川谷絵音が振り返る2023年の音楽シーン

川谷絵音ベスト10曲をみずから解説

―では川谷さん個人のベストを見てみましょう。

川谷:今回の10曲はだいぶ落ち着いたものばっかり選んでいて。

―夜に音楽を聴いてる人のリストだなって(笑)。バンドらしいバンドはほぼなし。

川谷:だんだんそういう感じになってきちゃって(笑)。去年はもう少しバンドがいた気がするんですけどね。メン・アイ・トラストの「​​Ring of Past」は第1位。めちゃくちゃいい曲。シンセの使い方が上手いし、音数の引き算も含めて、ネオソウル的な流れのなかでも特殊なポジションにいるというか。ありそうでない感じもあるし、BGMとしてもかけられるし。NewJeansもメン・アイ・トラストみたいな感じでやったらいいなというか、コラボを見てみたいなって。




―NewJeansが急にチルな方に行ったらちょっとびっくりするけど、メン・アイ・トラストぐらいだったら、シンセポップ、ドリームポップ感もあるからちょうどいいかも。

川谷:四つ打ちのこういうミドルテンポの曲なら、メロディもすごく合いそうな感じがするんですよね。シンセのフレーズが歌メロより目立つときもあったり、作り方も上手いし。サンファの『LAHAI』は2023年のベストアルバム。コーラスの使い方も上手いし、普通のR&Bじゃないアレンジの仕方で、聴いたことがないような音の使い方がたくさんあった。前作はもうちょっとR&B寄りだったじゃないですか。それがよりコアな音楽になっていて、もう「何をやってもサンファ」みたいな状態になったアルバムだと思いました。

―そのなかでも「Dancing Circles」を選んだ理由は?

川谷:この曲が一番「このアレンジを自分でもやりたい」と思ったというか。この途中少しだけ入ってくるリズムと歌メロの置き方はなかったなと思って。でもアルバム曲全部良かったです。ロミーは……ドーターの女の子(エレナ・トンラ)のソロ、Ex:Reがすごく好きなんですけど、雰囲気が似ていると思ったんですよね。僕のなかでロミーのアルバム(『Mid Air』)とEx:Reは同じ色なんです。あとはThe xxのインタビューで、オリヴァー(・シム)が「クラブで聴いたら踊れるけど、家で聴いたら泣けてしまう曲が好き」みたいに言ってて、それだよそれ!と思って。ロミーの「Loveher」は特にそう。



―ゲスの極み乙女の曲のベーシックもそうですよね。

川谷:そうですね。コーシャス・クレイはサンダーキャット周辺にも繋がる感じというか、ちょっとアバンギャルドでジャズ寄りで、この人自身がフルートとかサックスの奏者で、ビリー・アイリッシュのリミックスもやってたり、こういう総合プロデューサー的に自分で全部できる人が増えたなって。そのなかでも「Ohio」はアレンジの教科書というか、美味しいところに落ち着いている。R&Bなんだけど薄くアバンギャルドさがあって、自分もやりたいと思わせるアレンジというか、そこが絶妙だなって。



―彼はV「Slow Dancing」のリミックスも手がけてますよね。

川谷:そうそう。クレオ・ソルは、僕「がんばれ」とか前向きな曲があんまり好きじゃなかったんですけど、彼女のアルバム(『Gold』)はどれも前向きな曲で、初めてこういう歌詞をそのまま受け取って聴くことができたというか。いつも歌詞はそんなに聴いてなかったんですけど、本当に背中を押されるような感じがアルバム全体にあって、これはめちゃくちゃ聴きました。


Photo by Kazushi Toyota

川谷:ルタロは情報があんまり出てこないんですけど、ビッグ・シーフの人がすごく好きだと言ってて。

―エイドリアン・レンカー(ビッグ・シーフのVo, Gt)の義理の従兄弟みたいです。

川谷:だからか(笑)。ビッグ・シーフはすごく好きなんですけど、ルタロも音が似ているし、アレンジの感じやギターのフレーズも好きだし、これが唯一バンドっぽい曲でよく聴いてたので、哲くん(礼賛の木下哲)にも「聴いておいて」と言ったりしてました。



―礼賛の曲にも反映されてたりすると。

川谷:そうですね。Vはもう超ミン・ヒジンだなと思いつつ、ここまでしっとりするのは結構攻めてるなと思って。これこそフィルムカメラ的な、ミン・ヒジンがやりたかったのはこういうことなんだろうと思うというか。Vは「f(x)のアルバムが好きだったからミン・ヒジンに頼んだ」とインタビューで言ってたんですけど、f(x)はもっとイケイケだったから。それとは全然違って、でもお互いいい仕事をした感がそのインタビューにはあって。6曲しか入ってないけど、これは最近めっちゃ聴いてます。

コーディ・ジョンは……僕、オーストラリアのポップスが好きなんですよ。ゴティエに始まり、最近のザ・キッド・ラロイとか、やっぱりオーストラリア特有の感じってあるんですよね。たぶん国の特性もあると思うんですけど、ちょっときらびやかで、アメリカやイギリスっぽさもあるし、いろんな音楽の要素が入っていて、他にはないアレンジセンスもある。日本人が一番聴きやすいのはオーストラリアのポップスなのかもしれないなと思ったりして、そのなかでもコーディ・ジョンはすごくよかったです。



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