川谷絵音が振り返る2023年の音楽シーン

NewJeansと「参照の参照」の時代

―TikTokをはじめ映像がヒット曲に欠かせなくなった一方で、テイラー・スウィフトが2023年に「世界で最も再生されたアーティスト」1位になったのは「THE ERAS TOUR」の影響も大きいでしょうね。

川谷:テイラーぐらいの規模になると影響も大きいですよね。あとは昔のアルバムの再録も続けていて、あれは権利のこともありますけど、その影響もありますよね。ヒット曲の再録なので、みんな出たら聴くじゃないですか。ファンからすると「録り直したほうを聴いてほしい」っていうテイラーの意向もあるし、ツアーで昔の曲もやるから予習とか復習のためにもそれを聴くし、それもあって上がったんでしょうね。

―ただ再録を出すだけだと「昔のあの感じが良かった」みたいになりかねないけど、ツアーと並行してのリリースだと「今のものを聴こう」ってなりますよね。

川谷:僕らもアルバムの再生数はツアー前にちょっと伸びて、ツアー中は落ちないので。他のアーティストを見てもツアー中にアルバムの再生数が上がっていくから、そういう意味で、ツアーはやっぱり重要ではありますね。



「世界で最も再生された楽曲」6位のテイラー・スウィフト「Cruel Summer」は2019年のアルバム『Lover』の収録曲。「THE ERAS TOUR」を通じて再注目され、2023年10月に全米シングルチャート1位を達成。さらにテイラーは2023年、『Speak Now』と『1989』のTaylor's Version(再録版)をリリースした

―バッド・バニーが「世界で最も再生されたアーティスト」2位に後退した一方で、ラテン系のアーティストが上位に入っているのが目立ちますね。5位のペソ・プルマはメキシコ、6位のフェイドと9位のカロルGはコロンビアの出身です。

川谷:カロルGとか面白いですよね。一番再生されてる曲は超レゲトンですけど、もっとUSのヒップポップ的なノリがあるレゲトンもあったりして聴きやすい。レゲトンに寄りすぎていると、日本じゃなかなか耳馴染みがないじゃないですか。でもカロルGはすごくバランスが良かったですね。



―ストリーミングの時代になって、欧米以外の音楽の広まりが可視化されて、そのなかでバッド・バニーが飛び抜けているイメージだったけど、2023年はシーン全体がさらにプッシュアップされた印象を受けます。

川谷:このランキングを見ると、「みんなレゲトンやればいいじゃん」って思いますよね(笑)。でも日本でレゲトンやったら滑るんだろうなあ……NewJeansが超レゲトンの曲を出したらそれはそれで流行りそうですけど、ミン・ヒジンとレゲトンが僕の中であんまり結びついてない。最近の日本だと、CHO CO PACO CHO CO QUIN QUINってバンドがキューバの音楽を基盤に曲を作っていて、ああいうのは面白いなと思いますね。バンド名もキューバのリズムらしいんですけど、今の日本にはないリズムをちゃんと使いながら、TikTokもうまく使って、そういうのが日本で流行ったらまた変わるのかなとか思ったりしました。YOASOBIの「アイドル」はK-POP的な感じの要素が多かったじゃないですか。YOASOBIがレゲトンをやれば、今一番影響力があるかもしれない……でも藤井 風くんのほうが想像できますね。「死ぬのがいいわ」はレゲトン・リミックスにしたらかっこよさそう。

―最近は海外のプロデューサーと曲を作り始めているし、そういう未来もありそう。2023年は「まつり」も盛り上がったけど、祭り囃子っぽい感じとレゲトンも合いそうだし。

川谷:そうですね。藤井くんだけはそういうことをやってもダサくならないんですよ。本当にオンリーワンだと思います。




Photo by Kazushi Toyota

―K-POPはBTSメンバーのソロが盛り上がったのと、やはりNewJeansが2023年の顔として外せないと思うんですけど、川谷さんはどう見ていますか?

川谷:やっぱりミン・ヒジンの全体の作り方、見せ方が大きくて、これまでのK-POPと全然違うじゃないですか。今までのK-POPシーンの積み重ねの上で成り立ってるんだと思うんですが、もあると思うんですけど、かなりポップス要素があるのにUKガラージをからめたり、音楽玄人が好きになりそうな感じをいい意味であざとくやっている。映像の作り方とかも、ものすごくフィルムっぽいし。

―岩井俊二っぽさが指摘されたり。

川谷:でも過去のインタビューでは90年代というよりは70〜80年代のビジュアルに影響を受けたって答えてたみたいですよね。映画は小津安二郎監督の作品が好きだと。さらに元ネタというか。だから見せ方も参照の仕方も上手いですよね。フェスでのライブを生バンドでやってみたりとかも、かなり狙ってるなって感じがするし、SNS戦略も他のK-POPがファッションも含めてキラキラしているのに対して、そこまでキラキラしてないというか。この前は全員リック・オウエンスのブーツを履いていて、アイドルが履いているのをあんまり見たことなかったけど、そういうのも上手いなって。もちろん曲がいいのもあるんですけど、トータルプロデュースが物を言ってる感じがしますね。


NewJeansが「リック・オウエンス」のブーツを履いてパフォーマンス(4:10〜)

―BTSはまずアメリカで成功するために、アメリカに適用する音楽性をやってきて、そこからK-POPというジャンルの知名度がどんどん上がるなかで、BLACKPINKみたいにより独自性を出す人たちが現れた。今はもうK-POPが確立されて、K-POPの独自性があるから、そのうえでもっと自由にいろんなことができるようになって、NewJeansが新しい流れを作ったというか。

川谷:だから、NewJeansはもうNewJeansになってますもんね、完全に。2024年はUSインディっぽいのとかやらないかなぁと。生バンドがいたのも布石なのかなとか思いたいですけど。さっき話したミツキとか、ソフトなインディロックはフィルムカメラ的な要素もあるし、めちゃくちゃ流行りそう。



―SZAの「Kill Bill」もちょっとフレンチっぽいソフトな感じがあるし、ああいうのをNewJeansがやったらどうなるのか。

川谷:誰が次の、最新の参照をするかにかかってるというか。

―Y2Kリバイバルが広まっていくなかで、90年代まではリバイバルの範囲がある程度限られていたのが、2000年代は特にクラブミュージックが一気に細分化していった時代だったから、あれもこれもあるっていう状態になって、そのなかからどれをチョイスするかの勝負になってる側面はありますよね。

川谷:もう参照の参照ですもんね。

―参照の参照の参照というか(笑)。

川谷:Xを見ていたら「あらゆる参照元を遡っていくとビートルズに辿り着く」みたいに言ってる人がいて。最近、Vaundyが『replica』というアルバムを出したことで、引用やオリジナリィティがどうこうと議論になっていましたけど、僕がVaundyと対談したとき、彼は「ビートルズを気にしてしまうときがある」と言ってたんですよ。だから、やっぱり何を参照するのか合戦になっているのかなって。

―そこでちゃんとオリジナルの組み合わせを作れると面白いものになるし、NewJeansは映像とかファッションとか、全部ひっくるめていろんなものを結びつけてるからこそ面白い。

川谷:やっぱりトータルプロデュースが一番上手くいったグループですよね。

ー日本からもミン・ヒジンみたいな人が出てきますかね?

川谷:日本はそういう人が軽視されがちですよね。編曲家とか、音楽そのものをプロデュースしている人の方が優遇されて、さらに広い視野で見るプロデューサーがあんまりいないと思う。音楽を作ること自体がプロデュースだと思ってるから、それ以外は細分化していて、それぞれの担当に振り分けるから、ぐちゃぐちゃなものになっちゃったりする。そういうのを全部ちゃんと見れる人が必要で、今はそれがレコード会社の仕事になってますけど、もっとそれ自体が職業として認められればいいと思いますね。

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