DJハリソンが語る 古いレコードの質感を追い求め、アナログの魔法を今に蘇らせる美学

原曲への愛ゆえのリサーチ

―本題の『Shades of Yesterday』について。まずはコンセプトから聞かせてください。

DJハリソン:簡単に言ってしまうとリサーチのためだよ。僕はオタクだからね。カバーをやるのが好きな理由は、さっきも話したように音楽的情報への興味もだけど、それだけじゃなくて原曲への忠実性、そしてレコードの持つ音質がすごく好きだから。例えば70年代のスライ・ストーン、80年代のプリンスやスティーリー・ダンみたいなサウンドをスタジオで再現できたらとよく思うんだ。それで練習のつもりで何曲かカバーしてみたら、レーベル側が「これめちゃいいじゃん、リリースすべきだよ」となってね。僕は「え、マジで? ラフに録っただけだし、自分でボーカルまで入れちゃってるけど」って思ったけど、「いやいや、最高だよ」と言われてリリースに至ったんだ。実は録りためているカバーはまだたくさんあるよ。

―選曲はどんな基準で?

DJハリソン:子供の頃から今に至るまで、自分が聴いてきた色んな音楽をバランスよく選んだって感じかな。若い頃はもちろんだけど、今こうして1人のミュージシャン、ソングライター、プロデューサーとして活動している僕にとって、これらの曲はボーカルや作曲、音響的な面で僕自身のスタイルを具体化する手助けをしてくれたものだと思う。ひとつのジャンルに絞ったカバー集を出すこともできたけど、最終的には異なるジャンルのサンプル・パックみたいなセレクトに落ち着いた。バラエティに富んでていい感じだよね。


Photo by Eric Coleman

―それぞれの曲についても聞かせてください。まずはビートルズの「Tomorrow Never Knows」。

DJハリソン:高校時代につるんでいた仲間たちの影響でロックに興味を持つようになって、レッド・ツェッペリンやビートルズを知ったんだ。『Let It Be』とか『The White Album』、あと『Abbey Road』といった「これぞ重要作」って感じのを聴いていた。その中でも最初に興味を持ったアルバムが『Revolver』で、「Tomorrow Never Knows」にすっかり心を奪われたんだ。ディアンジェロの『Voodoo』でもラッセル・エレヴァードがテープを逆回転させたり、裁断したり様々なテクニックを駆使してるけど、ジミ・ヘンドリックスやビートルズもやってたことなんだよね。そんな録音に出会ったのは『Revolver』が初めてだったから、とにかく聴き込んだよ。「どうやってやったんだろう? 60年代にこんなことしてたのかよ!」って感じで、本当に驚きの連続だった。そのせいで僕の家がテープ・マシーンだらけになったんだ(笑)。



―次は、ドナルド・フェイゲン「IGY」。

DJハリソン:スティーリー・ダンも子供の頃からよく聴いていた。ドナルド・フェイゲンは完璧主義者として有名で、とことんクリーンなサウンドを追求するアーティストだよね。2018年だったかな、僕は(ブッチャー・ブラウンで)スティーリー・ダンのオープニング・アクトを務めたことがある。『The Nightfly』を聴きまくっていた自分が本人に会えたんだ。僕にとっては特別なアルバムだ。彼のソロ初の作品だし、スティーリー・ダンのアルバムではないけど、どこか“イズム”みたいなのが感じられた。プロデューサーも同じゲイリー・カッツだったし、ホーンセクションもスティーリー・ダンのアルバムと同じメンバーだったしね。あれがリリースされたのは1982年だけど、僕がこのレコードに出会ったのはそれから6年後だった。初めて聴いた時、これが当時の最新テクノロジーなんだなって感慨深かったよ。今聴いてもその雰囲気は感じ取れると思う。




―では、シュギー・オーティス「Pling」は?

DJハリソン:シュギーのアルバム『Inspiration Information』のサウンドを、この曲を通じて体験してみようと思ったんだ。シュギーが全ての楽器を自分で演奏した最初のアーティストの一人であるということを忘れてはいけない。プリンスもそうだったし、今もそういった多才なアーティストはいるけど、シュギーは特別な存在なんだ。当時を振り返ると、いろんなヒップホップのアーティストたちがシュギーの作品からサンプリングしまくっている。みんながこぞってサンプリングしていた音は、シュギーがたった1人で演奏していたものなんだよね。




―今回、最も変わった選曲はゲイリー・ウィルソン「You Were Too Good To Be True」だと思います。

DJハリソン:マッドリブの曲でサンプリングされていたのを聴いて、どの曲か調べていく中でゲイリー・ウィルソンがStones Throwと繋がりがあったことがわかった。それでサンプルされた部分だけじゃなくて曲全体を聴いてみたら気に入って、これで一曲作ってみようってなったんだ。これこそリサーチの結果だね。





―意外だったのが、ジャズ・ピアニストのヴィンス・ガラルディ「Lil Birdie」です。

DJハリソン:僕は『チャーリー・ブラウン』を観て育ったんだ。だからヴィンス・ガラルディは子供の頃の思い出のサウンドだよ。毎年クリスマスには『チャーリー・ブラウン』のクリスマス・スペシャルを欠かさず観ていた。感謝祭の時に観ていたサンクスギビング・スペシャルで「Little Birdie」が流れてたんだ。両方とも必ず毎年観ていたね。お皿にロースト・ターキーを用意して、マリファナ片手に食べながら『チャーリー・ブラウン』を観て、ヴィンス・ガラルディが「Little Birdie」歌ってるのを聴くぞって感じだね。




―オハイオ・プレイヤーズが2曲も入っていたんですが、これはどういうことですか?

DJハリソン:オハイオ・プレイヤーズはよく両親が家でかけていたんだ。僕にとって彼らはソウル・ミュージックとブルース、ゴスペルっていう、いわば音楽のスピリチュアルな側面を融合させているグループって印象なんだ。それとリッチモンドでMontrose Recordingっていうスタジオを経営していた友達がいて、彼は60年代にオハイオ・プレイヤーズのレコードが録音されたフリッキンガーっていうミキシング・コンソールを持ってた。彼がLAに引っ越したんだけど、彼がまだリッチモンドにいる時に僕も自分でその卓を使ってたくさんレコーディングさせてもらったんだよね。

―最後に、ずっとリッチモンドに住んでいますよね。NYやLAに出ていくミュージシャンも多いなか、リッチモンドにこだわる理由はどんなものですか?

DJハリソン:自分が育ったコミュニティに囲まれていることが理想なんだ。このコミュニティは僕の活動も応援してくれているし、みんな子供の頃から一緒に育った仲間たちだしね。僕自身はこうして、音楽の世界でうまくやれてることを本当にありがたいと思っているけど、ここでは子供の頃からこの街で共に育った仲間たちも、この地に留まることを選択して、みんなそれぞれ違う分野で同じように頑張っているんだよね。それに僕の家族も全員リッチモンドにいる。僕は一人っ子だし、この歳になるとやっぱり母や祖母の生活を守らなきゃって考える。最終的には自分の家族を大切にしたいし、僕をずっと育ててくれたこのコミュニティのことも大事にしたいんだ。僕がこうして好きな仕事で頑張れているのも彼らのおかげだからね。だからしっかり恩返しをしたいんだ。




DJハリソン
『Shades of Yesterday』
再生・購入:https://sthrow.com/shadesofyesterday

Translated by Aya Nagotani

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