川谷絵音が振り返る2023年の音楽シーン

Photo by Kazushi Toyota

Rolling Stone Japanでは2022年2021年2020年に引き続き川谷絵音を迎え、Spotifyの年間ランキングを踏まえながら2023年の音楽シーンを振り返ってもらった。

Spotifyの年間ランキングから川谷絵音とともに国内外の音楽シーンを振り返る恒例企画を2023年もお届けする。テイラー・スウィフトやSZAがこの一年の顔となった一方で、ランキングの常連だったバッド・バニーやBTS「以降」の動きも顕在化し、TikTok発のバイラルヒットの新潮流も見え始めた海外の音楽シーン。Mrs. GREEN APPLEやVaundyが活躍する一方で、日本のアーティストを世界に紹介する新たなグローバルプレイリスト「Gacha Pop」がスタートし、アニメ関連以外でも海外で高い再生回数をたたき出す楽曲が増えてきた国内の音楽シーン。2023年は欧米圏以外のアーティストがより影響力を強め、独自性を保ちながらも相互に影響を与え合うような、新たなタームに入ったことが感じられる。indigo la End、ジェニーハイ、礼賛で1年に3枚のアルバムを発表し、ツアーやフェスへの出演も多数と、精力的な活動を続けた川谷は、その変化をどう見ていたのか。今回も批評眼と音楽ファンとしての愛情が入り混じった、濃密な内容となった。

※この記事は2023年12月発売の『Rolling Stone JAPAN vol.25』に掲載されたもの。取材は11月下旬に実施。

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川谷絵音
2014年、indigo la Endとゲスの極み乙女の2バンドでワーナーミュージック・ジャパンより同時メジャーデビュー。現在ジェニーハイ、ichikoro、礼賛を加えた5バンドの他、DADARAY、美的計画のプロデュースや様々なアーティストへの楽曲提供など多岐に渡る活動を続けて現在に至る(Photo by Kazushi Toyota)


ヒット曲と「フィルムカメラっぽさ」

―この年末もSpotifyまとめを参考に、音楽シーンの動きを振り返ってもらいたいと思います。

川谷:海外は女性の年になった感じがしますね。「世界で最も再生されたアーティスト」でついにテイラー・スウィフトが1位になって、バッド・バニーが2位に陥落するという。

―この振り返り企画は2020年からスタートしていて、これまで3年連続でバット・バニーが1位だったけど、いよいよ入れ替わりました。

川谷:NewJeansにしろ、オリヴィア・ロドリゴボーイジーニアスもそうだし、女性が本当に活躍しましたよね。Spotifyのランキングにも女性の名前が多い。僕のベストも女性アーティストが多くなりました。オリヴィア・ロドリゴの「vampire」はすごく良い曲でしたね。ピアノのフレーズからもう引き込まれたんですけど、その後にちゃんとビートが入ってきて、そのビート感もちゃんと踊れるし、メロディもめちゃくちゃいいし。ピアノを弾きながら歌ってる姿もすごく良くて、テイラーともまた違う2023年の顔の1人ではありますよね。




Photo by  Arturo Holmes/Getty Images (Miley Cyrus) , Gilbert Flores/Penske Media via Getty Images (KAROL G), Jason Mendez/Getty Images (JUNG KOOK)

―第66回グラミー賞(2024年)のノミネートでもアルバム賞、レコード賞、楽曲賞の主要3部門でジョン・バティステを除く8枠中7枠が女性ですしね。

川谷:あとは日本でいうとXGですよね。「海外で最も再生された国内アーティスト」で、YOASOBI、藤井 風の次に入っているぐらいですから。日本の一般層にはまだそんなに認知されてないと思うんですけど、海外にも波及していて、アメリカのビルボード誌でも表紙を飾っていたりして。ボーイズグループもがんばるなかで、XGが飛び抜けて成功したのは2023年のいい事例だったと思いますね。



―彼女たちは拠点が韓国だったりして、これまでにない新しい立ち位置を獲得した感じがしますよね。まずはグローバルのランキングから見ていくと、女性の活躍が目立つという意味では、テイラーと並んで2023年の顔になったのがSZAかなと。「世界で最も再生されたアーティスト」の8位、「Kill Bill」が「世界で最も再生された楽曲」の2位、『SOS』が「世界で最も再生されたアルバム」の3位です。

川谷:SZAは前から好きだったから、今回のアルバムも出たときから栄太郎(indigo la Endの佐藤栄太郎)と「めちゃくちゃよくない?」みたいに話してて。リリースは2022年の12月だけど、絶対みんな2023年のベストアルバムに入れるじゃないですか。



―批評と距離を取ろうとする意図も感じられますよね。結局、ローリングストーンのUS版も含めて多くのメディアが2023年のベストに選んでいますが。

川谷:あの時期にリリースしたのに今これだけ話題になっているのは、改めてSZAは凄いなぁと。そして「世界で最も再生された楽曲」の1位はマイリー・サイラスの「Flowers」なんですね。マイリー自体は今までそんなに聴いてなかったんですけど、「Flowers」は大好きで、2023年ベスト用に自分が作ったプレイリストの1曲目にこれが入っているんですよ。だから印象に残っていて、でもこれが1位なんだっていうのはびっくりしました。「Kill Bill」の方がX(Twitter)界隈ではよく名前が出ていて、マイリーに言及してる人は僕のタイムラインにはあんまり出てこなかったんですけど、Spotifyの再生回数を見たら16億回とかで。




—リリース後7日間での1億再生突破は、JUNG KOOKが破るまで(6日間)Spotify最短記録でした。

川谷:「世界で最も再生された楽曲」でいうと、JUNG KOOKの「Seven」はトップ10の中で一番聴きましたね。Vのアルバムもめちゃくちゃ好きなんですけど、JUNG KOOKの方がポップで聴きやすかったし、NewJeansやピンクパンサレスとか、UKガラージのリバイバルが流行っているなかで、一番ヒットしたのが「Seven」だと思うんですよね。ファッションもわりと2000年代的なものがリバイバルしてたり、今は何を参照するか合戦になっているなかで、2023年はUKガラージ的なサウンドが多かったというか。UKガラージというのが何かわからなくても、「このビートね」ってなる人も多いんじゃないですかね。もちろん、JUNG KOOKだから(たくさん聴かれた)っていうのもあるとは思うんですけど、「Seven」は曲として良いですよね。(歌詞で)曜日を順番に言っていくだけっていう。たぶん四つ打ちだったらここまでお洒落にならなかったと思うんですよ。ガラージっぽい、ちょっとよれたビートだったからかっこよかったんだと思うし、最後に(ラッパーの)ラトーが入ってくるのもいい。彼女にとってフックアップのきっかけにもなったと思うし、やっぱりBTS周辺のソロは面白いですね。



―2023年はBTSがお休みしたから「世界で最も再生されたアーティスト」のランキングには入らなかったけど(昨年は5位)、その分ソロで引き続き活躍してましたよね。2023年のヒット曲にはどんな特徴があると思いますか?

川谷:去年よりもさらに音数が減ってる気がしますね。ミツキの「My Love Mine All Mine」みたいなUSインディの曲がTikTokで流行って、Spotifyのリスナー数も3500万人以上になっていたりして。レイヴェイもそうですけど、ちょっとジャズ風でしっとりした、音数少なめの曲も聴かれてる感じがします。「My Love Mine All Mine」はレイヴェイもカバーしていて、このあたりのシーンがもっと盛り上がりそうな予感がするんですよね。ミツキの曲はTikTokを見ると思い出写真みたいな、ネガを眺めるみたいな、ちょっとぼやけた日常みたいな感じにすごく使いやすいというか。ミツキ本人もこの曲が売れるとは考えてなかったと思うんですよ。以前の「Nobody」みたいにキャッチーな曲のほうが僕は売れるんじゃないかなと思っていたんですけど、そうじゃないのが今っぽくて面白いというか。TikTokがなかったらここまで流行ってなかったと思うので。

―BGM的に使えるタイプの曲のほうが再生数は増えると。

川谷:NewJeansもそうですけど、ちょっとフィルムカメラっぽい曲がTikTokと特に相互作用があるというか。日本で言えばLampもそうで、「ゆめうつつ」とか特にフィルムカメラ的な使われ方をしていたじゃないですか。「Seven」とか「Kill Bill」もかなりフィルムカメラ要素があるし、Vの曲も全部そうですよね。ミン・ヒジン(NewJeans総括プロデューサー)の曲は大体フィルムカメラ的要素があって、映像と一緒にならないといけない感じがするというか。(曲がヒットするうえで)これまではミュージックビデオの影響が大きかったけど、今はリスナーが作る映像の影響が大きくて、音楽に特別興味がない人にも波及するじゃないですか。だからフィルムカメラっぽさは2023年の大事な要素だったのかなと思います。




―アメリカでは自撮りをしながら日常をTikTokに投稿する人が多いから、日常に馴染むような曲が流行るけど、日本人は自撮りが苦手だからそれをしてなくて、だからヒット曲の傾向が違うんじゃないかっていう分析もあるみたいです。

川谷:海外と日本を比べると、まだ海外の方がチルってますよね。betcover!!が昔のインタビューで「チルってる場合じゃない」と言ってて、確かにそうだなとも思ったんですけど、海外はもうチル歴が長いのに対して、日本はまだチルれてすらいないっていうか(笑)。

―「チル」っていう言葉自体は日本でもこの1~2年でちょっと流行った気がするけど、まだまだ全然チルれてない(笑)。

川谷:「Chill Vibes」みたいな海外のプレイリストにLampが入ってヒットしてるじゃないですか。日本人で入ってるのって本当に一握りなので。日本はやっぱりガラパゴス的というか、「Gacha Pop」という名前も付けられたように、また独特な感じになってきてますよね。YOASOBIの「アイドル」もそうだし、マイファスの曲(MY FIRST STORY「I’m a mess」)もMAD動画に使われてヒットしたように、日本だと映像がアニメに直結しちゃうから。そこは国の違いもあるんでしょうね。

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