ExWHYZ『Dress to Kill』を考察「WACK流エモを引き継いだ現代R&Bの逸品」

ExWHYZ

WACK所属の6人組グループ・ExWHYZが、グループ初のバラエティアルバム『Dress to Kill』をリリースした。

大沢伸一のアンセムのカバー「Our Song [Prod.Shinichi Osawa]」、SeihoによるExWHYZの代表曲「ANSWER」のセルフREMIX、人気曲「Secret Secret [Shin Sakiura REMIX]」に加え、よりスィートでフロアライクなアレンジが施された「4:00 a.m [80KIDZ REMIX]」や、ジャジークラブ/ジャングルを取り入れた「D.Y.D [Miru Shinoda, Kento Yamada REMIX]」などのREMIXに加え、昨年開催されたロンドンでの初海外公演で披露された「Obsession [English Ver.]」などを収録。また「As you wish」「Our Song」「Unknown Sense」は現在活動休止中のmidorikoのVocalを追加レコーディングした6人による音源が収録され、更にもう1曲新曲としてmaho、mayuによる作詞の「Fleeting」も収録されている。本作について、気鋭のライターs.h.i.によるレビューで深掘りする。

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WACK流エモの文脈を踏まえたからこそ生まれた、現代R&Bの逸品

WACK流エモの文脈を踏まえたからこそ生まれた、現代R&Bの逸品。『Dress to Kill』の音楽性を一言で表すならそんな感じだろうか。各曲のスタイルはバラエティに富み、IDMやダブテクノ、ジャージークラブやオルタナティヴソウル、パンクがかったアイドルポップなど、様々なジャンルの要素が無造作に並んでいるようにも見える。しかし、それら全てに独特のささくれだった感傷が伴い、相通ずる雰囲気が漂っていることもあってか、アルバム全体には優れた統一感が生まれている。これを可能にしているのがWACKならではのコード感や歌声と、そこから立ち現れる固有のエモさだろう。ありそうでない配合を絶妙なバランスで成立させた、見事な仕上がりの作品だ。

先に「WACKならではのコード感や歌声」と述べたように、この音楽プロダクションに所属するグループは、アウトプットの仕方はそれぞれ異なるものの共通する音楽スタイルを持っている。これは、BiSやBiSH、GANG PARADEの楽曲の大部分を松隈ケンタがプロデュースしてきたのはもちろんのこと、他グループもそのイメージを少なからず引き継いでいるのが大きいだろう。ポップパンクやメロコア、ポストハードコアやメタルコアなど、様々なジャンルの「エモ」要素をアイドルポップと融合した作編曲は、「WACK流エモ」と言えるくらい強固な個性を確立し、各グループの音楽的な軸になっている。例えば、BiS初期の名曲「PPCC」(Deftones-coreやニューコアを先取りしたような音作りが凄い)はその好例、BiSHは70年代パンク〜80年代ハードコア寄りの意匠、GANG PARADEはEDM成分を加えどっしりさせた装い、豆柴の大群は初期パンク的なささくれとエレクトロな煌びやかさをともに前面に出している……というふうに。

ExWHYZの前身グループであるEMPiREは、初期は上記グループに近いロック寄りの路線だったが、活動を続けていくなかでクラブミュージック方面の要素が徐々に加わっていき、2022年の解散・改名後は大幅にエレクトロ度を増すことになる。そのスタイリッシュな佇まいは従来のWACK所属グループと一線を画すものだが、それでいてWACKならではのエモ感は確かに引き継がれ、他の音楽からは得られない滋味になっている。WACKの流れにあるからこそ可能な、クールなオルタナティヴR&B。片方の系譜は好きだけどもう片方には抵抗がある、という人にこそ聴いてみてほしい音楽だ。



『Dress to Kill』(着飾る、カッコつけるの意)は、ExWHYZの既存曲のリミックス版と新曲をまとめたバラエティアルバムで、上記のような音楽性の変遷を踏まえつつ、明確に現代R&Bの流れを意識した装いになっている。例えば、「Secret Secret」の原曲はJ-POP寄りのR&Bだったのが、今作のShin Sakiura REMIXではNewJeansの多彩なビートを1曲に集約したようなアレンジに変化、コード感もそれに合わせて絶妙に改変されている。「ANSWER」のSeiho REMIXは、原曲のダブステップ感を引き継ぎつつシンセウェイヴ的な仄暗さを大幅増量し、歌詞の陰翳を異なる方向に深めている。「4:00 a.m」の原曲はコード感(いわゆる丸サ進行)もあってかエレクトロファンク〜NJS的な印象が前面に出ていたが、80KIDZ REMIXはY2Kリバイバルを経た近年のR&B(FLOあたり)を想起させる機敏なR&Bに変化。また、原曲では重厚なディープハウスだった「D.Y.D」のMiru Shinoda, Kento Yamada REMIXは、maison book girlやOneohtrix Point Neverにも通ずるキュートかつエキセントリックな仕上がりになり、弾けながらもハイパーポップというところまではいかないクールな潤いを示している。

以上のような配合のニュアンス表現は、生え抜きのR&Bやクラブミュージックからはなかなか得られないもので、それがインダストリアルメタル+ダブテクノ風の「Unknown Sense」などにも滑らかに繋がるのは、先述のWACK流エモ感が共通の出汁または接合部となっているのが大きい。そうした兼ね合いをよく示しているのが、大沢伸一「Our Song」(原曲では作詞と歌唱を難波章浩が担当)のカバーだ。ポストロック風味を減らしつつクリーンさを増したプロダクションは、Neu!とSuicideの間にあるようなポストパンク感を活かしつつ、他曲の現代R&B路線と並べても違和感がないサウンドになっている。ExWHYZというグループの在り方そのものもよく示す、大変優れたカバーだと言える。





『Dress to Kill』がもう一つ興味深いのは、以上のように攻めた装いをする一方で、アルバムの最後にはWACK系の初心に立ち返ったような楽曲が置かれていることだろう。バンドセットのスロウな「As you wish」も、伝統的なアイドルソングをクールなR&Bに落とし込んだような「Fleeting」も、ここまでで述べてきたような複雑なニュアンス表現を踏まえたうえで、理屈抜きに楽しめる仕上がりになっている。ブレイクコア的な「Dresscode」で幕を開け、IDMとダブテクノを融合した趣の「Obsession」なども織り交ぜつつ柔らかい雰囲気を増していき、最後には親しみやすいポップスに着地する構成は、ExWHYZというグループの音楽的な文脈をとてもよく示している。そうした多彩なサウンドに寄り添うボーカルの表現力も見事。様々なジャンルの音楽ファンに聴いてみてほしい、素晴らしいアルバムだ。



<リリース情報>



ExWHYZ
ヴァラエティアルバム『Dress to Kill』
2024年3月20日リリース
https://lnk.to/ExWHYZ_0320AL_ec
【初回生産限定盤】UPCH-29471 / ¥10000+税 (税込¥11,000)
【DVD盤】UPCH-20668 / ¥6000+税 (税込¥6,600)
【通常盤】UPCH-20669 / ¥2727+税 (税込¥3,000)

<ライブ情報>

ExWHYZ TOUR 2024 'Futura Free'
2024年5月4日(土)UMEDA CLUB QUATTRO [大阪]
2024年5月5日(日)Takamatsu festhalle [香川]
2024年5月11日(土)NIIGATA LOTS [新潟]
2024年5月18日(土)LIVEHOUSE evoL [福岡]
2024年5月19日(日)CAPARVO HALL [鹿児島]
2024年5月26日(日)HEAVEN'S ROCK UTSUNOMIYA VJ-2 [栃木]
2024年5月31日(金)HEAVEN'S ROCK SAITAMA SHINTOSHIN VJ-3 [埼玉]
2024年6月2日(日)PENNY LANE 24 [北海道]
2024年6月8日(土)1000 CLUB [神奈川]
2024年6月15日(土)KYOTO MUSE [京都]
2024年6月16日(日)LiveHouse Hamamatsu Madowaku [静岡]
2024年6月27日(木)DIAMOND HALL [愛知]
2024年6月29日(土)club JOULE [大阪]
2024年6月30日(日)CRAZYMAMA KINGDOM [岡山]
2024年7月6日(土)EIGHT HALL [石川]
2024年7月13日(土)Morioka CLUB CHANGE WAVE [岩手]
2024年7月14日(日)Music Showa SESSION [山形]
2024年7月15日(月)Rensa [宮城]
2024年7月28日(日)mito LIGHT HOUSE [茨城]
2024年7月31日(水)Zepp Shinjuku [東京]

ExWHYZオフィシャルHP https://www.exwhyz.jp/

Rolling Stone Japan 編集部

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