MGMTが語るTikTokバズ、ポップでオープンな現在地、20年来の友情を保ち続ける奇跡

『Loss Of Life』を成功に導いたコラボレーション

─ここからは収録曲についていくつか訊かせてください。「Mother Nature」は少しオアシスっぽいギターサウンドが聴けますが、どのような経緯でこういう曲になっていったんですか?

ベン:あの曲のミドルセクションは、僕のひどいギター・プレイから来ていたような気がする(笑)。ギターは僕のミュージシャンとしての秘密兵器なんだけど、何しろ腕前がひどいんだ。

アンドリュー:いや、そんなにひどい訳じゃないよ(笑)。

ベン:まあ、アプローチが極めてシンプルだよね。テクニカルなことは何もできない(笑)。あの曲にはネルス・クラインが参加してくれているんだ。素晴らしいギタリストだよ。彼はテクニック的に複雑なものも弾きこなす。それからエンジニアのマイルス(・BA・ロビンソン)も参加してくれたんだけど、彼はオアシスの世界一の大ファンなんだ。という訳であの曲のサウンド的なところは、マイルスに「君の輝きどころだよ」と言って任せた(笑)。

─ブライアン・バートン(デンジャー・マウス)はどのように関わったのでしょうか。

アンドリュー:彼とは結構前から知り合いなんだよね。確か最初にコラボしたのは2015年だったと思う。特に何か出来上がった訳じゃないけど、一緒に曲を作って楽しかった。彼とはここ2、3年で付き合いが復活して、さらに親しくなったんだ。彼の持っている小さなスタジオで、一緒にアイデアのスケッチを描いたよ。つまり「Mother Nature」のごく初期のステージに携わってくれた人なんだ。ブリッジの部分……まさに、さっき話に出てきたギター同士の決闘みたいな部分(笑)を書いてくれた。



─ネルス・クラインの他には「Phradie's Song」にユカ・ホンダ、「Bubblegum Dog」にショーン・レノンが参加していますが、彼らショーンと近しいニューヨークのミュージシャンたちが参加したのは、どんな流れで?

アンドリュー:僕の妻がショーンやユカとずっと前から親しくて、数回一緒に過ごしたことがあるんだ。ショーンは素晴らしいスタジオを持っていて、そこでセッションをやった。その時はベンもダン(ダニエル・ロパティン)もパトリックもマイルスもいたから、さながらファミリー・ジャンボリーのような感じだったね。スタジオBとメイン・スタジオを使って一斉に新曲に取り組んで、新しいパートを考えついていったんだ。

─友だちみんなでひとつの曲の形を作っていったのですね。

アンドリュー:ちょっとそんな感じだね。グループとしておふざけのジャムをやった後は各パートにそれぞれフォーカスするという感じだったけど、グループでつるむような雰囲気だった。

─「Bubblegum Dog」のビデオも話題です。まさにグランジ時代のMTV風といった感じで徹底的にやり切っていますが、あそこまで作り込むと現場では苦労も多かったのでは?

ベン:すごく楽しかったよ。友人のトム・シャープリングと、彼のパートナーのジュリア・ヴィッカーマンとコラボして……あのビデオのアイデアを最初に思いついたときの僕たちは過度に浮かれたフェーズにいたような気がする。(笑)。すごい意識の流れがあって、次々にアイデアが浮かんできたんだ。こういう風になるのが全員にとって自然な形だった。撮影はすごく楽しかったよ。

アンドリュー:ビデオはそんなに大変ではなかったよ。あの時代を定義づけるシーンを洗い出して、1つずつチェックしていった感じだったね。魚眼レンズで超どぎつい色を撮ったショットとか、汚水が滴っているシンクやバスケットボールが転がっているシーン、クレイジーなおじいさんが笑っているシーンをランダムに撮ったりとかして。そういうシーンがオルタナティヴ・グランジのビデオにつきものだった時期があったからね。そういうネタで遊んで自分たちのビデオに取り入れるのは楽しかったよ。ビデオのプロダクションとプランニングが膨大な量だったのは確かだけど、臨機応変に色んなアイデアを入れ替えてトライしたんだ。すごく楽しい経験になった。



─アルバムは前作に続いてパトリック・ウィンバリーとの共同プロデュースですが、レコーディング中の役割分担はどんな感じだったんですか?

ベン:実は今も意味がわかっていない肩書が多いんだ。今回は今までよりも役割分担が曖昧だった気がする。みんな参加して色んなものをトライしてくれたから、全体的にコラボ度が高いように感じられたんだ。ある意味アンドリューも僕もあまり用心深くなかったというか、何が起こるかについて、よりオープンな気持ちになっていた。と言いつつ、パトリックには人々をまとめる才能があるということは強調しておきたいね。プロデューサーとしての彼の一番の強みだと思う。みんながクリエイティヴな気持ちになれるようにする雰囲気作りがとてもうまいんだ。こんなことでもなければ集まらないようなメンツを一堂に会させることができるしね。すごく助かったよ。

─「Phradie's Song」と「Loss Of Life」で共同プロデューサーとしてクレジットされているダニエル・ロパティンは、他の曲でもアディショナル・プロダクションで参加していますね。彼とはどんな風にコラボを進めていったんですか?

アンドリュー:彼の音楽のことは前からふたりとも知っていたんだ。僕も結構前からファンだったしね。と言ってもワンオートリックス・ポイント・ネヴァーはすごくミステリアスで、存在は知っていても、その音楽の裏にいるのがどんな人なのかとか、何の情報も持っていなかったんだ。確か2022年4月だったと思うけれど……コロナ禍以降初めて夜遊びに出たとき、すごく据わりが悪くて、とにかくその場に居たくなくなってしまったところに出くわした男と、結局ひと晩じゅう話していたんだ。社会的な不安を払拭するために知り合いと旧交を温める代わりにね。その男がパーティから出ていったとき、友だちに「あれは誰だったんだ?」と訊いたら、「そういや君、ダンと話していたよね」なんて言われてさ。それでダン・ロパティンだったと気づいたんだ。まったく見当がつかなかったよ。翌日共通の友人と一緒に会ってまた語り合った。それから間もなくお互い誘い合って、このアルバムでコラボするようになったんだ。いくつか曲を聴かせた後でね。楽しかったよ。

─嬉しい偶然ですね。彼とは年齢も同じだし、音楽観も近いところがあるのでは?

アンドリュー:そうだね。彼は僕とまったくの同い年で、同じようなポップ・カルチャーのバックグラウンドを共有しているんだ。受けてきた影響は色々違うところもあるけど、ベンもダンも僕も難解な音楽の穴にハマる傾向があると同時に、ポップ・ミュージックだったり、90年代の音楽やカルチャーへの嗜好も維持している。



─「Phradie's Song」でうれしかったのは、ブリッタ・フィリップスが参加していることです。彼女のことはルナやディーン・アンド・ブリッタで知ったと思うのですが、どの辺で接点があったんでしたっけ?

ベン:彼女は『Congratulations』に参加してくれたソニック・ブームの友だちで、実はその頃出会ったんだ。あのアルバムの1曲目「It’s Working」に参加してくれた。まあそんな感じで昔からの付き合いだから、今回も参加してもらうのは自然な形だった。レコーディング・プロセスの終盤に彼女にトラックを送ったら、すぐにヴォーカル・アレンジを考えてリモートで送り返してくれて、すごくクールだった。本当にステキな瞬間だったよ。

アンドリュー:そうそう。僕たちの方からは、細かい部分はおろか全体の方向性すらほとんど指示しなかったのに、様々なアイデアを考えてくれたから、それらをところどころに散りばめて曲を作ったんだ。

─なるほど。過去のコラボ経験が、今回あなた方が気に入りそうなものを作るのに役立ったのでしょうね。

アンドリュー:そうだね。僕たちが目指しているものに関して基礎的な知識があったんだと思う。

Translated by Sachiko Yasue

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