デュラン・デュランのニック・ローズが語る日本への想い、「80年代の象徴」が今も変化し続ける理由

 
新たな黄金期の背景、日本への熱い想い

―ロックの殿堂入りのセレモニーでは、あなたたちを紹介した俳優のロバート・ダウニー・Jr.が「デュラン・デュランは我々に、“最高の日々は今ここにある―それどころか、今後訪れるのだ”と諭している」というようなことを言っていました。すごく的を得ているなと感じたんですが、まさにその、常に前へ進もうとする意欲が息の長いキャリアを裏打ちしているのでは?

ニック:それももちろん、デュラン・デュランの強みのひとつだと思う。言うなれば、僕らは好奇心旺盛で、冒険心に恵まれているんだよ。だからこそ常に前を向いて活動している。それにアーティストなら誰でも、過去に試したことがないアイデアに挑戦したいと思うもので、新しい目標が見つかると、よりインスパイアされるし、同じことを繰り返していると停滞してしまう。どんな形のアートにも言えることだけど、心地良くなり過ぎると決していい作品は生まれない。すごくハッピーで、窓から太陽の光が差し込んでポカポカしているような状態に自分を置いていたら、何かしら可愛らしくてナイスなものは生まれるかもしれないけど、大きな進化にはつながらない。ほんの少しでも居心地の悪い場所に、遠くまで手を延ばさないと目当てのものに手が届かない場所に、ギリギリ水面に頭が出ていて呼吸ができる場所に身を置いてこそ、それは実現する。デュラン・デュランはそういったことをうまくこなしてきたと思う。

それにラッキーなことにメンバーが4人いるから、誰かひとりが水中に沈みかけたら、ほかの3人で引き揚げればいい(笑)。その一方で、もうひとつ僕がデュラン・デュランの強みだと思っていることがあって、それは非常にフレキシブルだという点だ。例えば、明日いきなりオーケストラとのコラボ・アルバムを作る可能性だってある。アンビエント・アルバム、あるいはスポークンワード・アルバムを作ったとしてもおかしくない。掘り下げる価値があると感じさえすれば、その目標に向かって一致団結できる。バンド活動をしていて一番楽しいのは、そういうフレキシビリティなんだよ。


2022年、「ロックの殿堂」入り式典でのパフォーマンス映像

―それは世代的な特徴でもあるんじゃないでしょうか。というのもあなたたちに限らずポストパンク世代の英国のバンドは驚くほどクリエイティブで、多くが今も現役で活動しているだけでなく、常に変化し、時代の動きに寄り添う作品を作り続けています。今年新作を発表したエヴリシング・バット・ザ・ガール然り、OMD然り、デペッシュ・モード然り。

ニック:はっきりしたことはは分からないけど、そこにはもしかしたら理由があるのかもしれない。例えば僕らはみんな、親の世代が聞いていた60年代の音楽と、自分たちにとってリアルタイムの音楽だった70年代の音楽に耳を傾けて育った。つまりビートルズやローリング・ストーンズ、ジミ・ヘンドリクッスにドアーズといったアーティストたちがいて、さらに70年代へ入るとファンク、ソウル、プログレ、グラムロック、ディスコ、パンク、エレクトロニック・ミュージック……といった具合に、シーンは多方向に拡大していった。そしてふと気付くと音楽的パレットは途方もなく広がっていた。

デュラン・デュランはこうした、子どもの頃から親しんできた多彩な音楽の中から好きなものをピックアップして、独自のパレットを構築したんだよ。同世代のアーティストの多くが、同じようなアプローチで音楽を作っていた。しかもそれぞれ志向が異なっていて、他と差別化することを最も重視していた。独自のサウンド、独自の思想、独自のファッションを確立して。何よりも個性が大切だったんだよね。だからこそ、君も何組か名前を挙げてくれたけど、ザ・キュアーもインエクセスもザ・スミスもマドンナもプリンスも、みんな同時期に頭角を現したものの音楽性が見事に違っていた。それをずっと維持してきたんだよ。と同時に、僕らは労働観も共有していた。誰もが地道にライブの回数を重ねて成功を手にし、実際にみんなで音を鳴らしながらハンドメイドで曲を作ってきた。その点も変わっていないよ。



―労働観と言えば、2021年に『Future Past』を発表して以来あなたたちはコンスタントにツアーを行なって、今までにも増して精力的に活動しています。2024年も忙しくなりそうですか?

ニック:現時点で決まっているのはいくつかのフェスだけだけど、僕自身が一番やりたいのは、最後にアンディと一緒に作った未完のアルバム『Reportage』を仕上げることだね。あれは2006年だったかな、当時は一旦お蔵入りにして、異なる路線のアルバムを新たに作ったんだよ。なのに、今になってどうこうしようというのもおかしな話だけど、先週スタジオに全員で集まって音源を聞いてみたんだ。仕上げるべきなのか否か判断するために。するとその出来栄えの素晴らしさに驚かされて、来年ぜひ完成させようと確認し合った。だから『Reportage』が来年の最優先事項だよ。

―日本ツアーも忘れないで下さいね。

ニック:それが実現したら最高だね。僕は日本が大好きだし、恋しいよ。実は個人的に携わっていて、やはり来年中に完成させたいプロジェクトがある。日本の第二次大戦後の写真表現に関するドキュメンタリー映画なんだ。5年前に着手して、森山大道や荒木経惟や細江英公といった偉大なフォトグラファーたちのインタビューもしているしね。非常に光栄な体験だったよ。貴重な映像が取れているだけに、これを仕上げて、日本で披露できたらと願っているよ。




デュラン・デュラン
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