DJハリソンが語る 古いレコードの質感を追い求め、アナログの魔法を今に蘇らせる美学

溢れ出るヴィンテージ愛、ジャック・ホワイトへの共感

―あなたの活動拠点であるホームスタジオ「Jellowstone」の特徴を聞かせてください。

DJハリソン:昔のレコードのサウンドを再現することに取り組んできた僕が辿ってきた道が垣間見れるという意味で、僕を象徴している存在と言えるかな。ここにはヴィンテージの機材やピアノもたくさんあるけど、結局、僕にとっては今までずっと聴いてきたレコードのサウンドを追い求めている場所なんだ。例えるなら、作家が図書館を訪れるみたいな。目指しているものに向き合う自分へ影響を与えてくれるツールに囲まれていたいという感覚だよ。


Jellowstoneにて撮影された、『Shades of Yesterday』収録曲「Galaxy」の解説動画

―ヴィンテージの機材を多く使ってきた印象ですが、スタジオの機材面での特徴は?

DJハリソン:このスタジオにはローズやウーリッツァー、ドラムセット、マイク2本、プリアンプも2台、それにコンプレサーやテープ・マシーンなどなど、色々ある。僕は昔から自分が愛してやまないもの、つまりレコードに興味があって。そのレコードがどうやって録音されたのかを学べる環境を整えておきたいんだ。レコードに入っている美学を学べるようにね。もちろん、今はデジタル化されたツールもたくさんあって自由に使えるし、僕もそういった機材を使うこともある。それでも本質を忘れてはいけないと思うんだ。一つの曲やサウンドを作り上げるには、管の中を電源が流れてそれが配線に伝わることで、はじめて大きな音を出すことができる、っていう仕組みがあることをね。

―そもそもテープマシーンのようなアナログの機材にのめり込んだ理由は?

DJハリソン:それは僕自身がカセット、CD、レコードのようなフィジカル・メディアを聴いて育ったからだよ。このアルバムの録音にはああいう機材が使われたんだな、ってことにずっと興味があった。それに当時のレコードの多くにはノイズが乗ってるし、カセットにはヒスノイズがある。僕はそれを聴き慣れているんだ。7、8歳の頃からそういったノイズも聴き取りたいと思っていた。それも音楽の一部だからね。僕はちょっとでもヒスノイズがないと耐えられない人間なんだ(笑)。

―ブッチャー・ブラウンでもフィジカル・メディアでのリリースにこだわっていますよね。

DJハリソン:僕たちメンバーは世代的にみんなカセットやCD、レコードがある環境で育ったから、音楽を聴きながら実際に手にとって眺める物があった体験を憶えている。リスナーとして繋がりを感じる何かがそこにはあったんだ。知りたいことは全部スリーヴの後ろとかに書いてあって、今で言うWikipediaのミニ版とかウェブサイトで入手するような情報が全部そこに収められていて、時には挿絵とかポスターがおまけで付いてたり。それはモーメントなんだよね、すごくリアルな瞬間がそこにはある。僕はそういう感覚を通じて、人の心を動かしたいと思っている。

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―話を戻すと、ヴィンテージ機材を使ったあなたのサウンドには独特の質感がありますよね。録音やミックスへのこだわりも聞かせてもらえますか?

DJハリソン:アーティストやバンドと曲に取り組んでいる時、僕は古いレコードが持ってる雰囲気も含めて再現したいと思ってる。雰囲気って歌だけじゃなくて、実際の素材の情報であり、それには元の曲への忠実性も関係してくる。ドラムのサウンドをもう少し暗めにしたいとか、キーボードはもう少しノイジーな感じにしようとか、このサウンドは通常より少しダーティーな感じにしたいな、ってこと。誰かと曲作りをする時、僕は一緒にレコードを聴く。そして、雰囲気が掴め始めたら「じゃ、このレコードをガイドにやってみよう」って感じで制作を始める。今回の『Shades of Yesterday』もそうだったけど、僕としては常に単純な音楽的情報に限らず、忠実性とか音質も追い求めたいんだ。自分が愛してやまないレコードのサウンドに対して、自分の耳を微調整しながら、さらに一歩踏み込んだ(自分自身の)サウンドを追求したいと思っている。

―そういう忠実性みたいなものって、ヒップホップにおけるサンプリングのカルチャーとも通じるものですよね。サンプリングの魅力はどこにあると思いますか?

DJハリソン:伝統を存続させているところかな。サンプリングによって、今日リスペクトされているプロデューサーたちに影響を与えた過去のレコードの存在が伝えられることになる。当時の音楽をリサイクルして、それを再び第一線に持っていくって感じだよね。サンプルされた曲の中には当時、その良さがあまり評価されなかったものもある。でも、誰かがそれをサンプリングしたり、ビートに乗せたりすることでそのレコードも脚光を浴びることもある。だから僕も「あれ、この曲の良さは僕には伝わったけど、アーティスト本人が思っていたようには一般には理解されなかったんだろうな」って曲に出会うと、アレンジし直したくなるんだよね。

―サンプリングされたジャズ、ソウル、ファンクの曲の中で特に好きな曲があれば教えてください。

DJハリソン:例えばエディー・ヘンダーソン。今回のアルバムでも「Galaxy」っていう曲をカバーしてるけど、他にも「Inside You」がよくサンプリングされてるね。




―ブッチャー・ブラウンもまた、サンプリングやレコード・ディグのカルチャーと強い関係をもつバンドですよね。

DJハリソン:ヒップホップを植物に例えると、ブッチャー・ブラウンはその地中に伸びる根っこの枝分かれした1本みたいなもの。僕たちはバンドとして、ヒップホップのビートメイクやサンプルのリクリエイトとか、そういうことに大半の時間を費やすこともできる。でも、僕が常に大事にしているのはリサーチ的な側面なんだ。僕らはヒップホップのカルチャーに貢献したいと思っているし、求められている形があればそれに応えたいと思っているよ。

―ヴィンテージ機材へのこだわりと言えば、ジャック・ホワイトの『Boarding House Reach』(2018年の3作目)に参加していましたよね。

DJハリソン:ジャックはすごく自分の音楽にこだわりを持っているアーティストなんだ。全てアナログで録音するし、バンドに対してもこのキーボードを弾いて欲しいとか、ギターはこれで、みたいに細部までとことんこだわっていた。でも、そもそもアルバムってそうあるべきなんだよね。リスナーが耳にするのは完成品なんだから、それを完璧な形で完成させるためには「マイクを何フィート離してほしい」「ドラムのサウンドはこれで」「テープ・マシーンはあの位置で」とか、すべてわかっている必要がある。あの時は後ろの方で座って眺めがら、「あんなすごいレベルになっても、クオリティにこだわる人なんだな」って感心していたよ。


Translated by Aya Nagotani

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