ノラ・ジョーンズ語録で辿る音楽的変遷 共同制作者とともに刷新してきた「彼女らしさ」

新しいサウンドへの挑戦

リーとの別離を機に、ノラは新しいミュージシャンやプロデューサーと新しい音楽を作るべく動き出した。そして見つけたのがジャクワイア・キング(トム・ウェイツ、モデスト・マウス、キングス・オブ・レオン)。彼や新しいミュージシャンたちと組んでサウンドの意匠を大きく変化させ、歌い方までも少し変えた4作目『The Fall』(2009年)を完成させた。

「(『The Fall』の)サウンドのアイデアは私の頭の中に漠然とあったけど、誰がそれを実現してくれるかわからなくて。まず私の考えを整理して形にできるプロデューサーを見つけることが大事だった。そんなときにジャクワイアを見つけたの。大好きなトム・ウェイツの作品を手掛けているのは誰だろうとクレジットを見たら、彼だったのよ」。

「ジャクワイアはプロデューサーである前にまず素晴らしいエンジニアだから、それまでの私の作品に関わってくれた人たちとはまったく違う視点を持っていた。その上、彼はユニークな人脈を持っていて、何人かのいいミュージシャンを連れてきてくれた」。




ジャクワイアの声かけで、ジェイムス・ポイザー、マーク・リーボウ、ジョーイ・ワロンカー、ジェイムス・ギャドソンといった実力者たちが揃い、4つのバンドに分けて録音されたこのアルバムは、とりわけ1曲目「Chasing Pirates」と2曲目「Even Though」におけるドラム・ループ、R&B的なグルーブと、ポップなメロディの融合が新鮮だった。またノラは2008年に遊びで組んだプスンブーツ(ノラ、サーシャ・ダブソン、キャサリン・ポッパー。アルバムデビューは2014年)でのライブ活動も始めており、サーシャからエレクトリック・ギターを習ってもいたため、ロック的な表情を持った曲もいくつかあった。このときノラは30歳。髪を切り、犬を飼い、新章のスタートを楽しんでいた。

『The Fall』に参加した、だいぶ年下の作家と恋に落ちたりもした。がしかし、すぐに破局。その混乱、傷み、怒り、苦悩、後悔といったネガティブな感情をそのまま歌詞と曲調に反映させて作ったのが5作目『Little Broken Hearts』(2012年)だ。かつてないほどダークで生々しいこのアルバムのプロデュースを手掛けたのはデンジャー・マウスことブライアン・バートン(ナールズ・バークレイ、ゴリラズ、ベック、ブラック・キーズ)。デンジャー・マウスとダニエル・ルッピが組んだ架空のサウンドトラック盤『Rome』(2011年)にノラが参加して3曲歌ったことがきっかけだった。

「もちろんナールズ・バークレイもゴリラズも聴いていたけど、私はとりわけブライアン(デンジャー・マウス)がスパークルホースと作った『Dark Night of The Soul』が大好きだった。『Rome』を作っているときにも思ったんだけど、私はブライアンの作るメロディの世界観がとても好きなの。彼はプロデューサーとしてよく知られているけど、その前に素晴らしいコンポーザーであり、ソングライターであり、しかもストリングスの取り入れ方が上手いアレンジャーでもあるわけ。彼は単にプロデュースをしたい人ではなく、初めから曲の全てに関わりたいと考える人」。




どういった作り方をしていったのかと尋ねると、ノラはこう答えた。

「今までの私のアルバムとはまったく違う作り方をした。ブライアンと一緒にスタジオに入って、ゼロから作曲していった。そしていろんな楽器をふたりで弾き、その曲に合う音の方向性を探りながら作っていった。今まではまず曲作りを集中してやって、それからバンドメンバーたちとスタジオに入って演奏するやり方だったから、今回の作り方は私にとって未知の体験であり、それはすごく楽しかった」。

この作り方は、そう、リオン・マイケルズと作った新作『Visions』と一緒である。改めて後述するが、『Visions』も「(リオンと)ふたりでいろんな楽器を弾き、その曲に合う音の方向性を探りながら作った」アルバムだった。そういう意味で、『Little Broken Hearts』の制作体験における手応えがなければ『Visions』も生まれなかったかもしれないと、そんなふうにも言えるだろう。

『Little Broken Hearts』はそのように常道を大きくはみだし、インディーロック的風合いの奔放でささくれ立った作品になった。この頃のノラはエレクトリック・ギターを弾きながら新しい音像で遊ぶのが楽しくてしょうがないといったふうだった。

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