YOASOBIの仕掛け人に学ぶ J-POPを海外に伝えるための信念、ストリーミングやSNSとの向き合い方

 
YOASOBIはバイラルチャートと共に育ってきた

ーSpotifyにはいくつものチャートがありますが、おふたりが普段よくチェックしているチャートというと?

屋代:バイラルチャートや急上昇チャートをよくチェックしています。トップチャートより聞いているかもしれません。

山本:トップチャートはアーティスト自体の知名度やタイアップに紐づいて聴かれていることも多いですが、バイラルしたり急上昇するのは曲に力があるからだと思っています。なので、「この曲のどこにそういう力があるんだろう」ということを意識しながら聴いて、チャートに入っている曲の共通点を探したりしています。

屋代:Spotifyさんのバイラルや急上昇に入っている曲が、他のDSPでどの位置にいるかをチェックします。どのDSPの順番で曲が浸透するかは差がありますよね。例えば、Spotifyさんで今ここ、Apple Musicさんだと今ここ、LINE MUSICさんだと今ここ、みたいなことのなかで最終的にトップまで駆け上がっていくタイプの楽曲と、例えばSpotifyさんでは上位に入っているけど、Apple Musicさんだったらチャートに入っていない曲もある。そういう動きはYOASOBIの曲も含めてかなりウォッチしています。

芦澤:ストリーミングのひとつの特性としてロングテールで聞かれるということがあります。ヒットチャートの変化は激しくはなくて、どのDSPでもトップ20はそんなに変わらないこともあります。それに対して、急上昇チャートとバイラルチャートの入れ替わりはかなり激しいです。その2つのチャートは今まさにソーシャルで起きているバズが早い段階で可視化されるので、チェックしておくと次の動きを予見できる可能性が高い。その曲が必ずしもトップチャートに入るわけではありませんが、動きを早くキャッチするためのひとつの要素としてSpotify側も重要視してます。




ー急上昇チャートに見慣れない楽曲やアーティストが入っていた場合、TikTokでバズり始めていることがありますよね。

芦澤:そうですね。「この曲、急に入ってきたけれど、何だろう?」と思って調べることも多いです。「たぶん」の事例もそうですが、最近はそういった現象が日本国内だけでなく、海外でも増えています。突然どこかの国のユーザーがその曲を投稿し、映像などがバズって、その国のバイラルチャートに入ってくる。そういった状況をSpotifyはエディター間で共有していて、その国のエディターに「今この曲がこういうふうに動いているからプレイリストに入れて」という働きかけをしたり、その現象が日本より先に、例えばアジアで起きていたら、日本のエディターが日本のプレイリストに入れたりしています。プレイリストに入れてみても反応が薄い場合もありますが、とりあえず入れてみて反応があったらさらに上げていく。そこでヒットするかしないかに規則性や共通点はないですが、現象をひとつひとつ拾っていくことが重要だと思っています。

山本:その話でいうと、「夜に駆ける」がバイラルチャートで1位になっていなかったらYOASOBIは売れていなかったかもしれません。

屋代:2020年の年明けに「夜に駆ける」がバイラルチャートで1位になったという知らせが突然届きました。当時はバイラルチャートがどういうものかわかっていなかったのですが、YOASOBIにとって初めてのチャート1位だったので、「バイラルチャート1位になった」ということをとにかく言いまくりました(笑)。YOASOBIはバイラルチャートと共に育ってきたと言っても過言ではありません。でも未だに「夜に駆ける」が突然1位になった明確な理由はわかっていないんですよね。

山本:徐々に順位が上がっていったとかではなく、ある日急に1位になりましたから。


芦澤:Spotifyとしても原因はわからなかったです。しかも、そこから何カ月も1位をキープしていました。時期的にコロナ禍に入ったばかりだったのは大きかったと思います。

屋代:各レーベルが新曲リリースを控えていた時期でしたね。バイラルチャートで1位を取って、その後「CDTV」さんがその話題を取り上げてくださって、他のチャートでも上がっていきました。

芦澤:同じ時期に瑛人の「香水」もバイラルでずっと聴かれていて、同時多発的にそういったことが起きた時期でしたね。そこでバイラルチャート自体への注目度が上がり、「ヒットを予見するチャートである」という記事が出たりして、レーベルをはじめいろいろなところから仕組みについて質問されました。

屋代:「SNS上の話題を可視化するチャート」と定義されていた記憶があります。ということは、話題になったら1位をキープできるわけで、YOASOBIのファンとバイラルチャートのロジックを共有して、ことあるごとにみんなで騒いでました。例えば、どこかの中学校のお昼の放送で「夜に駆ける」が流れたというポストを引用リポストして「ありがとうございます」とコメントを入れたり。そうすると、「うちの学校でもかけました」というリプがいくつも飛んできました。コロナ禍で他にやることもなかったので、そういうことを毎日やっていた時期でした。

ー芦澤さんはことあるごとにYOAOBIチームのSNSの活用の仕方を絶賛されていますよね。

芦澤:そうですね。以前、CANVAS(Spotifyモバイルアプリで楽曲を再生すると背景に短い動画がループする機能)と連動させて、「MVの好きなシーンをリプや引用RTで教えてほしい」というポストをされていて、それがCANVASになることを匂わせながらもはっきり言わず、のちに明確に種明かしをするという一連の流れは、特に上手だと思いました。Spotifyの活用法について説明するセミナー)では、よく参考例としてシェアしています。


屋代:ありがたいです。そういうPRを考えるのが好きなんです。僕はTwitter(X)が日本で広がり始めた頃から割と使っていて、趣味で通っているアーティストのファンなど、Twitterがきっかけでできた友人がたくさんいます。それもあって、「どういうことを呟いたら誰がどういう反応をするか」ということにある程度の肌感覚は持っていると思います。そそれをアーティストのアカウントに転用した時に、ほとんどのスタッフアカウントは当たりさわりのないことをやりますが、ギリギリのラインを攻めれば差がつけられる。日々そのボーダーを試しては、ミスすることもありますし、楽曲のタイアップ先から激怒されたこともあります(苦笑)。ただ、そこできちんと説明すると納得してくれるので、引かないようにはしています。

山本:DSPの引用ひとつ取っても、「何かしらのチャートで1位になった」ということを羅列することは簡単ですが、複数のDSPの情報をまとめて投稿すると、DSP側がリポストし辛いじゃないですか。でも、Spotifyさん単独の情報で投稿するとSpotifyさんが拡散してくれる。その都度そういった細かいことを考えています。

芦澤:おっしゃる通り、こちらとしても分けてポストいただくとありがたいです。


屋代:CANVASのような独自の機能があると、こちら側としてもそれに特化した内容を投稿できるのでやりやすいです。Spotifyさんは昔から明確に意志や特色があるDSPなので、ソーシャル上で連携がしやすいんですよね。

日々思っているのは、投稿内容ややり方がどうこうではなく、担当者がそのアーティストに真剣に向き合っていれば自然と言いたいことは生まれるし、特段話題がなかったら無理にポストする必要はないということ。SNSの運用はすごく内発的なもので、ノウハウ論ではないと個人的には思っています。YOASOBIのコアスタッフは今4人ですが、誰かひとりのアイディアに対して、それがいいと強く思う人がいれば、とりあえずやってみる。それが当たればそこに重ねるアプローチをするし、外れればそのままスルー、ということを繰り返しています。もちろんAyaseとikuraとちゃんとコミュニケーションが取れていることが前提ですが、最少人数で考えることでフットワーク軽く動けるところはあります。


山本秀哉氏、屋代陽平氏(Photo by Chiemi Kitahara)

ー最後に、YOASOBIの2024年のヴィジョンについて教えてください。

山本:今日何度かお話したことではありますが、2022年から2023年にかけて海外と日本の音楽の違いについて考える機会が増えて、その中でJ-POPならではの良さはたくさんあるというふうに思いました。海外仕様に変更するというよりは、J-POPとしてちゃんと発信していく。寿司も日本から世界に意識的に発信したというよりは、海外の人が寿司を知って自分たちの食に取り入れてくれたような順序なのかなと思うのですが、そうやって日本の文化はピックアップされてきたことが多いと思うんです。そして、YOASOBI単体というよりは横のつながりを活かして発信していくことが大事だと思っています。

屋代:YOASOBIは2024年の10月にデビューから5周年というひとつの節目を迎えます。初めてのアジアツアーを12月から2024年の頭にかけて行うことで、世間からしたら「アイドル」の手ごたえをきっかけに海外で活動するというふうに見られるところもあると思いますが、力技で海外に行っても一過性のものにしかなりません。日本で圧倒的なポジションを築いて、結果的に海外から面白い音楽だと思ってもらうことが必要です。海外での活躍が期待されている時期だからこそ、より日本での認知を高めていく一年にしたいと思っています。一方で海外でも積極的にライブをやっていきます。


YOASOBIの最新シングル「Biri-Biri」 (『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』インスパイアソング)


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