YOASOBIの仕掛け人に学ぶ J-POPを海外に伝えるための信念、ストリーミングやSNSとの向き合い方

 
2023年、YOASOBIの「アイドル」は数々の記録を打ち立てた。Spotifyでは国内アーティストの楽曲として最速で1億再生/2億再生を突破し、Spotify年間ランキング「日本で最も再生された楽曲」で1位に。さらに、ビルボードのGlobal Excluding USチャートでは日本語オリジナル楽曲として初めて首位を獲得するなど、国内外問わず「アイドル」現象を巻き起こした。

さらに、今年5月にはSpotifyの月間リスナーが1000万人を突破し、年間ランキング「海外で最も再生された日本のアーティスト」で3連覇を達成したYOASOBIは、昨年12月にインドネシアとでフィリピンで開催された88rising主催のフェス「Head In The Clouds」に出演したことを皮切りに、海外でのライブ活動をスタート。今年12月から1月にかけて、初のアジアツアーも敢行する。そもそもデビュー曲の「夜に駆ける」から海外で支持されているアーティストだが、2023年はそれを決定的にした年だろう。

YOASOBIのSNSプロモーション戦略を担う屋代陽平氏、楽曲をはじめとするクリエイティブ面を担う山本秀哉氏、そしてSpotify Japanの芦澤紀子氏の鼎談を通じて、YOASOBIの快進撃とストリーミングの相互関係、共感とつながりを生むSNS運用術、海外活動のヴィジョンなどを語ってもらった。



左から芦澤紀子氏、山本秀哉氏、屋代陽平氏(Photo by Chiemi Kitahara)


「アイドル」世界的ヒットの裏側

芦澤:2023年、YOASOBIの「アイドル」がSpotify上で様々な記録を打ち立てました。改めてこのヒットについてどう捉えていますか?

山本:おかげさまで「アイドル」をリリースする前から、デビュー曲の「夜に駆ける」をはじめ、海外で聴かれている楽曲は複数ありました。「アイドル」は今年4月にリリースしましたが、昨年12月のインドネシアとフィリピンでの「Head In The Clouds」によって海外での支持を実感し、海外に視野を向け始めたタイミングでもありました。ただ、曲作りについては「J-POPの良さをどう海外に伝えるか」という風に考えていました。

「アイドル」はアニメ『【推しの子】』のオープニングテーマで、アニメに紐づけて作った曲です。『【推しの子】』は日本のアイドルをテーマにしたアニメなので、僕としては「日本のカルチャーをたくさん入れられるな」ということを考えながら、Ayaseと一緒に考えていきました。

タイアップ(という概念)は海外にも存在しますが、タイアップに紐づけて楽曲をしっかりと伝えていくことがスタンダードになっている国は日本以外にあまりないんじゃないかと思っています。でもそこで、「タイアップは海外には馴染みがないから」といって切り捨てるのではなく、その仕組みも含めて輸出していった方が新鮮に受け止められて広がっていく可能性がある。例えば今年、NewJeansがコカ・コーラとのコラボ曲「ZERO」をリリースしましたが、それを踏まえるとやはり日本のタイアップの施策は海外でも勝ち筋があると思いました。当たり前にやっている仕組みを見つめ直すべきだなと思っています。



ータイアップの文化がなければ「アイドル」自体生まれなかったわけですよね。

山本:そうですね。あんな変わった構造の曲は(笑)、明るい部分もあれば深い闇も宿している『【推しの子】』がなければ生まれなかったと思います。あとはJ-POPを作るにしても、突き抜けたほうがいいなと思っていました。世界的なトレンドとしてもチルな音楽を聴きたい人も多いと思いますが、トレンドにあまり迎合せず、 強い意志でやっていくことも大切かなと。「夜に駆ける」とかは、聞き馴染みが良いとされていたAメロ→Bメロ→サビ→Aメロ→Bメロ→サビという繰り返しの構成とは真逆で、サビが終わったら全く新しいパートが羅列されます。同じようなメロディがない構成は飽きられる可能性もあると思っていましたが、繰り返すことで耳に残って何回も聴きたくなるというのと違うことをやってみた結果、逆に飽きないっていう方向に振ることができたんだろうなと。海外ライクなことをして拡がるというよりは、新しいことをやって認知されていった方がベットしがいがあると思うんですよね。

それと、「アイドル」での一番のトライは歌い方でした。最初、あのラップみたいなパートに対して「どうやって歌うのが良いんだろう」とチーム全体で悩んでいたんですよね。普通に歌ってもハマらないんです。そこでAyaseが突然「とことんアイドルみたいに歌ってみたらいいんじゃない」と言い出した。僕もちょうど「アイドル」のレコーディングの少し前くらいに「ikuraらしく歌う必要はないんじゃないか」ということに色々と思いを巡らせていて。極端なことを言うと、たとえ何かの物真似をしたとしても、ikuraが歌えばYOASOBIの楽曲として成立する。そういう幅の見せ方ってあるよなと。どうしても「後ろで流れてる音を変えてみよう」とか、「構成を変えてみよう」っていうことに視点が行きがちで、声には目がいかないことが多いんですが、歌声を変えてみたら新しい幅が生まれました。YOASOBIとしてある程度曲を出してきて、曲調で新しいことをやるのもなかなか難しいと思っていたけれど、声は意外と変えてなかったんですよね。


芦澤:「アイドル」は歌うのが難解な曲ではありますが、結果的にTikTokなどの動画投稿型SNSで「歌ってみた」「踊ってみた」投稿が爆発的に量産されましたよね。

山本:難しかったとしても、みんなチャレンジしたくなって歌ってみてくれるんだなと改めて思いました。

屋代:もちろんリリース前はたくさんの人に「歌ってほしいな」とか「踊ってほしいな」と思っていて、インフルエンサーへの働きかけをやってみるという案もあったんですが、結局やりませんでした。なぜかというと、まずは『【推しの子】』との相性の良さを打ち出せば、『【推しの子】』自体が「真似したい」「関わりたい」という力を大いに持っている作品であるという確信があったから。そして、実際に「アイドル」を日本のアイドルの方が踊ってくれ、K-POPのアーティストも踊ってくれた。

「アイドル」も含めて、YOASOBIは「●●チャレンジ」とかインフルエンサーへの働きかけをほぼやってないんですよね。まずは楽曲を通してタイアップ作品や原作小説の魅力を伝えたいというところが根本にあります。ユーザーの方が自発的に動画などで楽曲を使っているのを見て、「こういう風に受け止めてもらえるんだ」ということと向き合って、さらに世の中に広げていくために、フットワーク軽くUGC(ユーザー生成コンテンツ)の作品の引用をしてみたり、コメントを付けたりしています。だから、プロモーションは後出しのケースの方が多いです。

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