ヴィクトリア・モネが語るセックス、ソウル、「正直な女性」であること

 
ソウルサウンドの探求、「正直な女性」であること

ー本作のクラシックなサウンドには、70年代の音楽とモータウンサウンドからの影響がはっきりと現れています。また「On My Mama」には2000年代初頭のR&B、「Party Girls」にはカリビアンの要素が見られる一方で、「Hollywood」ではアース・ウインド&ファイアーと娘のヘーゼルという世代を超えた大胆なコラボレーションを実現させています。本作のタイムレスな作風はどのようにして生まれたのでしょうか?

モネ:タイムレスであることは、今作の主なテーマのひとつだった。自分の音楽的バックグラウンドについて考える時、私はルーツを辿るようにしているの。そして思い至ったのが70年代の音楽だったわけだけど、同時に私の娘が共感し好きになれるようなものにしたかった。楽しくてウィットに富んだ、今の時代ならではの自己表現がしたかった。一流のミュージシャンたちによるベースラインや管弦楽器のパフォーマンスという伝統的な要素の組み合わせが、このアルバムにタイムレスなフィーリングをもたらしていると思う。デジタル全盛の時代だからこそ、こういう作品のユニークさが際立つの。




ーこだわった部分についても教えてください。「Smoke」でのライターの着火音や、アルバム全体における生楽器のパートのアレンジなど、今作からはディティールへのこだわりが感じられます。

モネ:『JAGUAR II』の生演奏のパートはすべて、打ち込みで対応することもできた。でも生演奏ならではの音の厚みとソウルは、プログラミングでは生み出せないから。今作からは、一流のミュージシャンたちの魂とプライドがひしめき合っているのが伝わってくると思う。プロデューサーがキーボードで打ち込んだサウンドとの対比によって、各楽器のサウンドがより際立ってる。本物のミュージシャンが鳴らす音は、同じフレーズであっても毎回印象が全く異なるの。そういう生演奏ならではの魅力を、私はとても大切にしているから。

ボーカルに関しては、今っぽい楽しさ、ラップと歌の中間のようなパフォーマンス、ソフトな歌詞、そして偽りのない自分を表現することを大切にした。平たく言えば、自分が好きな様々なものを全部組み合わせようとしたってこと。母親にお菓子屋さんに連れて行ってもらった子供が、好きなものをひとつ選ぶように言われても選べないでしょ? あれもこれも好きだから3つ欲しい、ってなっちゃう。私は今でも、初めて行くレストランではそういう注文の仕方をするの。メニューを見て気になった料理を3つ注文して、それぞれ5口ずつくらい食べる。どれかひとつに絞って完食するんじゃなくてね。私の音楽に対するアプローチはそれと同じなんだと思う。異なる要素のものをたくさん取り込んで、自分らしいものに昇華させるの。



ークリエイティブ面であれパーソナルなことであれ、『JAGUAR』と『JAGUAR II』の間に自分を大きく成長させる決定的な出来事などはありましたか?

モネ:パンデミックの間は、自分を信じられなくなったことが何度もあった。世界がどこに向かっているのかも、妊娠していた自分自身の体がどう変化していくのかも分からなくて、常に不安を抱えてた。自分の中の弱い部分が、こんなふうに囁きかけてくるの。「子供を育てながらキャリアなんて築けるの? 片付けるべきプロジェクトが他にも2つあるんじゃなかったの? なぜいまだにインディーズなの?」。それは全部、私自身の中でずっと燻っている疑念だった。それらを克服したことは、私自身だけじゃなく、私のチームや家族にとっても大きかったと思う。

そういった内面の変化や、それに伴う意思決定が作品に影響を及ぼすかどうかは議論の余地があると思う。そういう疑念は全部、私が信じる女性像とまったく相容れないものだったから。そういう数えきれないほどの小さな疑念を払拭できたことは、私にとってものすごく重大だった。このアルバムがようやく世に出ることとツアーに出られることに、今はすごく興奮しているし感謝している。

ー『JAGUAR II』はビヨンセの『RENAISSANCE』やジャネール・モネイの『Age of Pleasure』と並んで、黒人女性による喜びとセクシュアリティの追求を讃えようというムーヴメントの一翼を担うと思います。ジャネット・ジャクソンやドナ・サマーをはじめ、過去にも多くの女性たちがそういった価値観の基盤を築いてきましたが、今この時代にあなたはどういったメッセージを発したいと思っていますか?

モネ:正直に言って、アルバムを作っている間はそういったことを深く考えたことはなかった。目の前の課題をこなすことに集中していたから。でも無意識のうちに、世の女性たちがみんな背中を押してくれているように感じていたかもしれない。10年前の音楽業界では、女性たちはお互いをライバル視して競い合っていたから、自分の素直な気持ちや実体験について率直に語ることができにくかったと思う。幼い頃に刷り込まれた固定観念のせいで、私たちが表現しようとしたことは全部クリシェだとみなされたから。でも今、そういう状況が大きく変わりつつある。

このアルバムを作っている間、私はそんなふうに感じてた。「今を生きる女性たちにアピールできるものを作らないといけない」なんて気負いはなかったの。このアルバムで私はリアルな自分を表現したし、それをすごく楽しんでた。何がアリで何がタブーなのか、そういったことを気にかける必要がないことをね。世間が何をよしとするかということに、私はもう興味がない。私はただ自分の気持ちに正直になって、たとえそれが私の母を不快な気持ちにさせるようなことであっても、自分にとっての真実だけを伝えたい。私がどう感じているのかを、音楽を通じて表現したい。現実の生活には無視できない制約が何かと存在するけれど、少なくとも音楽の世界には何のルールも存在しない。自分の曲を聞いた誰かが、どんな時もありのままの自分でいようと考え、実際に行動に移してくれたら。今の女性アーティストたちはきっと、みんなそんなふうに考えていると思うの。

From Rolling Stone US.




ヴィクトリア・モネ
『JAGUAR II』
配信・DL:https://victoriamonet.lnk.to/JAGUARllRS

Translated by Masaaki Yoshida

 
 
 
 

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