She Her Her HersとThe fin.が語る、アジアでの音楽活動、静かな監視社会で感じたこと

「危うい社会の中で危うい人たちが生きてて、いろんなことに一喜一憂してる」

―シーハーズの新作『Diffusion of Responsibility』についても聞かせてください。やはり印象的だったのが「Bystanderds」と「CHELSEA」という冒頭の2曲で、エレクトロハウスというか、よりダンスミュージック的な側面を強めていることが、現在のシーハーズを象徴しているように思いました。

タカハシ:アルバムに着手し始めたのが4月以降だったので、台湾でのライブを経て、中国のライブも決まり始めた段階で、ライブでの対お客さんっていうのをすごく考えるようになってた時期だったので、お客さんと一体になれるというか、自然と体が動くような曲をもう少し増やしたいなっていうのがあって。Tychoを聴いたり、「CHELSEA」はKAYTRANADAをめちゃくちゃ意識しました。フェスで一緒になったFKJもそうですけど、シンプルで、気持ちよく乗れたり、踊れるたりするような、それは意識しながら作っていきました。



―「Bystanderds」では〈血を沸かせ いずれ血を沸かす〉と歌われていて、歌詞からもライブの熱量が伝わるような印象を受けました。

松浦:今って「個性の時代」とか「多様性」とか言いながら、結局無個性時代に突入してる気が俺はしてて、SNSのトンマナとかえぐいし、それで疲れちゃったりもして。それを壊したいってわけじゃないけど、自分の個性がつぶれない社会って何なんだろうって考えたときに、せめて音楽を聴いてる間だけは自分が主人公だと思えるような曲にしたくて、この曲のテーマはそのためのチャイムに聴こえるというか。だから「Bystanders=傍観者たちになるなよ、このチャイムを聴いたら動き出せ」っていうイメージですね。昔フジロックのフランツ・フェルディナンドのライブでお客さんみんなで戦いにいくみたいな感じになったのをすごく覚えてて、将軍が何か言って、「オー!」みたいに……この曲『キングダム』ですね(笑)。

ー号令をかけるような(笑)。

松浦:傍観者たちっていうのは自分たちでもあり、今の社会構造で鬱屈が溜まったあんたたちにも言ってるよっていうメッセージがあるんですけど、とはいえ歌詞の真意を100%理解してくれなくてもよくて。このチャイムが鳴り出したら、「お前本当はそうじゃねえだろ?」っていう、それをそれぞれ見つけてくれ、みたいな感じ。このテーマのフレーズを聴いたときに、絶対にこれはアルバムのメインになる曲だと思ったし、ツアーのハイライトになるのも想像できたから、ちょっと強めの歌詞にしたんです。中国は歌詞の検閲があるから、ビビりつつも結構キワキワを攻めたんですけど、全部通りました。なので、意外と大丈夫っていうのもみんなに伝えたい(笑)。

―「CHELSEA」の歌詞はとまそんくんですね。

とまそん:僕は今中国語を勉強してて、ライブの後に僕だけ上海に1週間ぐらい滞在したことがあるんですけど、夜若者たちが行くようなバーに行って、いろんな人と話したりすると、日本と社会の仕組みが本当に違ってて、中でも顕著なのはやっぱり監視社会なんですよね。できることできないこと、やっていいことやっちゃいけないこと、言っていいこと言っちゃいけないことがめちゃくちゃはっきりしてて、でもその中でも楽しめることを探してるし、ライブで盛り上がることが生きがいの人もいる。あと、そういう監視社会みたいな守り方をしないと、国として成り立ってられないような不安定な状況もだんだんわかってきて。その危うい社会の中で危うい人たちが生きてて、いろんなことに一喜一憂してるのを感じて、めちゃくちゃエモい気持ちになったんです。



ー「Bystanders」ともちょっとリンクする部分がありますね。

とまそん:大樹と示し合わせたわけではないんですけどね。「CHELSEA」では社会のシステムのことを「夜」と表現して、夜からは自分のことが丸見えだし、夜がそこにあるのはわかるけど、でも何だかわからない存在として常に自分のことを見られてるっていう、そういう世界観で書いた歌詞で。そういう心境にいるときのドキドキする気持ちは音楽の中にもあるから、共有できるんじゃないかなと思ったし、直接的な表現をするよりも、イメージを膨らませられる余白があった方が、意外と共有できるものがいっぱいあるなって。それは日本語でもそうですけど、海外の人に向けても同じでいいんだなっていうのは、これまでやってきて自信がついた部分だったので、それを信じて書きました。

―「TROUGH」はヴァイオリンの旋律が非常に印象的です。



タカハシ:やっぱりヴァイオリンを入れる曲は何かしら欲しくて、効果音的に散りばめた曲もあるんですけど、ある程度フィーチャーできるような曲も作ろうと思って作りました。

Yuto:これからは二胡になってくんじゃない? 日本と中国の融合みたいなのって、サウンド的にも面白そうやけどね。俺が小学校6年生くらいのときにB’zのTak Matsumotoがインストのアルバム(『華』)を出したんですよ。それが全編チャイナ風で、二胡とか入ってて、俺それちっちゃいときずっと聴いてて。ギターソロの後に二胡のソロが来んねんけど、Tak Matsumoto負けてて、「二胡すげえ!」みたいな(笑)。


She Her Her Hers(©BUBBLING BOILING MUSIC ARTS FES)

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