マネキン・プッシーが語る新時代のハードコア、アウトサイダーを鼓舞する怒りと祝福の音楽

バンドの音楽とアウトサイダーを結びつける絆

アメリカ版のローリングストーン誌だったと思いますが、あなたはインタヴューで、アウトサイダーだと感じながら育った経験を話されていますね。マネキン・プッシーはもちろん、オーディエンスを選ばないオープンな姿勢を持ったバンドだと思いますが、とくにアウトサイダーであると感じているリスナーと感情的につながりたいという想いはありますか?

MD:わたしたちのファンの大半はそういうことを感じていると思う。そもそもマネキン・プッシーのファンであるという時点で、何か自分に近いものを見つけたってことになるしね。「マネキン・プッシー」というバンド名自体がすでにチャレンジングというか、バンド名に「プッシー」が入っているってだけの理由で、わたしたちの音楽を聴かずに終わるひとがあまりにも多いんだよね。多くのひとにとって猥褻で、アーティスティックなヴィジョンや意図に欠けていると思われるから。でも音楽を聴けば、聴いた甲斐があると思ってもらえるはずだし、アーティスティックな意図も膨大にあるってわかってもらえると思うけどね。わたしたちは作品や、アーティストとして人びととコネクトする機会を与えられていることを、とても真剣に考えているから。バンドとしてのマネキン・プッシーと、わたしたちを見つけてくれたオーディエンスには、永遠に続くリンクがあるんだ。

―あなたの音楽が人びとにコネクトしているのと同様に、あなたも、バンドメンバーのみなさんも、音楽に励まされながらここまで来られたのではないでしょうか。先ほどのインタヴューのなかで、マクシーンがGoFundMe(クラウドファンディングのプラットフォーム)を通じて性別適合手術のための資金を集めようとしていること、ブルーカラーとして労働に勤しみながら音楽活動を続けてきたと語っているのを読みました。他のメンバーたちも音楽で食べていけるようになるまでいろいろ苦労されたと聞いています。音楽を聴くこと、音楽を作ることは、ご自身の人生に何をもたらしてくれたと思いますか?

MD:音楽は……わたしたちの人生のものすごく大きな部分を占めている。とくにここ数カ月間、もうすぐアルバムが出るという状況のなかで、そのことを忘れてしまっていたことに気づいた。前作から5年くらいになるけど、その間に、ジャーナリストたちに話をすることで作品を分析したり、深いところまで掘り下げるという経験をしていなかったから。人生の長い時間を費やして取り組んできて、身を捧げてきたものが、どれほど自分たちの時間を必要とするものなのか、どれほど存在が大きいものなのか、そしてどんどん築かれていくものだってことが、ここへ来てようやく見えてきたんだ。ものすごい特権だと思ってる。地球上には何百万というアーティストがいて、何かを作るという美しいことに身を捧げているけど、自分の作っているもののファンになってもらうというのは願望、夢だから。あるいは自分の曲にシンガロングしてもらったり、影響を受けてもらったりするというのは、強制してできることじゃない。わたしたちのバンドを信じて、わたしたちの人生に関わってくれて、このバンドを愛してくれるひとたちからのギフトなんだ。

―作った音楽がひとを励まし、その励まされたひとたちから励まされるギフトをもらえるというのはいい一巡感がありますね。

MD:そうだね。と言っても正直なところ、コアな部分では自分たちのために曲を作っているけどね。アルバムも作りたいから作っているし。それが自分たちのやるべきことだと思っているし、原動力でもあるし、アーティスティックな存在理由でもある。それにわたしたちは自分たちの好きなもの、自分たちのいまのテイストに合ったものを作っていて、それを気に入ってもらえるかどうかは予言できない。そこがギフトなんだ。自分たちのために曲を作って、それを他のひとたちも大好きになってくれることがね。そうなってくれるといいね……まだわからないけど(笑)。


Photo by CJ Harvey

―『I Got Heaven』は音楽的に広がりを見せたアルバムですが、やはりルーツであるパンクに対する忠誠心も感じられます。あなたがパンクを発見したことで得たものは何だったと思いますか?

MD:マネキン・プッシーが多分いま最高のハードコア・パンク・バンドであることに気づいた。伝統的なパンクやハードコア・バンドではないにも関わらずね。このアルバムにはハードコア・パンクに分類できそうな曲が3曲しか入っていないけど、その3曲で自分たちがこのジャンルでベストだって証明しているんだ。「ベスト」とか「ワースト」とか、競争ありきの言葉を使うのは普段はあまり好きじゃないけど、わたしたちのパンクのルーツや献身には強い自信を持っている。これもまた、自分たちが聴いて育ってきたパンクやハードコアに対する感謝の気持ちの表れなんだ。深い愛情と感謝の気持ちを持っているし、自分たちの魂の一部になっている曲を作るのは、わたしたちにとってとても大切なこと。手っ取り早くラジオでかかりそうな曲を作るんじゃなくてね。攻撃性を(暴力などの)伝統的な形以外で表現して、チャレンジングであり続けることはいまも大切なこと。



―最後に、いま、マネキン・プッシーとして目標としていることや野望について教えてください。

MD:ひとつのゴールは日本に行くこと(笑)!

―ぜひ来てください!

MD:わたしたちが見たことのない世界の場所を見に行くという意味でも、日本は間違いなくゴールのリストに入っているね。わたしたちは地球という惑星のファンだし、とくにアメリカ人としては、新しい場所に行って、いろんな街やカルチャーを見て、世界中の音楽ファンとコネクトできるというのは、とてつもなく大きな特権だと考えているんだ。この生業の一番美しいところはそれだよね。日本に行ってわたしたちの音楽をプレイするチャンスを得ることができたら、ものすごくラッキーに感じると思う。ゴールは……自分たちの最高傑作はまだまだ先という気持ちで、努力を続けていくこと。『I Got Heaven』が、わたしたちにとって音楽的に重要な時期になることを願ってる。わたしたちのクリエイティヴな魂にはまだまだできることがたくさんあるから、これからも作ったものをシェアしていけるようにね。

―ありがとうございました。日本での初のインタヴューということで光栄でした。

MD:そうそう! 日本初のインタヴューだったんだ! ありがとう!

―日本でマネキン・プッシーのライヴが見られる日が来るのを期待しています。

M:わたしたちも楽しみにしてる! (日本語で)ありがとう!




マネキン・プッシー
『I Got Heaven』
発売中
再生・購入:https://mannequinpussy.ffm.to/igotheaven

Translated by Sachiko Yasue

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