日本の音楽カルチャーを世界に届けるためには何が必要? Spotifyグローバル役員に聞く

 
INTERVIEW Part .2
Tony Elison

日本におけるSpotifyの現状と将来のヴィジョン

ーSpotifyが日本でサービスを開始してから7年が経ちました。トニーさんは日本におけるSpotifyの現状をどう捉えてらっしゃいますか?

トニー:僕が着任したのは2021年2月で、そろそろ3年経とうとしてるところなんですけど、おそらく最初の5年間が1番大変だったのではないかと思っています。主要な音楽カタログが十分に揃っておらず、国内の音楽業界からも決して100パーセントの信頼や支持を得られていたわけではなかったとききます。そんな中、試行錯誤と日々の努力を繰り返し、業界関係者やアーティスト、そしてユーザーにSpotifyに対する理解が徐々に広がっていった。グスタフとジェレミーの話にもありましたが、手応えというか、ちょっと流れが変わりつつあるなと感じたのが、ちょうど僕が参画した頃。ストリーミング自体がビジネスの転換期にきたなと感じたんですね。ユーザー層も、アーリーアダプターからメインストリームに大きく広がりつつあり、ストリーミングがニッチからメインストリームになりつつある感覚があった。さきほど、日本での成長が鈍化してるんじゃないかという質問がありましたが、この先、まだまだ伸びていくんじゃないかと確信しています。


スポティファイジャパン株式会社 代表取締役 トニー・エリソン氏(Photo by Mitsuru Nishimura)

ートニーさんは別のインタビューで、コロナ禍を抜けてフィジカルと結びついたとき、また次のフェーズに行くんじゃないかということもおっしゃっていました。音楽ライブやフェスなども活発化してきている今、どのようなことを感じてらっしゃいますか?

トニー:コロナ禍で、映像も含め多くのデジタルサービスが成長したわけですが、外に出られない、ライブがない状況の中で、ある意味、そういったサービスが広がるのは当然だったと思うんです。コロナがようやく落ち着き、ライブも復活してフェスが戻ってきた今、ライブやフェスの後も音楽を聴いてその余韻を楽しみたいということで、ストリーミングへのニーズはさらに高まっていると思うんです。さらに、さっきの話にもあった通り、ストリーミングが普及するほどにアナログ盤やCDなどのフィジカルも復活している現象も見られる。音楽ってすごく多様じゃないですか? 音楽そのものも多様だし、聴く手段もそう。音楽を体験する手段も非常に多様。コロナ後は、ライブだったり、映画だったり、いわゆるオフラインな体験を通じた音楽発見も復活しているので、これらで出会った音楽を思い立った時に気軽に楽しめる手段としてストリーミングへのニーズはさらに拡大するんじゃないかと思いますね。

ー日本でもストリーミングの利用は大きく広がっていますが、とはいえまだ利用してない人も多いと思います。世界第2位の音楽市場である一方、日本ならではの市場特性もある中、国内でユーザーをさらに広げていくために、Spotifyとして、どういうことに注力していこうとお考えでしょう。

トニー:今、ストリーミングを使ってない人は、音楽が嫌いなわけでも、嫌いになったわけでもなく、仕事や子育てなど日々の生活のいろんなことに追われ、音楽との距離がちょっと遠くなり、ライブに行く時間もないという状況じゃないかと思うんです。こうした生活の中で、かつて感じていた音楽への強い興味や情熱を少し忘れてしまっているんじゃないかと。Spotifyの仕事は、こうした人たちに音楽の楽しさや大切さを思い出してもらうこと。皆それぞれに音楽好きなはずで、この音楽を聴くとちょっと気分が高まったり、やる気になったり、勇気が出たりとかいうことがあると思う。そういったところをちょっとつっつくことだと思っています。毎日の中のときめく瞬間にSpotifyがそこにいるというのが大事だと思うんです。まだストリーミングを継続的に利用してない人たちも、音楽に興味がないわけではないはずなので、音楽はここにいるよってことをいかに知ってもらえるかということが大事だと思っています。


2023年、最もSNSでシェアされた楽曲をまとめたプレイリスト。JO1の躍進が目立つ

ー今後、Spotifyは日本において、どのようなブランドやコミュニティになっていきたいと考えてらっしゃいますか?

トニー:形容詞でいえば、やっぱり「楽しい」ですよね。日本でサービスを開始した当時は、かっこいいブランドになりたいというのが一次回答だったのではないかと思います。熱心な音楽リスナーやカルチャーファンの皆さんからも、かっこいいブランドとして認識や支持をいただけたように感じています。今後はより広い層の方達から楽しいと感じてもらえるブランドにしたい。そもそも音楽って、楽しくて、奥深くて、気分が盛り上がりますよね。音楽=Spotifyと言い換えられるぐらいの存在になりたいですね。



スポティファイジャパンは次世代アーティストをバックアップする「RADAR: Early Noise」、音楽におけるジェンダーの公平性を促進し、女性の持つパワーや可能性を引き出していく〈EQUAL Japan〉といったプログラムにも注力している

ー以前、5年後、10年後の未来を尋ねられたとき、テクノロジーの進化が早いので先のことはその時にならないとわからないとおっしゃっていました。現在、未来についてはどのように考えていますか?

トニー:前回のインタビュー以降、大きく動いたものの一つがAIですよね。1年前だったら、ほとんど誰も生成AIって表現を知らなかった。1年間でこれほどの革命的な技術の進化が起きる世の中では、それこそ5年後、10年後に何があるのかは全くわからない。なので、「先のことはその時にならないとわからない」という回答自体は前回と変わらないです。どんな新しいテクノロジーが登場しても、最初から支持する人もいれば、懸念を示す人もいると思うんです。Spotifyだって最初は、業界からストリーミングが広がることで収益が落ちるんじゃないかと懸念された。けれども今やストリーミングによって市場は着実に成長していて、業界関係者もストリーミングを活用することで機会を最大化できるということを理解し、安心できるようになってきた。業界が安心して支持するようになってくれると、利用するユーザーもどんどん前向きになってくる。この先、例えば10年後にどのようなデバイスやアプリで音楽を聴いているかは分かりませんが、音楽は人間にとって欠かせないものというのは変わらない。これからもどんどん多様な音楽にアクセスしやすい世界になっていくと思いますし、アクセスしやすくなると新たな出会いや発見も増える。聴かれる楽曲の多彩さがさらに音楽の多様性を推し進めていく。そう考えると、すごく明るい未来なんじゃないのかなって気はしていますね。まだまだ未来に期待しています。

 
 
 
 

RECOMMENDEDおすすめの記事


 

RELATED関連する記事

 

MOST VIEWED人気の記事

 

Current ISSUE