金、セックス、スポーツ賭博...米球界から永久追放されたギャンブラーの自堕落な生活

ピート・ローズ

MLBを揺るがした大谷翔平の元通訳、水原一平容疑者のスキャンダル。米現地時間3月25日、メジャー史上もっとも悪名高きギャンブラー、ピート・ローズはインターネットに投稿した動画でこう語った。「70年代や80年代、自分にも通訳がいたら見逃してもらえただろうな」

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ローズは都合よく事実を無視しているが、取り巻きを介して大金をギャンブルにつぎ込み、それを何年も続けていた。本人も認めているように、自分が監督していたチームの試合にも賭けていた。そのためMLBは歴史に残る名選手を永久追放してスキャンダルにふたをしたが、野球とファンの関係は根本から変わってしまった。ローズは白人選手で揃えたレッズで采配をふるっていた時代をさして皮肉を言ったつもりだろうが、それもある程度は身から出たさびだ。
ローズの自堕落ぶりをMLBは何年もほったらかしにしたが、FBIが絡んだために対処せざるを得なくなり、ローズはスターの座から転落した。野球を包んでいた神聖さは吹き消され、ファンは裏の事情を勘ぐり続けるという疑念の構図が出来上がってしまった。近年大リーグが両手を広げてギャンブルを推奨し始めたことが、大谷の騒動をとりわけややこしくしている。水原が最初にギャンブルの味を覚えたというアプリDraftKingsは、かつてMLBにとって貴重なパートナー企業だった。やがてFanDuelがそれに取って代わり、今ではチームの公式SNSが投稿するハイライト映像の隣にスポーツギャンブルのオッズが表示されている。全くなんとも嘆かわしい。

構図はがらりと様変わりしたが、昔からギャンブルは野球の一部だった。メジャーリーグ黎明期を体系的にまとめたジョン・ソーン氏の著書『Baseball in the Garden of Eden』には、国民的余暇の発達について明白に記されている点が1つある。とくに成人の間では、スポーツの人気とギャンブルは密接につながっていた。初期のスポーツは、ケン・バーンズのマンドリンをBGMに思い浮かべるような健全のどかなものではなかった。賭けの材料を与えて甘い蜜を搾り取る以外に、あらゆる統計を取って選手データを印字する理由が他にあるだろうか? すべてはギャンブルのためだ。

20世紀、野球がアメリカ人のメンタリティに深く浸透していくにつれ、世間はこの事実を忌み嫌うようになった。ブラックソックスのスキャンダルがあり、同じく球界の恥さらしとなったタイガースの大打者タイ・カッブも別の八百長事件に手を染め、もはや手に負えない状況だった。MLB初代コミッショナーを務めたケネソー・マウンテン・ランディス判事は汚辱の一掃を図り、ブラックソックスを永久追放するとともに、選手に対しては野球賭博を禁じ、プロスポーツとしての新たな道筋を示した――賭けの対象になるような低俗な楽しみではなく、守るべきアメリカの権威に生まれ変わらせたのだ。やがてベーブことジョージ・ハーマン・ルースが登場してホームランを量産し、マスメディアをにぎわせた世界初のスター選手となり、「ヒーローの時代」を築いた。

だからといって野球賭博が収まり、メジャーがギャンブラーの利益に背中を向けたわけではない。選手データはなおも公表され、賭博先の話題も看過されていた。だが以前は大っぴらに行われていたのが、口にするのが憚られる厄介事となった。そんな状況でピート・ローズはプロ選手としてデビューした。そうした状況は、キース・オブライエン氏も著書『Charlie Hustle: The Rise and Fall of Pete Rose and the Last Glory Days of Baseball』で書いているように、のちにローズによってぶち壊されることになる。

Akiko Kato

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