CRYAMYが語る、アルビニに直アポで実現した極限の創作活動、インディペンデントの矜持

CRYAMY(Photo by miura ento)

2017年結成のロックバンド、CRYAMYの2ndアルバム『世界 / WORLD』は、シカゴのエレクトリカル・オーディオに赴き、エンジニアにスティーヴ・アルビニを迎えて制作が行われた。

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ニルヴァーナの『In Utero』やピクシーズの『Surfer Rosa』など、オルタナティブロックの名盤を数多く手がけ、自らもブラック・フラッグやシェラックで硬質なサウンドを追求。日本からもMONOや54-71、近年ではART-SCHOOLやGEZANが彼の音を求めてシカゴを訪れている。そんなポストハードコアの聖地でレコーディングが行われた『世界 / WORLD』は、アナログテープを使っての一発録りでバンドの演奏を生々しく閉じ込めた、衝動と緊迫感を内包する素晴らしい作品に仕上がった。インディペンデントな姿勢を貫きながら、海を渡って快作をものにしたボーカルのカワノに、アルバム制作について話を聞いた。



―スティーヴ・アルビニにレコーディングを依頼するに至った経緯を教えてください。

カワノ:今年の頭ぐらいに、エレクトリカル・オーディオのホームページにあるコンタクトフォームから連絡をしたのが最初です。3月に出したシングル(『FCKE』)の音源と一緒に、「この2曲が現状僕らが作った一番いい曲なので、この曲を聴いて何か感じるものがあったら一緒にレコードが作りたい。何も感じないのであれば、このメールは無視してくれ」って送ったんですよ。翌朝起きたらもう「聴きました。これはグレイトだ」っていう返事が来ていて。で、予算がこれぐらいあれば作れる、みたいなことが書いてあって、最後の一文で、「もしアメリカまで来てくれるんだったら、俺と一緒にグレイトなレコードを作ろう」とあって。そこから進んで行った感じですね。



―『FCKE』自体がアルビニのレコーディング方法を参考に作られた作品で、100トラックくらい使ったそうですが、「じゃあ、これを実際アルビニに聴いてもらおう」みたいな流れだったわけですか?

カワノ:アルビニ的なサウンドを目指して録ったのは事実ではあるんですけど、その時点では「アルビニと一緒にレコーディングがしたい」とかは全く想像していなくて。これまでずっと自主でやっていたんですけど、実は去年メジャーの方から話があったんですよ。そのメジャーの人とやり取りする中で、ちょっと違うなっていうところがあって……結局その話はお断りして。なので、言い方は悪いですけど、去年末はそれまで自分にまとわりついてたしがらみみたいなものを全部切ったタイミングだったんです。それでかなり疲弊して、もうやけくそになってたんですよね。だからスティーヴとやるっていうのも、本当に急な思いつきだったんです。

―『FCKE』のタイミングでそれまでやっていなかったストリーミングを解禁したわけですけど、なぜこれまではやってこなくて、なぜあのタイミングで解禁をしたのでしょうか?

カワノ:理由としては僕がCDという形で持ってるのが好きだったとか、昔から応援してくれて、当時CDを買ってくれた子たちの気持ちを大事にしたかったとか、そういうことだったんですけど、あのシングルを作ったときに、「これは多くの人に聴いてほしい」と思ったんです。あと今回のアルバムは外側の世界というか、枠組みというか、社会でも何でもいいんですけど、そういうものとすごくリンクした曲が図らずもたくさん生まれていって、それはコロナも背景にあったと思うんですけど、「もっと外側に出て行かなきゃいけない」と思ってたんだと思います。

―今回アルビニと録ったということは音そのものに対するこだわりがあるということだと思うから、ストリーミングで音が圧縮されてしまうことへの違和感もあったのかなって。

カワノ:それもめちゃめちゃありました。今はちょっとずつましになってるのかもしれないですけど、サブスクが一気に流行ったときって、音良くなかったじゃないですか? 我々のバンドは制作がかなり苛烈で、僕メンバーを怒鳴りつけるし、人格否定に近いようなことまで言ったり、かなり内圧の高い制作で、それをエンジニアとかも見てるからこそ、すごくみんなこだわってくれてるんですよね。そういう部分がサブスクに出すことで取りこぼされるんじゃないかっていう恐怖もすごくあって、だから単純に「音よくねえから出したくねえ」っていうのはめちゃめちゃありました。でも今はちょっと捉え方の角度が変わったというか、ことバンドサウンドにおいてはですけど、別にレンジの広いことであったり、音圧の高いことであったり、クリアであることが決して正解ではないと思っていて。それがこのアルバムを録った理由でもあるというか、これはクリックも使ってないし、歌の補正やギターのパンチインも一切やってないし、12分の曲も全部一発録りだから、よれもあるし、ミスタッチもある。歌も1日で全部バーッと歌ってて……。


Photo by miura ento


Photo by miura ento


Photo by miura ento

ーえ、この11曲をこの歌い方で1日で録ってるんだ。

カワノ:1日で曲順通りザーッと録っていったので、やっぱり徐々に枯れて行ってて、これは絶対普通だったらやらないと思うんです。綺麗に整えて、EQをかませたりとかして、なるべく派手にしようとすると思うんですけど、そこはもう目指さなくなったっていうのはすごく大きいかな。ロックバンドの良さはあくまで生々しさであるというか。

―それこそ生々しさを録らせたら、アルビニほど適役はいないわけですからね。

カワノ:うん、そうですね。

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