YOASOBIの仕掛け人に学ぶ J-POPを海外に伝えるための信念、ストリーミングやSNSとの向き合い方

 
「夜に駆ける」が〈Gacha Pop〉に与えた影響

芦澤:話に出た「夜に駆ける」はSpotify年間ランキングの「海外で最も再生された日本のアーティストの楽曲」で、2021年は3位、2022年は2位という記録的なヒットを続けています。「海外で最も再生された日本のアーティストの楽曲」のランキングはアニメ関連楽曲で埋め尽くされる傾向が続いているのですが、アニソンではない「夜に駆ける」がこれだけ長く支持されているというのもすごいことだと思っています。

山本:「夜に駆ける」が上位に入っている理由は、未だに本当のところは僕らもわからないんですよね。アニメーションのMVが日本カルチャーが好きな方に刺さっているのか。ただ、日本の市場でちゃんと結果を出したいと思いながらAyaseと何十回と作り直した曲なので、それが海外で聴かれているということを考えると、今後もそのマインドを大きく変える必要はないのかなと思っています。「アイドル」も海外を意識したわけではないにもかかわらず、海外で多くの人に聴いてもらえていますし。




山本秀哉氏(Photo by Chiemi Kitahara)

芦澤:Spotifyが今年ローンチした〈Gacha Pop〉は、まさにアニメをはじめとする日本独特のカルチャーを世界に向けて発信していく目的から生まれたプレイリストです。その背景には、海外で人気のあるアニメタイアップ曲ではない「夜に駆ける」がここまで長く海外で聴かれ続けている理由は何なんだろう?という議論があって。そこで立てられた仮説が、「夜に駆ける」はMVがアニメーションで構成されていて、デビュー当初のYOASOBIはアーティスト写真としてイラストのアイコンが使われていましたよね。そういったことが日本のポップカルチャーのアイコンとして受け入れられているのではないかと。そこを突き詰めていくことは、Spotify Japanチームの使命である「日本の音楽を世界に広げる」ということとも繋がります。

類似するケースとして、藤井 風の「死ぬのがいいわ」も曲自体はアニメと関係ないのに、タイのユーザーはアニメと一緒にシェアしていった。そういったいくつかの現象を繋いでいくと、日本人が抱いているJ-POPとはまた違う新しい概念が海外で生まれていて、そこに日本の楽曲の大きな可能性があるんじゃないかと思ったんです。

屋代:まず、〈Gacha Pop〉のプレイリストの初期のカバーがYOASOBIだったのは嬉しかったです。海外のリスナーを増やすためには、YOASOBI単体、若しくはYOASOBIが所属するソニーミュージック単体で取り組むよりは、Spotifyさんをはじめとするプラットフォームの方々や他のアーティスト若しくはレーベルの方と同じ目的意識を持ってやらないと、なかなか達成できることではないと思っています。だからこそ、〈Gacha Pop〉というキャッチーな括り方が生まれたことはすごくありがたいですし、追い風にしかならない動きだと思いました。


「〈Gacha Pop〉がJ-POPを再定義する? 日本の音楽を海外に発信するための新たな動き」より
YOASOBI「アイドル」は今年4月12日に配信開始、〈Gacha Pop〉は5月9日にローンチ





「きっかけ」が生まれたあとに何ができるか

芦澤:ちなみに、2023年の「海外で最も再生された国内アーティストの楽曲」でいうと、「アイドル」は2位で「夜に駆ける」が5位。 2曲入っているのはYOASOBIとXGと藤井 風ですが、トップ20まで広げると「怪物」と「たぶん」も入っています。「怪物」はアニメのタイアップ曲ですが、「たぶん」は2020年の曲でアニメ関連の曲でもありません。





屋代:2022年11月末から12月にかけて、TikTokでAIがイラスト化するマンガフィルター「AIマンガ」のBGMとして「たぶん」を使うブームが突然起きたんです。その流れのなかで、リタ・オラが彼氏と一緒に撮ったAIフィルターの動画で「たぶん」を使ったことでストリーミングの回数もどんどん上がっていきました。日本より海外での再生回数の方が多いんじゃないでしょうか。

山本:メキシコをはじめ、南米でも多く聴かれましたね。

屋代:そこから1年近く経っている今、「たぶん」とYOASOBIが結びついた人は多くないでしょうし、時間が経てば当然忘れられてしまうので、適宜掘り起こしていくためにはどういうコミュニケーションを取るのがいいかを考えています。当時「たぶん」を使ってくれた人が今もYOASOBIの曲を聞いてくれているかどうかをしっかりと可視化しながら、そこに対して意味のある情報を投げていかないと、せっかく生まれたきっかけを活かせない。ようやく海外でライブができるようになったので、実際に海外に行った時にメンバーの顔をちゃんと見せて、喋ってる姿を伝えることで、YOASOBI自体に親近感をもってもらう。何かきっかけが生まれたら、時間を空け過ぎずにそういうことをやっていきたいと思っています。プラットホームを通して曲を聞いてもらうためのハードルやスピード感は間違いなく楽になっている分、忘れられてしまったり離れていくスピードも速くなっている。だから、聞いてもらったきっかけのあとにスピード感を持って何ができるかを考えるようにしています。

@yoasobi_ayase_ikura
YOASOBI公式は「たぶん」ブームにいち早く反応、2022年12月4日に上掲の「AIマンガ」動画をTikTokに投稿している

芦澤:「たぶん」みたいなケースって全く予測できないですよね。

屋代:本当です。急に数字が上がって、USのTikTokチャートで1位になりましたから。「何が起きたんだろう」と思いました(笑)。

芦澤:仕掛けられることではないですが、たまたまそういうことが起きた時にすぐアクションできるかどうかが大きいですよね。

山本:「夜に駆ける」と「アイドル」は極端な曲でもあるので、あの2曲だけだと変わったアーティストだと思われてしまう可能性がありますが。「たぶん」はチルな部分もある曲なので、そもそも海外の人も受け入れてくれるのではとは思っていました。ああいう曲が拡がってくれると、「こういう曲もあるんだ」と思ってもらって広がる可能性が高い。実際に海外のライブで演奏した時の反応は大きかったです。

屋代:日本で「たぶん」をやると歌わないでしっかり聴く方が多いんですが、海外だと日本語でみんな歌ってくれるのも違いを感じました。

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