良くなって。

Yuto:俺らもすぐ「めっちゃいい」ってなったもんな。

とまそん:でも結局そこからあんまり友達は増えなかったんですけど(笑)。

Yuto:俺もそれすごい思ってて、The fin.ってずっと1人なんですよ。英語でやり始めたけど、それに続く人がいない。海外に行ったけど、それに続く人がいない。でも今回初めて中国っていうストーリーの中で、シーハーズが続いてくれた。科学でも何でも再現性が大事やから、1回何かが起こって、もう1回起こって、もう1回起こったときに何かがちゃんとできるんですよね。だから、あともう1バンド誰か続いてくれたら、ちゃんとしたルートができると思う。だから俺らとシーハーズが頑張って、もっと盛り上げて、あともう1バンド、俺たちをガンッて乗り越えるようなバンドが出てきたときに、アジアの音楽シーンが大きく変わるんじゃないかなって。だから……みんなチャンスだぞって思いますね。




The fin.(Photo by renzo / レンゾ)

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